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マイナス金利の世界をあらためて検証

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ダレン・ウィリアムス
アライアンス・バーンスタイン・リミテッド
欧州シニア・エコノミスト



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2016年3月23日

 

中央銀行による非伝統的な金融政策は次々と未知の領域へと踏み出し、今やマイナス金利の実験が行われている。マイナス金利は前例がなく、効果が疑問視されている上に、銀行セクターにとって望ましくない、あるいは予期せざる影響がもたらされる恐れもある。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、大幅なマイナス金利よりは、いわゆる「ヘリコプター・マネー」と呼ばれる流動性の「ばらまき政策」の方がまだしも政治的に受け入れられやすいと見ている。
 
2008年のリーマン・ブラザーズ破綻以降、中央銀行は大胆な「非伝統的」金融政策の世界に足を踏み入れ、大規模な量的緩和(QE)に着手し、自らのバランスシートを戦時中ですらほとんどなかった水準まで膨らませた。QEは多くの国々において深刻な景気後退を食い止めることはできなかったが、資産価格を押し上げ、世界経済が再び「大恐慌」に陥るのを防ぐ上で役立った。
 
QEは、世界経済が深刻かつ長期的な不況に陥るのを食い止める効果はあったものの、力強く持続的な成長にはつながらず、デフレ懸念を払しょくすることもできなかった。そのため、新たな懸念が広がる中、中央銀行は一段と急進的な対策を模索し始めた。その結果、マイナス金利という金融政策ツールが導入されることになった。
 
 
前例のない実験
 
マイナス金利をいち早く取り入れたのはデンマーク(2012年)とスイス(2014年)で、通貨上昇圧力が高まったことがその背景にあった。デンマークでは長期にわたり保ってきたクローネとユーロとの均衡、スイスの場合はフラン相場の(以前の)上限が維持できなくなっていた。両国の後を追って、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行、スウェーデン国立銀行もマイナス金利を採用した。これらの中央銀行にとって、主たる目的は、インフレ率低迷によりインフレ目標に対する信頼性が揺らぐ中、インフレ期待を支えることだった。しかし、それぞれの通貨に対する上昇圧力を和らげることも重要な課題だった。
 
 
預金金利には影響せず
 
おそらく、マイナス金利の最も顕著な影響は、量的緩和プログラムによる債券利回り低下圧力をさらに強めたことである(次ページの図表1)。だが、これによって銀行が預金金利をマイナスにせざるを得なくなるところまでは至っていない(次ページの図表2)。
 
企業の預金については状況が異なっている(次ページの図表3)。金融セクター以外の一般企業の預金に適用される平均金利は、ユーロ圏とスウェーデンでゼロ%を上回っているが、デンマークではゼロ%をわずかに下回っている。一方、スイスでは大企業の預金に対する平均金利がゼロ%を大幅に下回っており、ドイツでも同じような例が見受けられる。
 
 
 
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銀行の収益性を圧迫

中央銀行がマイナス金利の世界に足を踏み入れた今、マイナス幅はどこまで拡大し得るのだろうか? マイナス幅の拡大を抑えている要因の一つは、金利がマイナスの領域に移行すれば、銀行にとって、中央銀行に預けているマイナス利回りの資産を利回りゼロの現金に転換しようとするインセンティブが働くことだ。
 
だが、それにはコストが生じる。銀行は現金を実際に運搬する必要があり、輸送および保管方法の手配や保険も必要になる。そのため、金利がマイナスになったからといってすぐにそれが実行に移されるとは考えにくい。とはいえ、金利のマイナス幅が大きくなり、マイナス圏に留まる時間が長くなるほど、銀行にとってそうするインセンティブが高まることになる。
 
