knowledge openspace 知の広場

米国企業の海外収益還流は何をもたらすか

caruso_frank_WA2.jpg
フランク・カルーソ 
アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー
米国成長株式運用 最高投資責任者
 
 
 
 
paul_joseph_WA2.jpg
ジェリー・ポール 
アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー
米国バリュー株式運用 最高投資責任者
 
 
 
 
 
 

PDF版をご希望の方はこちら pdf

2017年7月6日

 

もし米国企業が海外に保有する莫大な現金の米国還流を促すことができれば、国内の雇用促進と景気拡大の原動力となり得るだろうか?残念ながら、そんな甘い期待は抱かないほうがいい。それでも、株主はある程度恩恵を受ける可能性がある。
 
トランプ政権は米国企業が海外で保有する推定2兆米ドルの「現金」に注目している。米国の税法上の規定によれば、米国企業は海外子会社の収益に関し、各子会社に再投資している扱いとすることで、米国での課税を繰り延べることが出来る。そのため、実質的には米国企業の収益である「現金」が海外で積み上がっているのだ。
 
しかし、そうした収益は、一般的に解説されているように海外で「囚われている」わけではない。2011年に27社を対象に行われた米上院の調査報告によると、アップル、グーグル、マイクロソフトを含む海外留保額上位9社は、海外で生み出した現金の75%から100%を米国の銀行で米国資産として預けていた。つまりこれは、親会社に収益を移転すると、繰り延べられた税金を支払う必要が生じるために、親会社が直接資金を使うことができないというだけのことなのだ。
 
米国の政治家はこのような海外留保の自国還流の促進を、長年にわたり画策してきた。トランプ大統領の案は、海外から還流する所得に対し1回限りで10%の課税を行うというものだ。ポール・ライアン議員は一連の税制改革案の中で、8年間にわたり最大8.75%の税率で還流できるようにすることを提案している。
 

資金不足ではない

海外収益の還流に対する優遇税制の賛成派は、資金移動を阻害すると、米国内での雇用創出に繋がる多国籍企業による投資が抑制されてしまうと論じている。しかし、米国企業にとって、資金調達は問題ではない。特に海外留保が合計5,120億米ドルに上るテクノロジー大手5社のような大企業にとっては、全く問題ない。そもそも各国中央銀行による前例のない大規模金融緩和政策の結果、世界的に潤沢な流動性が確保されている。
 
金利は引き続き低水準にあるため、海外留保の多い企業はむしろ借入を行なっている。例えば、アップルは2013年に総額170億米ドルの社債を、10年物換算で平均利回り2.4%という条件で発行している。これは費用控除ベース(支払い金利は費用算入できるため)では僅か1.57%ということになる。つまり、アップルは国内投資や自社株買いに海外留保を充てる必要がなかっただけでなく、収益を還流した場合に課される税率より遥かに低いコストで資金調達が出来たことになる。不足しているのは資金ではなく、魅力的な投資機会なのだ(図表)。
 
 
 
 
 
投資抑制の原因は資本不足ではない.png
 
 
 

いつか来た道

実は同じような政策が以前にもあった。2004年に米議会は本国投資法を時限立法で制定し、1年限りで海外資金を国内に還流した時の実効税率を5.25%に下げた。ただし、そこには還流された資金が米国民の雇用や米国内におけるインフラ投資、ないし研究開発に充てられる場合にのみ適用されるという条件がついていたのだが、実際には、還流された資金はそうした目的には使われなかったという指摘がある。
 
内国歳入庁(IRS)によると、当時、資金を本国に還流させた米国企業は、海外子会社を持つ9,700社のうち僅か843社に過ぎなかった。また、この優遇措置を活用した企業ですらも米国内投資を大幅に増やすことはなかった。米上院常設調査小委員会によると、時限立法期間の1年間に総額1,500億米ドルが本国に還流されたが、還流金額上位15社の米国従業員数は2004年から2007年の期間で純減していた。更に、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学の研究によると、還流金額は株主配当金の増加額とほぼ一致していた。
 
仮に今回トランプ政権で資金還流の優遇税制が実現した場合にも、2004年に起きた現象がそのまま繰り返されるのではないかと考えられる。つまり、還流した現金の大部分は自社株買いや企業買収に使われる可能性が高い。仮に優遇措置が米国内での投資を適用条件としていたとしても、前回同様、実際には資金が米国内投資に向かわない可能性が高い。結局、お金に色は付いていないので、海外から還流した資金は、現在国内投資に用いられている資金と入れ替わり、それにより他の目的で使える資金は増加するだろうが、結局それは配当や自社株買いや企業買収に回されてしまうだろう。
 
これは、株主にとっては朗報かも知れない。それでもなお、現在の株価バリュエーションを考慮すると、企業がどのように資金を使い、それが長期的な企業価値にどのような影響を与えるか、個別企業ベースで評価する必要がある。経済全体の浮揚効果を期待していると、残念な結果に終わる可能性がある。
 
 
 
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

https://blog.abglobal.com/post/en/2017/05/repatriation-reality-check

 

 

 

 

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスの過去のパフォーマンスは将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。 
 
当資料は、2017年6月1日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタインおよびABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
 
 

 

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@abglobal.comまでお寄せください。

 

 

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号 
【加入協会】一般社団法人投資信託協会/一般社団法人日本投資顧問業協会/日本証券業協会/一般社団法人第二種金融商品取引業協会
http://www.alliancebernstein.co.jp

 

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており、勧誘を目的としたものではありません。特定ファンドの取得をご希望の場合には当該ファンドの目論見書をご覧いただき、投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いします。下記の内容は、ファンドをお申込みされる際に、投資家の皆様にご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。
 

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。


お客様にご負担いただく費用:投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります
● 申込時に直接ご負担いただく費用 …申込手数料 上限3.24%(税抜3.00%)です。
● 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
● 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.0304%(税抜1.8800%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。目論見書、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的なファンドを想定しています。費用の料率につきましてはアライアンス・バーンスタイン株式会社が運用するすべてのファンドのうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。

 

 

 
 
戻る

著者一覧

page top