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マイナス金利が年金運営に与える影響 第3回:円債代替を検討する際のポイント

 

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後藤 順一郎
 
アライアンス・バーンスタイン株式会社
AB未来総研 所長



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2016年7月5日

 

 
 
前回は、マイナス金利が企業年金の長期運用方針を決定する年金ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)に与える影響について説明した。最終回となる今回では、マイナス金利を受けて今、多くの企業年金が考えている円債代替を検討する際のポイントについて述べる。
 
 

10年以上にわたり金利上昇に備えてきた日本の企業年金

まずは図表1を見ていただきたい。こちらは日本の企業年金の過去10年の円債代替の歴史を示したもので、濃い色のグラフが実際の資産配分、薄い色のグラフが政策アセットミックスを表している。これを見ると明らかなように、この10年の間ずっと企業年金は日本債券から外国債券やその他(オルタナティブ投資等)にシフトしていたことが確認できる。つまり、多くの日本の企業年金は、国内金利の上昇に備え続けていたのである。
 
Chart1_企業年金の政策アセットミックと実際の資産構成割合.jpg
 

では、その「金利上昇への備え」がもたらしたものは何か? これを見ていく前に一点、企業年金の運用における大前提を確認させていただきたい。それは年金運用の目的は絶対リターンではなく、超長期の円債的な性質を持つ負債をしっかりとカバーすることであり、故に円債投資の基本は超長期債投資ということだ。つまり、企業年金にとっての「ニュートラル・スタンス」は超長期の円債を持つことである。
 
図表2に、2000年から「ニュートラル・スタンス」で超長期の円債に投資していた場合の実績を示した。NOMURA BPI 総合超長期指数のリターンが約4%であったのに対し、NOMURA BPI 総合指数は約2%であり、「ニュートラル・スタンス」で超長期を意識した運用をしていたら年間2%も違ったということだ。もちろん結果論ではあるが、負債を意識せず、NOMURA BPI 総合指数で運用していたことにより相当程度の逸失利益があったと言うことはできるだろう。
 
Chart2_円債と主要円債代替のリスク・リターン.jpg


次に、円債代替を導入してNOMURA BPI 総合指数から他資産にシフトしていたらどうだったのかを見てみよう。円債代替で最も一般的なのはヘッジ外債(ベンチマークはシティ世界国債指数(WGBI)、以下同様)だと思われるが、実はこれは奏功しNOMURA BPI 総合指数よりも高いリターンを獲得できている。一方、同じく円債代替として普及していた株式マーケット・ニュートラル(MN)は、指数で見ると必ずしも上手くいっていない。「あとからは何とでも言える」と言われればそれまでなのだが、それでも企業年金にとっての「ニュートラル・ポジション」は超長期であり、そこから円債代替の導入により意図的に乖離させたことはマイナス寄与になっていた、と言う事実は心に留めておく必要があるだろう。

 

円債代替を導入する前に: 円債に何を期待しているのか?

このような円債代替の歴史を振り返った上で、今後更なる円債代替を検討するべきかを考えてみる。円債代替を考える際、利回りがマイナスになったから、「円債から逃げろ!」と拙速に考えるのではなく、そもそも円債に何を期待していて、それが今機能しているのかということを冷静に考えることが重要だろう。企業年金が円債に期待する役割は、主に
 
1. 負債に対するヘッジ機能
 
2. 株式に対するディフェンド力
 
3. インカム・ゲインの創出
 
だと考えられるが、これらの役割はマイナス金利となった今、どのように変化したのだろうか。
 
 

負債に対するヘッジ機能

まずは負債に対するヘッジ機能について見てみる。図表3では企業年金の負債をNOMURA BPI 指数の超長期とした場合に、NOMURA BPI 指数の各指数やヘッジ外債、株式MNの負債に対する連動性がどれくらいなのかを示している。左図では月次リターンを使って長期的な傾向を調べている。当たり前だが、円債代替よりは円債、円債の中では、長期債になればなるほど負債に対するトラッキング・エラー(TE)は下がる、つまり負債連動性が上がっていることが確認できる。一方、代表的な円債代替(ヘッジ外債、株式MN)はいずれもTEが高く、特に株式MNのTEが著しく高くなっている点には注意が必要である。
 
