2016年

  • トップページ
  • AB未来総研
  • 知の交差点
  • 2016年
  • 持続的社会に向けて金融が貢献できること - 環境金融が大きく花開くための課題とは?

持続的社会に向けて金融が貢献できること - 環境金融が大きく花開くための課題とは?

2016.05.11

PDF版はこちら外部リンク

a3.jpg
b.jpg

資産運用業界ではESG(環境、社会、ガバナンス)への関心が高まっている。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年、
国連の責任投資原則(PRI)に署名したことが大きなきっかけになった。
日本において環境金融が大きく花開くための課題はなにか?
元環境省事務次官の小林光氏に弊社AB未来総研所長の遠藤勝利が話を伺った。

200の金融機関による「21世紀金融行動原則」

遠藤小林光さんは、長らく環境行政に携わっていらっしゃいます。私にとって印象深いのは、環境省の事務次官のときに取り組まれた「21世紀金融行動原則」です。2016年3月末時点で約200の日本の金融機関が署名するこの原則は、国連のPRIと比較して大きく2つの特徴があります。1つは日本の署名金融機関の多さ。PRIに署名するのは世界約1500機関で、うち日本は40程度に過ぎません(2015年12月時点)。
もう1つは、署名する金融機関の幅広さです。PRIは機関投資家が主な対象ですが、「21世紀金融行動原則」は運用のみならず預金、貸出、リース、保険、証券、投資とあらゆる形態をカバーしています。この原則は、どういう過程を踏まえて広がったのでしょうか。

c.jpg

小林環境への取組に政府が果たすべき役割は大きいのですが、当然のことながら全部をやることはできません。どこかで商業ベースに乗せることが大事だと思っていました。これは環境に限りませんが、何か大きく事を成すには「ヒト・モノ・カネ」が必要です。
このうちカネ=ファイナンスは、環境金融という言葉を手始めに、力を入れるべき分野に育てていかなければと感じていたのです。他人に言われてやることは長続きしませんので、なるべく業界の自主性に委ねるかたちで「21世紀金融行動原則」を策定し、自分のビジネスに組み入れてもらえればと考えました。折しも2011年に東日本大震災を経験したこともあって、日本全体が環境に対する意識が高まり、多くの金融機関から賛同を得られたのが経緯です。

遠藤逆説的に捉えれば、原則を作る必要があるほどに、環境金融はなかなか広がりづらかったという側面があるのかもしれません。どういった課題点が指摘できるでしょうか。

小林この原則に署名した金融機関にアンケートを取ったことがあります。その中で、圧倒的に多かったのが人材リソースの問題です。ある取組に対して、それが果たして環境にいいかどうか判断できる人がいない。つまり、目利きが少ないというのです。これはこれで問題ですが、別の観点では、環境は専門家がいないとできないという気負いがビジネスの幅を狭めているのではないかとも思います。本当はどんな仕事にも環境との接点はあるはずです。専門家でなくても、多くの人が環境の改善は付加価値になるという発想を持ってほしいのです。

「環境でこそ儲ける」という意思が大切

遠藤「環境は儲からない」という意識がこうした問題の背景にあるのでしょうね。金融の中でも資産運用では、GPIFのPRIへの署名をきっかけに年金基金を中心にESG投資への関心が高まり、環境がビジネスチャンスになりつつあります。リースや貸出など他の分野では、顧客側のニーズはまだまだ少ないのが現状でしょう。小林さんが指摘するように環境への啓もうが顧客を含めて必要なのだと思います。

小林環境金融そのものには、大きく2つの役割があります。
1つは環境負荷を低減させる事業に資金が使われる投融資。もう1つは、企業の環境への配慮を支援する投融資です。いずれも環境だけよくなるソリューションでは無理が生じます。「環境でこそ儲ける」という意思が大切です。あらゆる経済活動や環境対策には、ファイナンスが必要なのですから。
例えば、信用金庫としてはじめて「21世紀金融行動原則」に署名した西武信用金庫は、顧客も自分たちも環境を通じて成長する〝環境経営の共進化〞の事例として注目できます。環境への取組に積極的な企業を低利融資で背中を押したり、先進的な企業を表彰し地域への支持を広げたりするなど、地域の環境意識を変える支援機関としての役割を前面に据えてビジネスを展開しています。

遠藤環境力の向上が、その街の地域力につながるという発想ですね。小林さんが理事を務められるエコッツェリア協会(一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会)では、東京・丸の内を中心に環境共生型のまちづくりを推進しています。最近では、テナント企業を中心とした「環境経営サロン」で人と人とのつながりなどコミュニケーションの強化をはかっています。

小林推進役の三菱地所としては、優良なテナントを集めるためには働きやすい環境であることはもとより、環境そのものがビジネスチャンスとして魅力あるかたちで街に溶け込んでいてほしかったのだと思います。
「環境経営サロン」では、さまざまなアイディアが生まれています。環境という単独の価値だけではコストを負担しきれない場合は、別の価値をかけあわせることでコストを吸収できないかと考えているのもユニークです。「平時の環境 × 有事の防災」、「空間の低炭素化 × 人の健康増進」といった掛け算から解決の道筋を見出そうとするわけです。

d.jpg

小林光(こばやし・ひかる)