マイナス幅の拡大を制約するもう一つの要因は、マイナス金利が銀行の収益性に悪影響を与えかねないことだ。特に、超過準備の水準を押し上げ、イールドカーブのフラット化を促す大規模な量的緩和プログラムが重なれば、銀行への影響はとりわけ深刻なものとなる。その観点から見れば、ユーロ圏の銀行システムは現時点で6,000億ユーロを超す超過準備を抱えている(主に中核国の銀行が保有)。その金利がマイナス0.3%であるため、銀行は年間約20億ユーロに上る「税金」を支払っているのと同じことになる。
 
しかも、ECBは金利をさらに引き下げ、債券購入を継続すると見られるため、この「税額」は今後増加する可能性が高い。もっとも、ユーロ圏銀行システムのバランスシートが30兆ユーロに上ることを考えれば、これは微々たる金額ではあるのだが。
 
 
意図せざる結果 
 
銀行にとって、マイナス金利が利ざやを圧迫する力に対処する方法はいくつかある。一つは自行の貸出金利を引き上げることで、スイスではすでにそうした動きが現れている。もう一つは個人の預金にマイナス金利を適用することだ。
 
現金を運搬したり、紙幣をマットレスの下にしまったりするには保管及び便益コストがかかるため、わずかなマイナス金利であれば預金者から受け入れられるかもしれない。実際、カナダ銀行が最近実施した調査では、そうしたコストは0.5%あるいはそれ以上に達する。
 
もちろん、そうした数字はかなり不透明である。しかし、正確な分岐点がどこにあるにせよ、はっきりしていることが一つある。それは、遅かれ早かれ、金利のマイナス幅が広がれば銀行預金は引き下ろされ、利回りゼロ%の現金で保有されるということだ。そうなれば、手数料を取って現金保管施設を提供する新たな機関が設立されるだろう。実は、それは昔銀行自身も行っていたことである。
 
ここで重要なのは、こうした動きが銀行の金融仲介機能低下を加速させかねないことである。銀行預金が減少すれば銀行貸出の収縮につながるため、銀行の預貸機能に深刻な打撃を与える恐れがある。
 
このように、中央銀行が金利のマイナス幅をさらに拡大することで引き起こされかねない意図せざる、そして望ましくない二つの結果として、貸出金利の上昇と銀行貸出の収縮が考えられる。デンマークとスイスの中央銀行はそれを踏まえ、銀行が「課税」される超過準備を抑えるため、重層的な預金金利体系を導入した。ECBが金利のマイナス幅をさらに拡大することを決めた場合、ECBもそれと同じようなシステムを導入する可能性がある。だが、マイナス金利が複雑な問題を招く可能性があることを考えれば、そもそもなぜこんな厄介なことをするのかと、問いかけてみたくなる。
 
 
不明確な効果 
 
銀行貸出チャネル以外にも、マイナス金利が経済成長やインフレに影響を及ぼし得る経路が二つある。それは為替相場と資産価格だ。幸い、この二つはいずれも銀行貸出のような逆効果をもたらさずに済みそうだ。それでもなお、その効果については疑問を持たざるを得ない理由がある。
 
第一に、他の中央銀行も同じような戦略を採用した場合、為替レートの経路が効果的に機能するとは考えにくい。日銀がマイナス金利政策に踏み切った直後に円が上昇したことを見れば、それが分かる。
 
第二に、世界的な金融危機の初期段階では資産価格の上昇がデフレ圧力を食い止めるために重要な役割を果たしたが、資産のリターンが逓減したため、金融の安定性を脅かす要因となった。しかも、資産価格の上昇は、それ自体では力強く持続的な経済成長の基盤を作り出すことはできない。
 
 
マイナス幅はどこまで拡大できるか? 
 
