旧正月が明け、世界中の投資家に「中国A株の年」が訪れようとしている。中国A株は間もなくMSCI エマージング・マーケット(EM)指数に組み入れられることになる。しかし、同指数をベンチマークとするファンドの中でも、どれが本当にA株への投資の準備が整っているのか、投資家は慎重に見極める必要がある。

世界各地の株式指数を算出しているMSCI 社は、時価総額が米国市場に次ぐ8兆3,000億米ドルに上る中国本土市場の株式をMSCI EM指数に徐々に組み入れていく方針だ。同指数に占めるA株の割合は、当初はわずか0.7%にとどまる見込みだが、それでも中国の膨大な本土市場銘柄を世界の資本市場に取り込んでいく上で大きな一歩となる。証券会社の推定によると、今後組入れが予定されている500銘柄すべてが実際に組み入れられれば、MSCI EM指数に占める中国A株の比率は20%を上回ると予想される。長期的に見れば、新興国ファンドを通じて1,000億米ドルもの投資資金が中国A株市場に流れ込む見通しだ。

中国市場へのエクスポージャー拡大

しかし、新興国ファンドは本当にそうした変化への備えができているのだろうか? 最近のブルームバーグの記事によると、海外のミューチュアル・ファンドやインデックス・ファンドの87%が中国株に投資している。実は、A株の一部は(香港市場と上海・深圳市場を連携する「ストック・コネクト」を通じて)すでに投資可能になっているが、大多数のファンドにおける保有銘柄は、依然として香港市場で取引されるH株や、米国市場に上場している米国預託証券(ADR)に集中している。

モーニングスターのデータによると、新興国ファンドの4分の3近くは中国A株を全く保有していない。新興国ファンドが保有しているA株はわずか140億米ドルに過ぎず、運用資産に占める比率は1.7%にとどまっている(図表左図)。A株の組入比率が10%を超える新興国ファンドは10ファンドに過ぎない(図表右図)。

新興国ファンドの課題: 中国A株の運用経験は十分か?.png

中国A株に対して慎重になってしまう理由は多くある。投資家は、債務依存度の高い中国経済の構造的な不均衡、中国政府による経済統制に対する懸念、市場における国有企業の大きなプレゼンスといった問題に向き合わなくてはならない。

だが、A株を無視することは、中国経済の拡大による恩恵を少なからず取り逃がすことを意味する。例えば、本土市場には、人口の高齢化が進む中で高齢者向けサービスによって成長を遂げているヘルスケア企業が数多く存在する。また、深圳市場に上場している多くのテクノロジー企業には、海外から投資することができない。A株市場を利用すれば、拡大著しい中間所得層に人気の高い国内ブランドなど、爆発的な伸びを遂げている中国の消費市場にも投資できるようになる。上海市場に上場しているマオタイ(コーリャンを主原料とする蒸留酒)メーカーである貴州茅台酒の株価は、需要の急拡大を受けて過去12カ月で倍以上に高騰した。

A株投資で必要とされるものとは? 

では、中国A株に効果的に投資するには何が必要なのだろうか? 投資を成功に導くものとして、大きく3つの要因を挙げることができる。

  • 現地主義: リサーチの重要性に取って代わるものはない。ファンドは現地における豊富な経験を有するプロフェッショナルによるリサーチを活用しなければならない。運用チームは、成長しつつある中国経済の微妙な空気を敏感に察知するとともに、企業内外のプレイヤーを熟知し、ガバナンスが優れた企業を見極める能力を持っていなくてはならない。また、効果的に大市場をカバーする上で十分な人数のアナリストを擁していることも重要である。
  • 定量分析: 中国A株市場の銘柄数は米ナスダック市場やニューヨーク証券取引所よりも多い。MSCI EM指数に中国A株222銘柄が組み入れられれば、同指数の構成銘柄数は25%以上増えることになる。しかも、今や「ストック・コネクト」システムを通じて外国人投資家も1,900銘柄以上のA株に投資することが可能になっており、投資可能な中国株のユニバースは倍以上に拡大している。このことは、本土市場の情報に精通しているだけでなく、定量的ツールとファンダメンタル分析を組み合わせる方法を確立しているファンドが、膨大な数のA株を精査し銘柄選択を行う上で優位に立つことを意味している。
  • アクティブ運用: さまざまな研究により、先進国市場よりも効率性の低い新興国市場においては、アクティブ運用の効果がより高いことが示されている。国内の個人投資家が圧倒的な比率を占める中国A株市場では、至るところに非効率性が存在する。そうした個人投資家は、企業のパフォーマンスに関する重要な情報を持っていないケースが多く、情報の伝達も不十分である。例えば、証券会社のアナリストによる投資判断の引上げに市場が反応するまでに何カ月もかかることがある。こうした環境は、長期的なファンダメンタルズや投資テーマに基づく個別銘柄選択を重視したアプローチに有利に働くことになる。

中国A株の特殊性

投資を効果的に行うには、中国政府によるトップダウン型の政策が経済に影響を及ぼすプロセスについても十分に理解する必要がある。西側諸国の市場においては、政治家の発言はさほど重視されないことが多いが、中国では当局の意向が市場を左右するケースが多い。

例えば、大気汚染の改善を目的とした中国政府の政策は、輸送セクターにおける勝者と敗者を生み出している。ディーゼル・トラックの削減は、鉄道会社や排ガス規制を満たす自動車のメーカーに恩恵をもたらしている。

ファンド運用者には、少数株主の利益に合致しない企業を見つけ出す能力も必要だ。多くの国有企業は利益を最大化することよりも公的な役割を優先する傾向がある。また、ファンド運用者は、企業の利益を他の用途に横流ししかねない権力者の動きにも精通していなくてはならない。

こうした問題に対処してポートフォリオを運用するには、中国本土の投資環境に精通していることが不可欠である。しかし、新興国ファンドの中には、中国本土市場で潜在的なリターン創出力の高い銘柄を発掘する能力を備えていないものも少なくない可能性がある。投資家は、ファンドに投資する前に、その運用機関が中国株式市場における新たな投資機会に全面的に参加する準備ができているか十分確認しすることが望ましい。

 

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