2018年

女子サッカー選手が引退後もよりよい人生を送るために

2018.11.28

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世間を席巻した“なでしこブーム”で、華やかなイメージが持たれる女子サッカー界。
しかしプロとして契約する選手はごくわずかで、多くは他に仕事を持ちながら試合に出場している現状だ。選手のライフプランにとって、真に必要なサポートとは何か?
元なでしこジャパンで現役女子サッカー選手の大野忍選手と弊社代表取締役社長の山本誠一郎が語り合った。

史上4人目、通算300試合出場。原動力は「サッカーが好きだから」

山本今回は、ノジマステラ神奈川相模原所属の現役女子サッカー選手の大野忍さんにお話を伺います。スポーツ選手のセカンドキャリアやお金とのかかわり方などをテーマに掘り下げていければと思っております。
 まずは、なでしこリーグ通算300試合出場おめでとうございます。女子サッカー界では、史上4人目の快挙だそうですね。また、ストライカーとして通算181得点を挙げ、リーグ歴代得点王にも輝かれました。このような活躍を支える原動力はどこから来ているのでしょうか。

大野ありがとうございます。澤さん(澤穂希元選手)をはじめ、名だたる先輩方に並び、身が引き締まる思いです。原動力は、「サッカーが好きだから」に尽きますね。休みの日でもサッカーの試合を見るなど、気が付けばサッカーのことばかり考えているので、純粋にサッカーが好きなんだと思います。

山本そのサッカー愛が高じて、これまでに他にも輝かしい功績を残されています。2011年のドイツW杯でなでしこジャパンが初優勝。2012年のロンドンオリンピックでは銀メダルを獲得し、なでしこ人気が盤石になったような印象があります。全試合でスタメン入りを果たした大野選手ですが、そもそもサッカーを始めたきっかけやプロ選手にいたる経緯は何だったのでしょうか。

soccer.jpg なでしこリーグ通算300試合を達成した大野忍選手。2018年9月30日のなでしこリーグ1部第13節のAC長野 パルセイロ・レディース戦にて。

大野4歳のときに、兄2人の影響でサッカーを始めました。小学4年生のときにチームに入ったのですが、当時は国内に女子チームはほとんどなく、男子に交じってサッカーをしていました。中学生になる頃に初めて女子プロリーグの存在を知り、女性でもサッカー選手になれると心が躍ったことを今でも覚えています。
 しかし、その後プロリーグは一度なくなってしまいました。しばらくして復活したのですが、その期間はプロ選手が一人もいませんでしたね。そのため選手は皆、昼間には会社員として働き、仕事が終わってから練習に集まるといった生活を送っていました。最近は〝なでしこブーム?などで注目を浴びることも多くなったので、女子サッカーに華やかなイメージを持たれる方は多いのですが、その歴史には紆余曲折ありました。

 

プロ選手はわずか10人。それ以外は働きながら

山本我々一般人から見ると、スポーツ選手の働き方や福利厚生などは非常に気になるところです。ご自身を含め、周りのプロリーグに所属する選手を見て、いかがでしょうか。

大野雇用形態でいうと、プロ契約を結んでいる人は私を含めてわずか10人しかいません。それ以外はチームのスポンサー企業の社員か、別の会社で働く社員で構成されています。昼間は一般の人と同じように働き、練習や試合のときには参加できるように、時間の融通を効かせてもらっているみたいです。私のチームの仲間に話を聞いただけでも、仕事内容はオフィスでの事務作業や店舗での接客など多岐にわたっています。

山本非常に驚きました。大野選手のように一日中練習に充てられるプロ契約を結ぶことは、女子サッカー界においては非常に狭き門なのですね。それでは多くの選手が社員と選手の立場から結果を求められるということになりますか?

大野他の社員と同じ扱いですので、給料や評価につながるノルマや営業目標はあるみたいです。そのうえに試合の活躍も期待されています。もちろん、その分社員と選手両方のインセンティブはありますが、日々ダブルワークをこなしているような状況は見ていて大変そうではあります。

山本プロ契約の選手やそれ以外の選手に対して、福利厚生として積み立ての年金制度やセカンドキャリアのサポートなどをする場はありますか。

大野私が知る限りでは聞いたことがないですね。とくにプロ契約の場合では、引退後に社員として働けるわけではないので、どのような道に進むのか、それぞれが自分で考えなければいけません。

山本選手も将来の不安を抱えているわけですね。大野選手は自分のセカンドキャリアについてはどう考えておられますか。

大野まだ具体的には考えてはいませんが、指導者になりたいと思っています。サッカースクールを運営して、サッカーの楽しさを一人でも多くの子どもたちに広められたらと思っています。私が子どもの頃、もっと女子チームが増えればと思っていたので、女の子向けのスクールを考えています。あとは親孝行ですね。今まで支えてくれた両親に感謝の気持ちを込めて、地元に家を建ててプレゼントしたいです。

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大野忍(おおの・しのぶ)

4歳からサッカーを始め、高校在学中にベレーザでプロリーグ初出場。なでしこジャパン初優勝を飾った2011年のドイツで開催されたFIFA女子ワールドカップで全試合スタメン出場した。なでしこジャパンとして同年に団体初の国民栄誉賞を受賞。12年ロンドンオリンピックで銀メダル獲得。18年にノジマステラ神奈川相模原へ移籍。なでしこリーグ通算300試合出場は全選手の中で史上4人目、フィールドプレーヤーにおいては澤穂希元選手に続く2人目の快挙。なでしこリーグ歴代最多得点記録更新中。

「投資に精通した人のアドバイスがあれば一歩を踏み出せる」(大野)

投資は未知の世界。正直難しそうなイメージ

 