Chart3_負債に対するヘッジ機能.jpg
 
では、この傾向がマイナス金利になってどう変わったのかを見てみる。右グラフにあるように、マイナス金利の導入以降、全体的に負債に対するTEが上昇し、負債との連動性が低下している。中でも、NOMURA BPI 総合短期とNOMURA BPI 総合中期のTEは特に大きく上昇しているが、BPI 総合やBPI 総合長期はそれほど大きく上昇していないので、相応に長いデュレーションの円債の負債連動性は引き続き健在だと考えられる。
 
 

株式に対するディフェンド力

次に株式に対するディフェンド力がどうなっているのかを調べた。図表4の左図は月次リターンで長期間見たときに、株式がマイナスの時に円債および円債代替(ヘッジ外債、株式MN)がどうなっているかを示しているが、株式MN以外はプラスになっているのが確認できるだろう。円債のみについて、マイナス金利導入後の状況を日次で見たのが右図だ。確かにプラスのリターンは小さいが、株式がマイナスの時にはプラスになっており、ディフェンド力が無くなっているわけではない。
 
Chart4_TOPIXマイナス時の円債および円債代替の平均リターン.jpg
 
 
次にディフェンド力を株式(TOPIX)に対するベータで見てみた。図表5の左図では長期の傾向を記載したが、このグラフから円債の株式に対するベータはマイナスになっており、株式に対するディフェンドとして機能していること、そして長期債になればなるほど、ディフェンドとして機能していることが確認できるだろう。一方、株式MNはやはり株式との連動性があり、ディフェンド力が弱いようだ。
 
Chart5_TOPIXに対する円債および円債代替のベータ.jpg
 
 
円債のみについて1月以降を日次で見たのが右図だ。マイナス金利導入以降、若干ながらすべての円債でプラスのベータになっており、一見するとディフェンド力が落ちているように見える。しかしながら、過去にもベータがプラスになる局面はあり、現時点ではマイナス金利の導入によってベータがプラスになったとまでは明確に言えないと思われる。
 
 

インカム・リターンの創出

3つ目はインカム・リターンだ。図表6の左図ではNOMURA BPI 総合の各指数を使って、過去のインカム・リターンを1年ローリングで算出したが、やはり一様に低下してきているのが確認できるだろう。右図では、3月末時点の円債の最終利回りを表している。
 
Chart6_債券のインカム・リターンの推移と最終利回り.jpg
 
 
NOMURA BPI 総合指数はかろうじてプラスだが、短期と中期の指数ではマイナスの利回りになってしまった。長期もイールドカーブがフラットになってしまったので、利回りが低下してきている。改めて述べるまでもないが、円債のインカム・リターンを獲得する能力はやはり落ちていると言わざるを得ないだろう。
 

円債代替を検討する際のポイント: 何を求めているのか明確化する

ここまでの話をまとめると、
 
1. 負債のヘッジ機能に関しては、短中期債のヘッジ機能は落ちている可能性があるものの、総合や長期は依然として機能している
 
2. 株式に対するディフェンド力については、日次でみるとベータが若干プラスになっている点は気になるものの、株式が下落した時に円債はプラスのリターンとなっており、引き続き機能している
 
3. 円債のインカム・リターンは、明らかに低下している
 
となる。つまり、円債は最初の2つの役割ではまだ機能しているので、円債にはこの2つの役割を期待して、引き続き投資し続けることには一定の合理性があると考えられる。一方で、インカム・リターン獲得の観点からは補強策が必要になると思われる。
 
では補強策を考える時、何に気を付けなければならないのか?
 
