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あれから10年:世界経済は「正常化」しているか?

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ダレン・ウィリアムス 
アライアンス・バーンスタイン・リミテッド
グローバル・エコノミック・リサーチ・ディレクター
 
 

 

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2017年8月29日

 
 
 
米国で勃発したサブプライム・ローン問題が世界的な金融危機へと拡大する兆しを見せたのは、ちょうど10年前だった。その後、主要中央銀行の金融政策は非伝統的な領域へ深く足を踏み入れたが、市場環境が「正常化」しつつあるように見える現在、金融政策はどのような方向に向かっているのだろうか?
 
2007年8月、フランスの大手銀行BNPパリバで生じた傘下ファンドの償還停止に対する懸念の拡大を受け、欧州中央銀行(ECB)はユーロ圏の銀行システムに対し総額950億ユーロにのぼる流動性供給を行った。それまでにも危機の予兆はあったが、これが米国発のサブプライム問題が世界規模に波及し始めた最初の事例だった。それはまた、やがて世界金融危機と呼ばれることになる事態の中で中央銀行が初めて行った大規模介入でもあった。
 
その後10年間、経済の仕組みに関して常識と考えてきたことの多くが覆されてきた。また、1930年代以来最悪の景気後退期も経験したし、「大き過ぎて潰せない(too big to fail)」という考えは全ての銀行に当てはまるわけではないことも学んだ。一方、各国の中央銀行は、戦時下でもない限りあり得ない水準にまでバランスシートを膨らませ、金利をマイナスの領域にまで引き下げた。全てが10年前には想像も出来なかったことだ。 
 

より広い視野からの分析が必要 

この10年間の出来事は、我々に大切な教訓をもたらしており、それはアラインアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)における経済分析にも反映されている。ABでは、単に景気循環に焦点を当てた分析にとどまらない、より幅広い観点からのアプローチを採り入れてきた。経済や資産価格に長期的な影響を与える金融システムのサイクルや構造的要因も網羅した、よりバランスの取れた分析手法が必要になっていると考えるからだ。つまり、世界金融危機を経験したことにより、世界経済を見る視点が大きく変化したのだ。 
 
とはいえ、現在の環境においても景気循環を軽視してはならない。さもなければ、10年前に金融システムのサイクルや構造的要因の重要性を軽視した時と同じような過ちを犯してしまうだろう。
 
こうした点を踏まえてみると、サブプライム危機から10年経った現在の世界はどのような状況にあるだろうか?ABでは、2017年1-3月期の世界経済の成長率は年率3.0%に達したと推計している。これは世界金融危機が起こる直前の成長率を約1%下回る水準であるが、10年前はレバレッジの拡大に後押しされて資産価格が頂点に達していた時期だったことを考慮する必要があろう。世界金融危機以前の25年間を見ると、世界経済の平均成長率は現在と同じ年率3%だった(図表1)。
 
 
 
現在の成長率は長期トレンド並み.png
 
 
他の指標についても同様の考察ができる。例えば、先進国における失業率は2007年に付けた前サイクルの最低値近辺にある。また、通貨供給量は大幅に伸び、資産価格も上昇している。多くの側面から見て、世界経済は「正常化」の様相を見せ始めている。 
 

インフレ率は本当に「正常化」の例外なのか?   

この考察が当てはまらない指標もある。インフレ率だ。これは例外なのだろうか?
 
世界金融危機が起きる前は、中国をはじめとする新興国における急速な工業化に牽引された原油価格と商品価格の急上昇が、世界的に総合インフレ率を押し上げていた。しかし、エネルギー価格や食料品など、変動の激しい項目を除いた「コア・インフレ率」は、2%に達することはあまり無かった(図表2)。これは、当時から人口動態や技術革新などといった構造的な要因がインフレ率を抑制していた可能性を示唆している。
 
 
 
コア・インフレ率は抑制されてきた.png
 
 
 
そうした中、世界経済全般についてはある程度「正常化」が進んでいるにも関わらず、金融政策は「正常化」からほど遠い状態だと言える。先進国に関しては特にそうだ。中央銀行のバランスシートは膨れ上がった状態のままで、欧州と日本では、いまだに短期金利がマイナスのままだ。中央銀行は、すでに立ち去ったデフレの幽霊と闘っているのかもしれない。 
 

二つの見方  

現在の市場には二つの相反する意見がある。第一の意見は、世界経済が多少なりとも「正常化」してきたように見えるのは、前例のない緩和政策が採られているからだというものだ。それに対し第二の意見は、非伝統的な金融政策はすでに賞味期限が過ぎており、緊急な修正措置が必要だというものだ。世界各地で依然として膨大な負債が積み上がっていることを考えると第一の意見に、ある程度の共感を覚えるが、金融政策当局は第二の意見に傾いているようだ。
 
この数週間、複数の先進国で中央銀行高官によるタカ派シフトを示唆する発言が続いている。世界経済が景気循環的には正常化していることや、低インフレが構造的要因によるもので伝統的な金融政策ではコントロールしにくくなっているとの認識が、そうした発言の背景にあるのだろう。
 
現状のような良好な経済環境が続く限り、各国中央銀行は2つの意見の間を行ったり来たりしながらも、徐々に極端な緩和政策から撤退する道を進もうとするだろう。高水準にある債務残高や、世界経済の名目成長率の低迷などは、この均衡状態がいつまで続くのかを不透明にしているが、債券市場にとってあまり好ましくない方向であることは間違いないだろう。また、出口戦略が混乱をもたらす可能性もあり、市場のボラティリティが高まる可能性に留意する必要がある。
 
 
 
 
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