2022年はインフレと金利上昇が米国の金融市場を揺るがし、投資家にとって波乱にとんだ1年となった。しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)によるフェデラルファンド(FF)金利の引き上げが到達点に近づくのに伴い、株式市場では広範なマクロ経済問題や金融政策よりも、個々の企業収益の重要度が高まると見込まれる。

2023年の業績見通しをめぐっては、トップダウン型の予想とボトムアップ型の予想がぶつかり合っている。トップダウン型のアナリストはS&P 500指数を総体的に捉えており、彼らの予想はマクロ経済と全体的な利益率予想に左右される。一方、ボトムアップ型のアナリストはS&P 500指数を構成するすべての企業の見通しを個別に分析している。

どちらの業績見通しを信じるか?

現時点のトップダウン予想では、2023年のS&P500指数の1株当たり利益(EPS)は200米ドル前後、ボトムアップ予想では235米ドル近くになると見込まれている。それに対し、2022年のS&P 500指数のEPS予想は220米ドル前後に集中していた。どちらを信じるかによって、2023年のEPSが約9%減少すると考えることも、約7%増加すると見込むこともできる。この違いは非常に大きな意味を持つ。

一般的に言って、経済がストレスにさらされている場面では、比較的保守的なトップダウン予想の方が信頼できるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。その大きな理由は、ボトムアップ型のアナリストは2月に前年の10-12月期の決算が発表されるまで、予想値の「調整」を待つことが多いからだ。景気先行きに不透明感が続いていることを踏まえれば、2023年のボトムアップ予想は下方修正される可能性がある。

いずれにせよ、投資家が保有する米国の個別企業を見直す際には、非弾力的な需要、強力な価格決定力、コスト管理能力といったいくつかの重要な要素を考慮する必要があるとABでは考える。こうした競争上の優位性は、経済の混乱に対する緩衝材となり、2023年に好業績を達成する上で重要な役割を果たすだろう。

需要の非弾力性が売上高の安定した伸びを支える 

非弾力的な需要を有する企業、つまり、景気が悪化しても需要があまり影響を受けない企業は、裁量的支出が急激に落ち込んだ場面で明らかに優位に立つことができる。その好例は、消費者や企業が簡単には削減できない、または、避けることのできない非裁量的な支出から利益を得ることができる「トールゲート型(料金所)」ビジネスモデルだ。

例えば、コンタクトレンズを取り上げてみよう。コンタクトレンズを使用している人は、たとえ景気が悪化しても、節約のためにコンタクトレンズを手放すことはおそらくないと思われる。代わりに眼鏡をかける頻度が増えるかもしれないが、一般的なパターンではない。または、業績見通しが米国のインフラ支出に大きく左右される電力管理会社について考えてみよう。革新的でコストを節減できる医療の進歩を促進する遺伝子配列解析装置のメーカーの場合はどうだろうか?こうした企業はいずれも、経済的な逆風をさほど受けずに済むであろう。

小売企業が発表した最近の決算は、非弾力的な需要が重要であることを裏付けている。ウォルマートの場合、全体の売上高のうち、食料品など生活する上で必要な非裁量的な商品が比較的大きな割合を占めている。裁量的な商品(家具、電化製品、衣料品など)は消費者物価の上昇で消費が減退しているが、ウォルマートは裁量的な商品の売上減を非裁量的な商品への需要で補っている。それとは対照的に、ターゲットのように裁量的な商品への依存度が高い小売企業は、消費支出の動向による影響を受けやすいようだ。

強力な価格決定力はインフレに対する緩衝材となりうる

今日のようなインフレ環境下では、価格決定力も業績を支える役割を果たす。顧客の忠誠心(ロイヤリティー)が高く、容易に代替品を入手できない商品やサービスを有する企業は、たとえ景気が悪化しても、需要を損なうことなく価格を維持または引き上げることができる。

マイクロソフト、ADP、マスターカードなどを考えてみよう。これらの企業が値上げしたとしても、顧客がOffice 365スイート、給与計算システム、カードネットワークを他社の製品に乗り換えるとは考えにくい。多くの場合、乗り換えコストが高くつき、大々的な変更を行うことをちゅうちょせざるを得ない。逆に、代替品を入手しやすい製品を提供する企業は、景気の下降局面で価格決定力を失う可能性がある。

2023年はコスト管理がカギ   

2023年に目を向ければ、最も不確実な要素のひとつはコスト管理だ。どの企業も、オフィス再開や人件費・原材料コストの上昇など、さまざまな課題に直面している。単一の解決策はないが、豊富な経験を持つ経営陣は通常、利益率を圧迫するこうした要因に対処する方法を見つけ出すことができる。

