2016年8月8日
欧州中央銀行(ECB)の政策は欧州の銀行の伝統的なビジネスモデルに挑戦状を投げつけている。これは欧州の銀行業界に抜本的な変革を強いるものとなるのだろうか? そうだとすれば、それを機に発展する銀行と衰退する銀行に二極分化することになるのだろうか?
欧州の銀行は貸出需要低迷、激しい競争、規制コスト上昇などに苦しんできたが、ECBの政策がさらなる打撃となり、利益率が一段と圧縮されている。
それに加え、英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決定したことで、状況はさらに悪化する可能性がある。ECBの政策で低金利が長期化するとみられるほか、過去に経験したことがないほど収益拡大が難しい市場環境になる見通しであるからだ。
金利が一段と低下するのに伴い、欧州の銀行は融資から得られる利益が減少している。しかも、ECBに余剰資金を預ける際の金利がゼロ%を大幅に割り込んでいるため、準備預金を積み上げれば金利を支払う状況になっている。
今のところ、銀行はマイナス金利に伴うコストを消費者に転嫁することには消極的で、そのコストをほとんど自分たちでかぶっている。しかし、個人から多額の預金を集めている銀行は、いずれ預金コストを吸収できなくなる限界点に到達するものと思われる。
一部の銀行は、金利がさらに低下しても、これ以上の貸出金利引き下げは見送る可能性がある。そして、いずれは金利引き上げに踏み切る動きが生まれるかもしれない。実際、スイスやデンマークではすでにそうした動きが現れている。
銀行はまた、無料で提供してきた当座預金口座など、長年リテール業務の中核と考えられてきたサービスに対して手数料の徴収に乗り出す可能性もある。しかし、欧州の銀行業界には競合先がひしめいている上、テクノロジーを駆使した新興勢力や「チャレンジャー」バンクといった新規業者が市場に参入しているため、競争が激化している。それは、伝統的な銀行にとって、標準的な商品やサービスのコストを引き上げる余地が限られていることを意味している。
しかも、銀行は融資拡大を通じて利益率を押し上げる余地もあまりない。欧州では融資の伸びが低迷している上、住宅ローンなど利ざやの少ない貸出に偏っているからだ。
こうした事実はいずれも、小手先の対応では欧州の銀行の利益を支えることはできないことを示している。銀行の顧客も超低金利に苦しみ、銀行との付き合い方を変え始めている状況においては、なおのことである。
預金者は、銀行に長期間資金を預けておいても受け取れる利子が少なくなったため、すぐにアクセスできる口座に切り替える人が増えそうだ。一方、ローンを抱えている人々は低水準で金利を固定しようとする可能性がある。こうした傾向は銀行にとって、高い収益を生む資産が徐々に蝕まれ、収益性がさらに落ち込むリスクを意味している。
これは、銀行が生き残りたければ伝統的なビジネスモデルを大胆に変える必要があることを示している。それには、たとえば預金口座から、投資信託や年金商品などの高利回り商品に顧客を誘導することが含まれるかもしれない。
そうすれば、銀行は顧客と長期的な関係を強めることができ、その結果さらに様々な商品を販売することもできるほか、バランスシートを使わずに済むビジネスで手数料を得ることも可能になる。
充実した投信商品のプラットフォームを構築している銀行は、手数料を得られる貯蓄商品や年金関連商品に重点を置く上でとりわけ有利な立場にある。規模の小さな銀行が手数料ビジネスを拡大するには、おそらく大手銀行との提携などを通じて、遠回りの道を辿らざるを得ないかもしれない。
欧州の銀行の顧客は様々なグループに分けられる。貯蓄行動や資産の保全方法の選び方に大きな相違があることは、銀行セクターの変革が及ぼす影響が一部の国では他国と比べ大きいであろうことを意味する。
ドイツ人は貯蓄を好む傾向があり、他のユーロ圏主要国に比べ、国民の純資産に占める預金の割合が高い。オランダの消費者は年金資産を重視する傾向があり、例えば純資産の80%近くを住宅が占めるスペインの消費者などと比べ、純資産に占める非金融資産(住宅など)の比率は低い。
そのことは、ドイツとオランダの消費者がスペイン、イタリア、フランスなどの消費者と比べ、金利変動の影響にさらされやすいことを示している。その結果、ドイツやオランダの銀行は顧客を伝統的な預金から引き離し、例えば手数料の得られる投資信託などに誘導する余地が大きいかもしれない。
銀行が預金口座にどれだけの金利を支払っているかについては、地域によってばらつきがある。一部の国では、銀行は預金者を確保するため、口座に特別優遇措置を提供している。例えば、フランスの顧客は「Livret A」と呼ばれる非課税貯蓄口座を通じて無税で預金することができる。
ドイツとスペインの銀行は預金金利が最も低い。一部のスペインの銀行は預金者を積極的にバランスシートに反映されない商品に誘導してきた。一方、そうした動きはそれほど起きていないことから、欧州最大の銀行市場であるドイツでは今後そうした動きが強まる余地が残されている。
それでも、銀行顧客の行動は緩やかなペースで変化すると思われる。そしてそのことは、欧州の銀行セクターの変革が一夜にして革命が起こるのではなく、緩やかな進化といった形で進む可能性が高いことを示している。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。
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