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安倍政権の第3の矢は失望的なものだったか?

 

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大矢 卓司

アライアンス・バーンスタイン株式会社
株式運用調査部 シニア・ポートフォリオ・マネジャー



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2014年8月6日

 

アベノミクスの第3の矢である成長戦略(改訂版)が6月に発表された。昨年の成長戦略発表時には株価が下落するなど投資家の失望が大きかったが、今回はどうであったか。

海外の有力メディアの反応を見ると、昨年ほどネガティブではないものの、その評価は高いとは言えない。英フィナンシャル・タイムズ紙では、第3の矢(third arrow)というより新米の鍼灸師が当てずっぽうに打った千の針(thousand trial needles)であると皮肉られているし、また米ウォールストリート・ジャーナル紙では、法人減税の率や時期など詳細が欠如し、労働改革や移民問題などに関しても踏み込んだ内容になっていないと、総じて厳しい内容となっている。また、海外の証券会社のリサーチを見ても、高く評価されているようには見えない。

国内でも、内容が総花的で物足りないし即効性は期待できないという意見が多く聞かれる。しかし、そもそも国の潜在成長率を決める三要素である資本、労働力、全要素生産性が、1年や2年で目に見えて改善するものではない。

では、株式市場にとって今回の成長戦略は評価に値しないのだろうか?たしかに、国レベルの成長性におよぼす影響という観点からは不確実性が大きく、かつ時間もかかる。しかし、それがイコール株式市場にとっても効果がないと考えるのは短絡的だろう。成長戦略による企業レベルの変化はより確実性が高く、市場が想定するよりも早く顕在化する可能性が高い。この点を、市場は過小評価しているように思える。

そう考える理由は二つある。一点目は、安倍政権が企業の収益性(長期の成長力)を改善する目的で周到に複数の施策を組み合わせており総合的な効果が期待できること。そして二点目は、日本企業の横並び意識の強さである。

一点目に関しては、おおまかに言って株主レベルで影響を及ぼす施策、企業レベルで作用する施策、株主資本利益率(ROE)そのものに働きかける施策に分類するとわかり易いかもしれない(図表1)。株主レベルでは、今年1月に資本効率の高い企業で構成されるJPX日経400指数がスタートし、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内株のベンチマークインデックスの一つとして採用を決定しているし、機関投資家に企業との健全な対話(エンゲージメント)を求めて金融庁が6月に公表した日本版スチュワードシップ・コードは、既に120以上の機関投資家が同意を表明している。
 

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企業自体に対する施策としては、事業再編などを促す産業競争力強化法が1月に制定されているほか、6月に成立した改正会社法が社外取締役導入への圧力を強める内容となっている。また、経営に緊張感をもたらすことで日本企業の収益力を底上げすることを目的に、自民党の日本経済再生本部が日本版コーポレート・ガバナンス・コードの創設を提言しており、来年の株主総会シーズンまでの規範制定を求めている。

これらはすべて、様々な角度から企業の収益性・ROEを向上させる為の施策と言え、企業にある程度の強制力を持って圧力を与えるもので、過去には見られなかったものである。これらに加え、法人税減税もより直接的にROEに影響を与えよう。

最近の企業の自社株買い発表の増加、M&Aの活発化や投資枠の拡大、社外取締役の採用などは、こうした圧力を受けた企業の変化の萌芽と見ており、今後さらに増加することが期待できる。

ところで、経済産業省が取り組む「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトで、中間論点整理が公表されており、近く最終報告(いわゆる伊藤レポート)が公表される予定である。いままでの低ROEや低成長の構造的な理由を多くのデータで分析し、今後のあるべき方向性や検討事項が提示されており、興味深い内容となっているが、その中で日本企業の低ROEは売上高利益率の低さによるところが大きく、他国と比較しばらつきが少なく低位集中傾向にあるとの指摘がある。

これは見方を変えれば、日本企業の横並び意識の強さを考えると、一部企業が動きだし、それに追随する企業が増えはじめれば、ある段階で加速度的な変化が生ずる可能性がある。さらに、デフレ環境からの脱却は一般的に企業の価格決定力の回復を助け、売上高利益率の改善に追い風となろう。

ROEとバリュエーションの代表格である株価純資産倍率(PBR)には正の相関関係があるが、日本株式市場のPBRの低さは企業のROEの低さが要因であるとは、よく指摘されているところである(図表2左)。もし上記の変化が、海外投資家を含め多くの投資家の間で認識されるようになれば、日本市場のバリュエーションが見直される(リレーテイングされる)可能性は高いだろう。しかも、日本市場では金融危機以降のROE改善が十分に評価されていないことを考えると、バリュエーションの拡大余地は大きい(図表2右)。
 

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