山本素敵な夢ですね。どちらもお金がかかりそうではありますが、普段から管理や資産運用を含めてお金にはどのように関わっておられますか。

大野お金の管理は基本自分でやっていますが、確定申告などは母にサポートしてもらっています。母は昔、税理士を目指していたこともあり、お金に詳しい力強い味方です。
 一方で投資はまったくしていません。母からは「収入が増えてきた分、節税や投資についてもっと考えるように」とよく言われてはいるのですが、正直言って資産運用の話はわからないことだらけです。もし投資を始めるとしても、買ったときの管理の仕方など基本的な仕組みから学ぶ必要があると思っているのですが、どこで誰から学べばいいのかもわかりません。投資に精通した人のアドバイスがあれば一歩を踏み出せると思いますが、一人ではまず無理でしょう。興味はあっても、普段の生活からはまったく関わりのない領域のため、どうしても敷居が高く難しそうなイメージが払しょくできません。

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山本投資に対して大野選手と同じような印象を持っている若い人は、実は多いんですよ。これは今まで、私たち金融業界が投資という難しい対象を難しいままで語ってきたことに起因すると思っています。金融業界以外の一般の人の目線や感覚を置いてきぼりにして発信してきたことは、非常に責任を感じるべきところです。この反省を踏まえて、最近ではこれまで投資に縁がなかった若い人たちの金融リテラシー向上のために、かみくだいてわかりやすく発信することに力を入れています。例えば、全国を回って投資を教える講演をしたり、「女子の幸福論」という若い女性にフォーカスした小説を出版したりなど、あの手この手を尽くして投資の普及活動をしています。10年以上活動をしていますが、まだまだ十分だと思いません。若い人がよりよい人生を考えるためには、一歩先だと先に行き過ぎてしまうので、半歩くらい先のサポートができればと願っています。

大野そういう活動がもっと広まればいいなと思います。今まで協会や所属チームなどからお金に関しての指導を受けたことがありませんでした。普段の自分の生活と関わりがないからこそ、金融業界の方が出向いて直接話を聞くことのできる機会は貴重ですよね。自分から話を聞きに行くのはハードルが高いですから。
 前から疑問だったのですが、投資ってそもそもまとまったお金がないとできないんですか?

山本まとまったお金があったほうが投資しやすいのは事実ですが、毎月1、2万円ほどの金額からコツコツ投資する方法もありますよ。私たちが若い人たちに推奨しているのは後者です。ポイントは「長期、積立、分散」。人生100年時代とも言われますが、20代、30代の若いうちは時間を味方に付けられます。膨大な時間をかけて投資を続ければ、預金で眠らせるよりも高いリターンを期待できます。その分、時間がかかり忍耐勝負になりますが、早く始めれば始めるほど有利です。

大野そうなんですね。投資ってまとまったお金を一括で投入するイメージがあったので、今回のお話を聞いて目から鱗でした。

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山本誠一郎(やまもと・せいいちろう)

アライアンス・バーンスタイン株式会社代表取締役社長。安田信託銀行株式会社(現みずほ信託銀行株式会社)を経て、1999年サンフォード・C・バーンスタイン社(現アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー)に入社。2012年3月より現職。2014年6月グローバルのパートナーに就任。一般社団法人日本投資顧問業協会 理事。

「若い人がよりよい人生を考えるための半歩先のサポートになれば」(山本)

引退時期が早いスポーツ選手。セカンドキャリアが鍵に

山本先程セカンドキャリアについてお聞きしましたが、実現に近づけるための気づきの場や老後のための積み立て年金制度こそが、過酷な世界で戦うスポーツ選手にとって重要なセーフティネットになるように感じます。

大野私も身をもってそう感じています。女子サッカーも他のスポーツと同じで、急に契約停止を言い渡される可能性は常にありますから。そうなれば自分でチームを探すか代理人を雇って探してもらうかのどちらかになりますが、見つからなければ路頭に迷うことになります。スポーツ選手は、一般の会社員よりもリタイア時期が早いため、日頃からセカンドキャリアに考える必要があると思います。

山本まさに選手目線のリアルな声ですね。今まで「知の交差点」は協会の会長や経営者など、制度を作る側の方々のお話を伺ってきたのですが、彼らは非常に現役選手のキャリアやお金のことを考えています。とくにお金の管理・運用面に関して指導をしたい気持ちはあるそうですが、現場のコーチから「スポーツに専念させてほしいから余計なことは言わないでほしい」など猛反対が来る場合もあるようです。結果を出すことが求められる現場の意見も理解できる分、非常に難しい問題といえます。
 それでは最後にセカンドキャリアのためにご自身で取り組まれていることや、お金に対しての思いなどをお聞かせ願います。

大野最近ではサッカー以外のことにも目を向けようとしています。例えば、将来指導者になったときに備えての英会話やこれまで使う機会がなかったパソコンなどを、趣味程度ではありますが少しずつ学んでいます。お金に関しては、考えなくてはいけないと思いつつ、なかなか貯まらず苦戦しています。サッカースクールを運営するにも指導者になるにも、現実的に結構お金がかかります。今後は自分のセカンドライフを視野にいれ、お金を増やすことも考えていけたらと思っています。

山本今回初めて現役のスポーツ選手にお話を伺ったのですが、働き方やキャリア形成は一般の会社で働く人と比べると非常に特殊であるように感じました。両者の世界がかけ離れていて、どのような働き方をしているかが可視化されていないからこそ、セカンドキャリアのサポートや年金制度のも課題に目を向けられてこなかったように思います。また、私たち金融業界が若い世代と投資に隔たる壁をなくすために、一層励んでいきたいと改めて思いました。
 本日はお忙しいなか、貴重なお時間をありがとうございました。

 

 
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