少なくとも今のところは、マイナス金利政策の効果について疑問視すべき理由は数多くある。一部の専門家が金利のマイナス幅をさらに拡大すべきだと主張しているのは、現状では不十分だと考えているからだ。
 
現在行われている緩やかなマイナス金利の実験は基本的には超低金利政策の延長線上にあるが、大幅なマイナス金利の目的は、金利の下限を全面的に取り払い、金融政策をより対称的なものとする(金利の上限がないように、下限もなくす)ことにある。そうなれば、消費者はカネを使うか、さもなくばそれを失うことになる。
 
 
より急進的なアプローチ 
 
預金者がどこまで金利がマイナスになれば預金を現金に転換するかは分からないが、大幅なマイナス金利(例えばマイナス5%)になれば、そうした動きが広がりそうだ。だが、そうなれば銀行貸出が収縮し、デフレ圧力が高まることになる。そのため、預金が現金に幅広く転換されるのを食い止めるメカニズムが必要となる。
 
大幅なマイナス金利をめぐっては、専門家の間で主に以下の三つのアイデアが議論されている。
 
・ 現金に課税する。1930年代、ケインズとアーヴィング・フィッシャーは印紙税に多少の効果があると考えた。それは、ある特定の日に銀行券を保有している人に課税(印紙の購入を義務づける)するもので、それに応じなければ銀行券が無価値になるというものだ。このアイデアの核心は、マネーが交換されるスピード、つまり流通速度を押し上げ、支出を拡大させることが目的である(一方、量的緩和の目的は流通しているマネーの量を高めることにある)。
 
・ マイナス金利を回避できなくするため、銀行券を全面的に廃止する。英イングランド銀行のチーフ・エコノミストであるアンディ・ホルデン氏は最近、こうしたアプローチ*について議論した。
 
 *金利のマイナス幅はどこまで拡大できるか(How Low Can You Go?)、イングランド銀行、2015年9月
 
・ 現金を保有するインセンティブをなくすため、現金と中央銀行準備のリンクを断ち切る。一つのやり方として、現金と準備資産の交換レートを切り下げ、実質的に銀行券にも同じ幅のマイナス金利を付与するという方法がある。国際通貨基金(IMF)が最近発表したワーキングペーパーは、こうしたアプローチ**を支持している。
 
 **ゼロ%の下限を突破する(Breaking Through the Zero Lower Bound)、IMFワーキングペーパー、2015年10月
 
しかし、これらの政策が理論的にいかに興味深く見えようとも、政策当局者が直ちにこうした方策を探るとは考えにくい基本的な理由が三つある。第一に、それらを実行に移すのは技術的に難しい。第二に、緩やかなマイナス金利がもたらしている望ましくない副作用を増幅させかねない。第三には(これがおそらく最も重要な問題なのだが)、政治的に受け入れられにくいことだ。
 
このため、中央銀行がいずれ非伝統的な領域にさらに深く踏み込むことになれば、マイナス金利幅の拡大よりも、減税や政府支出(ミルトン・フリードマンの言う「ヘリコプター・マネー」)を拡大し、それに要する資金を中央銀行が提供する方が政治的に受け入れられやすいと思われる。
 
 
マイナス金利はどれだけプラスになるか? 
 
銀行にとって全般的に見れば、マイナス金利政策のプラス面を見出すことは難しい。効果があったとしても、それはわずかなものに留まりそうだ。
 
最悪の場合、マイナス金利はいくつかの意図せざる、そして望ましくない結果を招く恐れがあり、それは銀行にとってコスト増大につながる。折悪しく、規制面での政策動向もすでに銀行のコストを押し上げる方向にある。銀行が信用供給の大半を担っている欧州では、とりわけマイナス金利の利点を見出すことが困難である。
 
マイナス金利は長期的なコスト上昇ももたらす可能性がある。例えば、生命保険や年金など、既存のビジネスモデルの一部が損われることによってだ。それはまた、公的セクター、民間企業、金融セクターのいずれにおいても、財務改善の意欲を阻害する要因となり得る。
 
それでも、この実験がすでに終わったとは考えにくい。マイナス金利に対する反発が出ているにもかかわらず、スウェーデン国立銀行は先月、金利のマイナス幅をさらに拡大した。ECBと日銀もそうした措置に前向きな姿勢を示している。こうした行動は最終的に逆効果となるかもしれないが、短期的には世界の債券利回りをさらに押し下げる圧力となろう。
 

 

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