慶應義塾大学大学院特任教授。工学博士。1949年生まれ。1973年慶應義塾大学経済学部卒業。同年環境庁(当時)入庁。1995年以降は、同庁地球環境部環境保全対策課長として、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の日本への誘致、同条約の京都議定書の国際交渉、わが国初の地球温暖化防止法制(地球温暖化対策推進法)の国会提出などを担当した。環境管理局長、地球環境局長、環境省大臣官房長などを経て、2009年事務次官。2011年に退任し慶應義塾大学へ。

環境で儲けるという意思を、金融機関と企業が強く持つ(小林)

30年強で回収できるエコハウスの投資資金

遠藤小林さんは、私人としてもエコを実践されていらっしゃいます。99年に自宅をエコハウスに改築し、その経過を書籍としてまとめられているほどです(『エコハウス私論』小林光著 ソコトコ新書)。30を超えるエコ対策を取られたようですね

f.jpg

小林そうですね。地球と同居する環境共生住宅を身をもって理解しようと、実験的な設備も多く、通常に比べれば盛りだくさんな対策なのだと思います。もともとは、両親が高齢化してきたため二世帯住宅を建てて同居することになったのが発端です。

遠藤エコハウスを建てて暮らすことで、どのような実感を抱かれましたか。

小林エコハウスというと太陽光発電のように、どんな設備を取り入れるかに目が向きがちですが、建物そのものが頑丈で長持ちして、熱環境がいい家はそれだけで環境性能が高い家なのだと思いました。
個々の環境対策の中では、断熱工事がもっとも費用対効果が高く、CO2換算で削減量の約3割を稼いでいます。エコな活動には環境に貢献したいといった動機が思い浮かびますが、経済的な動機も大きいものだと思います。
以前の家からの光熱水費の削減率は45%、金額にすると年25万円の節約になります。我が家の環境投資資金は951万円でしたが、補助金として138万円活用できました。30年強で回収できる計算です。太陽光パネルに限れば、20年で年利2%程の運用が叶いますから、マイナス金利時代では有用な投資先と言えるでしょう。 加えて、日本は自然災害が多いため、安全を求める動機も高まっていると思います。蓄電池がさらに安価になれば一定期間、自立した生活が可能になります。

g.jpg

遠藤エコな生活環境が広がるためには、〝ご利益の見える化〞がもっと必要なのでしょうね。

小林ハイブリッド自動車のように国が省エネ規制を打ち出すのも効果はあると思いますが、まずは消費者がいい環境を求めることが前提です。最終的な経済の主役は消費者であり、経済の利益を享受するのは国民です。住宅に関しては、商業ビルと同様に性能評価が進み、評価に対して値段が付けば安心材料になると思います。

環境パフォーマンスを企業の宣伝活動に

遠藤持続的な社会の実現に向けて、金融業界の一員として貢献できることは何か。この問いかけに当社もできる限り応えていきたいと考えています。「21世紀金融行動原則」に2013年に署名するともに、2014年度からは「運用・証券・投資銀行業務ワーキング・グループ」の座長を務めています。

小林ワーキング・グループでの最近のテーマは、どういったものですか。

遠藤ESGに対する日本企業の意識向上は、共通して関心の高いテーマです。特に運用会社は、機関投資家として企業価値の向上にコミットすることがより求められていますから、ガバナンスのみならず環境への配慮についても注目しています。日本は環境先進国ではありますが、日本企業の評価は欧州に大きく後れを取っているのが残念です。

小林日本は内需が大きく国内市場で生き残れる企業が多いため、どうしても国際競争力が見劣りしがちです。欧州企業は環境面で新興国市場の開拓に積極的です。「儲かるからやっている」というスタンスが明確で、実需としても評価されていますね。日本企業ももっと世界に目を向けてもらえればと思います。

e.jpg

遠藤勝利(えんどう・かつとし)

アライアンス・バーンスタイン株式会社 執行役員 AB未来総研所長(クライアント本部副本部長 兼 株式・オルタナティブ部長)。2004年1月アライアンス・キャピタル・アセット・マネジメント株式会社(現アライアンス・バーンスタイン株式会社)に入社。プロダクト・スペシャリストとして顧客およびコンサルタント対応に従事後、投資顧問本部副本部長などを経て2015年1月より現職。2014年より「21世紀金融行動原則」の運用・証券・投資銀行ワーキング・グループの座長を務める。

機関投資家として、企業価値の向上にコミットすること(遠藤)

h.jpg

遠藤金融機関の貢献について、最後に何かアドバイスはありますか。

小林既にさまざまな取組をされているとは思いますが、環境パフォーマンスを基準に企業への与信を加減すれば面白いと思います。金融機関と企業がウィンウィンの関係で、環境を武器にビジネスが発展するとよいですね。役人の協力をうまく得ることも大切です。

遠藤本日は、貴重なお話をありがとうございました。


(対談日:2016年4月15日)

戻る
page top