「本来、円債に振り向けた資金であるため、円債の特性と大きくかけ離れたものは止めた方が良い」と私は考えている。円債と大きく異なる性質の資産を採用したいならば、円債の枠ではなく、オルタナティブなど他のカテゴリーで採用すべきだろう。そうでないと、ポートフォリオ全体でリスクを取りすぎることになり、危機時に想定以上のマイナスを被るといったリーマンショックの二の舞を演じる可能性がある。
 
では、何が円債と近くて何が遠いのだろうか? 図表7はクラスター分析と言う統計手法を用いて、それを視覚的に表したものだ。トーナメント表の1回戦で当たるものほど近い性質、決勝戦でぶつかるものほど、遠い性質を意味している。これを見ると、例えば円債代替として一般的なヘッジ外債(シティ世界国債指数(除く日本、円ヘッジ))は円債と近く、円債代替としては適していると判断される。一方、株式MN(クレディスイス株式MN指数(円ヘッジ))は円債からは遠く、むしろ株式に近い性質があるため、円債代替としては適さないと考えられる。このように円債からの距離を踏まえた上で、円債代替のソリューションを考えるのが重要だと考える。
 
Chart7_資産クラスをリターン・リスク・相関係数で分類.jpg
 
 

マイナス金利における適切なソリューションは?

以上を踏まえた上で、私が考えるインカム・リターン補強のソリューションは大きく2つである。
 
1つは、「金利上昇への備え」で失敗してきた歴史を踏まえると、当たらない金利の方向感への賭けはやめて、金利に対して予断を持たない「ニュートラル・スタンス」に戻してはどうか、というアイデアだ。前述のように企業年金にとっての「ニュートラル・スタンス」は負債を意識した運用になるため、これはつまり、超長期債をもっと活用するということだ。結果的に負債に対するヘッジ機能、ディフェンド力を高めることもでき、インカム・リターンも少しだが高めることができるようになる。確かに金利上昇時にはマイナスを被るが、その時には同時に負債も減るため会計上は問題ないと考えることもできるだろう。また低金利からの金利上昇時には、株式からのプラスで債券からのマイナスを相殺できる可能性もある。
 
もう一つは円債代替ではなく、外債を含めて債券全体でインカム・リターンを補強するというアイデアだ。といっても、あまりにリスクが高いと債券全体のリスク水準が上がるので、リスクが高くならない範囲でインカム・リターンが期待できるものにシフトすることを考える。その際、既に実践している企業年金が多いヘッジ外債よりは高いインカム・リターンが期待できるものと言う条件で考えると、ヘッジ付の投資適格社債や優先REIT等が候補として挙がってくる。特に優先REITは流動性に若干の懸念はあるものの、株式とは性格も異なり、かつ相応のインカム・リターンが期待できるため、有力な候補になり得ると考えている。
 
逆に私が、注意を要すると考えるアイデアは以下の2つだ。
 
1つはハイイールド債など信用リスクの高い債券だ。同じ債券とはいえ、インカム性を求めてハイイールド債までいくと、性質が株式に近くなってしまうからだ(図表7でもハイイールド債(バークレイズ・グローバル・ハイイールド)は株式に近いものとして分類されている)。もちろん、ハイイールド債の活用自体を否定するわけではないが、投資するならば円債からのシフトではなく、むしろ株式などのリスク性資産の枠の中で投資すべきだろう。
 
もう1つは株式MNだ。株式MNは単にリスクやリターンの水準が円債に近いことから、2000年代前半から円債代替として活用されてきた歴史がある。だが、これまでも説明してきたように、株式MNではもともと円債に期待している負債に対するヘッジ機能、株式に対するディフェンド力が果たせなくなってしまう。しかも、インカム・リターンが高まるわけでもないので、インカム・リターン補強という今回のニーズも満たせない。故にマイナス金利対応という文脈で導入するのは無理があるように思う。
 
マイナス金利によって何らかの対策を考えることは急務ではあるが、拙速に動くのではなく、マイナス金利によって円債の何が機能しなくなり、何を補強したいのかを明確にすること、そして導入する場合でも円債からの距離を考えることが必要なのではないかと考える。
 



 
 
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