そのいい例がアマゾンだ。同社は利益率が圧迫されており、小売企業を取り巻く厳しい環境下で収益性を支えるため、広い分野でコスト削減を進める能力を示さなくてはならない。同様に、ヘルスケア業界を支える重要な役割を果たす臨床試験を製薬会社から請け負っているIQVIAホールディングスはコスト上昇に直面しており、期待される利益率を実現するには革新的な取り組みを通じて支出を節減しなくてはならない。すべての企業がこうした課題を背負っているわけではないが、多くの企業にとって2023年に利益を拡大するためには、適切なコスト管理がカギを握ることになりそうだ。

一部の企業の株価や業績予想には、こうした競争に関する現実が反映されているかもしれないが、多くの場合はそうではない。市場全体の業績見通しが意味をなさないのは、それが理由である。投資家は個別企業のファンダメンタルズに焦点を当て、市場のミスプライシングを見抜くとともに、企業の中核的な強みを生かし、期待どおりの利益を実現できる経営陣を擁する企業を見極める必要がある。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
オリジナルの英語版はこちら

本文中の見解はリサーチ、投資助言、売買推奨ではなく、必ずしもアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)ポートフォリオ運用チームの見解とは限りません。本文中で言及した資産クラスに関する過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。

当資料は、2022年12月13日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

当資料についてのご意見、コメント、お問い合せ等はjpmarcom@editalliancebernsteinまでお寄せください。

「株式」カテゴリーの最新記事

「株式」カテゴリーでよく読まれている記事

「株式」カテゴリー 一覧へ

アライアンス・バーンスタインの運用サービス

アライアンス・バーンスタイン株式会社

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第303号
https://www.alliancebernstein.co.jp/

加入協会
一般社団法人投資信託協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
日本証券業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会

当資料についての重要情報

当資料は、投資判断のご参考となる情報提供を目的としており勧誘を目的としたものではありません。特定の投資信託の取得をご希望の場合には、販売会社において投資信託説明書(交付目論見書)をお渡ししますので、必ず詳細をご確認のうえ、投資に関する最終決定はご自身で判断なさるようお願いします。以下の内容は、投資信託をお申込みされる際に、投資家の皆様に、ご確認いただきたい事項としてお知らせするものです。

投資信託のリスクについて

アライアンス・バーンスタイン株式会社の設定・運用する投資信託は、株式・債券等の値動きのある金融商品等に投資します(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)ので、基準価額は変動し、投資元本を割り込むことがあります。したがって、元金が保証されているものではありません。投資信託の運用による損益は、全て投資者の皆様に帰属します。投資信託は預貯金と異なります。リスクの要因については、各投資信託が投資する金融商品等により異なりますので、お申込みにあたっては、各投資信託の投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等をご覧ください。

お客様にご負担いただく費用

投資信託のご購入時や運用期間中には以下の費用がかかります

  • 申込時に直接ご負担いただく費用…申込手数料 上限3.3%(税抜3.0%)です。
  • 換金時に直接ご負担いただく費用…信託財産留保金 上限0.5%です。
  • 保有期間に間接的にご負担いただく費用…信託報酬 上限2.068%(税抜1.880%)です。

その他費用:上記以外に保有期間に応じてご負担いただく費用があります。投資信託説明書(交付目論見書)、契約締結前交付書面等でご確認ください。

上記に記載しているリスクや費用項目につきましては、一般的な投資信託を想定しております。費用の料率につきましては、アライアンス・バーンスタイン株式会社が運用する全ての投資信託のうち、徴収するそれぞれの費用における最高の料率を記載しております。

ご注意

アライアンス・バーンスタイン株式会社の運用戦略や商品は、値動きのある金融商品等を投資対象として運用を行いますので、運用ポートフォリオの運用実績は、組入れられた金融商品等の値動きの変化による影響を受けます。また、金融商品取引業者等と取引を行うため、その業務または財産の状況の変化による影響も受けます。デリバティブ取引を行う場合は、これらの影響により保証金を超過する損失が発生する可能性があります。資産の価値の減少を含むリスクはお客様に帰属します。したがって、元金および利回りのいずれも保証されているものではありません。運用戦略や商品によって投資対象資産の種類や投資制限、取引市場、投資対象国等が異なることから、リスクの内容や性質が異なります。また、ご投資に伴う運用報酬や保有期間中に間接的にご負担いただく費用、その他費用等及びその合計額も異なりますので、その金額をあらかじめ表示することができません。上記の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。