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クリントン候補とトランプ候補: 両候補の経済政策がもたらすインパクト

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ジョセフ・カーソン  
アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー
グローバル・エコノミック・リサーチ・ディレクター
 

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2016年10月25日

 

米国大統領選挙でしのぎを削るヒラリー・クリントン候補とドナルド・トランプ候補は、共に独自の経済政策案を公表している。それは米国経済にどのような影響を与え得るだろうか?
 
民主党のクリントン前国務長官の政策案と共和党のトランプ氏の政策案は、視点とスケールにおいて大幅に異なっている。そして、いずれにせよ、それらの成否はいかに議会と協力し、法案を可決に持ち込むことができるかにかかっている。ここでは、それぞれの政策案がもたらし得る経済的なインパクトと、議会通過の実現性について見てみよう。
 

クリントン氏の経済政策: 穏便なスケール

クリントン氏の経済政策案は、多岐にわたるが、経済成長率に及ぼすほどスケールは大きくない。
 
税制改革案を踏まえると、歳入を10年間で1.1兆米ドル増加させると見られる。改革案にはインフラ投資(3,000億米ドル)、新エネルギー、教育、医療、育児などの幅広い政策イニシアティブが含まれる。
 
クリントン氏の税制改革案の焦点は、主に上位所得層にある。例えば、500万米ドルを超える所得に対する4%の所得税上積みや、100万米ドルを超える所得に対する連邦税の最低税率30%の導入といったものだ。キャピタルゲイン課税に関しても、低い税率が適用される「長期保有」に該当する期間の延長といった案が含まれる。相続税も、夫婦間相続の控除額が現在の1,090万米ドルから700万米ドルに引き下げられる。アーバン・ブルッキングス・タックス・ポリシー・センター(ブルッキングス研究所とアーバン研究所のジョイント・ベンチャー)によると、すべての納税者のうち、95%の人々にとって、納税額は現在とほとんど変わらないという。
 
法人税に関しては、クリントン氏は、米国外に移転しようとする企業に対し出国税を課そうとしている。また、法人税率が低い国を利用したり、支払金利の控除により税額を減らしたりする行為を難しくすることも検討されている。
 
移民問題に関しては、不法移民が市民権を獲得し易くする方針を示している。貿易面では、現政権が合意したTPP(環太平洋パートナーシップ)の再交渉を求める予定だ。また、環境保護庁の規制や、金融セクターにおける厳格な規制や資本基準を維持する方向である。さらに、医療に関しても公的な範囲を保つことが重視される。
 
総括: 現在の経済にとって最大の問題が低成長であると考えるならば、クリントン氏の歳入・支出を共に拡大するバランス型政策は、総需要拡大にはあまり大きな影響がないだろう。公的部門の需要増加とほぼ同じだけ、民間部門の活動が縮小するからだ。一方、富の格差こそが最大の問題であると考えるならば、一定の解消に寄与すると思われる。
 

トランプ氏の経済政策: 野心的だが、貿易などにリスク

トランプ氏の政策案は、野心的だが、バランスという点で疑問符が付く。
 
その中核にあるのは、幅広い分野にわたる大規模な減税だ。連邦政府の歳入は10年間で9.5兆円減少すると推計されている。現在7段階ある累進税率は、3段階(10%、15%、25%)に簡素化する方針である。また、低所得層向けの代替最低税率と、相続税は共に廃止する。アーバン・ブルッキングス・タックス・ポリシー・センターによると、所得上位層の納税額は減少し、45%の納税者にとってはほとんど変化なしという見通しである。
 
法人税は、最高税率を現在の35%から15%に引き下げ、幅広い分野にわたり控除を廃止することを唱えている。
 
移民政策は、不法移民の強制送還を回避し労働許可証の取得を可能にしようとしている現政権の方針からは大きく舵を切る。
 
通商政策も現政権の方針とは大きく異なる。TPPを支持しないだけでなく、北米自由貿易協定(NAFTA)を始めとする既存の貿易協定も廃止することを訴えている。さらに、米国にとって2大貿易パートナーであるメキシコと中国に対しては、35%-45%もの高率関税を課すべきだとしている。
 
トランプ氏は、連邦政府支出に関しては明確な発言をしていないが、防衛費の増加と政府プログラムにおける無駄や不正の追放を唱えている。規制面では、医療制度に関する既存の連邦政府ベースの制度の廃止を訴えている。さらに、エネルギー・セクターや金融セクターの一部に関する現行の規制の緩和ないし撤廃を求めている。
 
総括: 経済の最大の問題が低成長だと考えるなら、トランプ氏の経済政策は大規模減税による景気刺激効果が期待できよう。しかし、せっかくの減税効果も、貿易政策によるマイナスで相殺されてしまうと見られる。米国の多国籍企業は、グローバルな経済活動を行っており、米国の輸入の1/3は米国企業の海外子会社等からのものなのだ。
 
輸入製品の価格引き上げにつながるような政策は、ビジネスにとってはコスト増大となる。それは利益率の低下に直結し、経済成長の見通しを悪化させる。
 
そして、富の格差こそが今日の米国経済の最大の問題だとする立場からは、トランプ氏の政策が解決策になるとは思えない。
 

議会: 究極の意思決定者

メディアの報道は、言うまでもなく両候補の戦いに焦点を当てている。しかし、議会選挙も同じく重要である。税制改正案や予算案はすべて議会を通過しなければならないからだ。

 
現在、共和党が上院においてはわずかな多数議席、下院では大幅な多数を占めている。新たな勢力図は、選挙後にふたを開けてみないと分からない。
 
また、クリントン氏もトランプ氏も、それぞれの党の主流派とは必ずしも良好な関係にはない。民主党の政策プラットフォームは、富裕層課税、企業の租税回避阻止、医療における政府関与拡大、最低賃金引き上げなど、多くの面でクリントン氏の政策案より急進的である。トランプ氏の政策も、自由貿易や小さな政府といった共和党が長年信奉してきた方針と相入れないものがある。
 
これまで、米国の新大統領は自らのビジョンが国民の付託を受けたものとして、政治に挑んできた。しかし、今回の両候補の場合、政策案の半分も議会を通せるか大いに疑問だ。共通のテーマがあるとすれば、それはインフラ整備であろう。両候補とも、連邦政府による大規模なインフラ支出が必要だとしている。しかし、それも議会の承認が必要だ。
 
過去の経験からすると、税制改正はほぼ必ず個人所得税と法人税の両方を含むものとなる。共和党が法人税改革を望み、民主党が中間所得層を中心とする個人の所得税減税を望む場合、その中間のどこかで折り合いをつけることができるかもしれない。
 

米国が賄えるのはどこまでか?

選挙後の焦点は、財政政策の変更の可能性や、どこまでが実現可能なのかといった議論になろう。そして、その議論は、バランスシートと資金調達コストのどちらを重視するかということに左右される。
 
米国政府の既存債務は19兆米ドルに上り、財政赤字が解消される見通しは描けない。経済成長を名目に債務をさらに増やすことは容易ではなく、コスト上昇にもつながる。しかし、10年物米国債利回りが1.6%に過ぎない現在、新規借り入れのコストは、名目GDP成長率や歳入伸び率見通しの半分に過ぎない(図表)。
 

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新たな大統領が掲げる財政政策の見直しは大規模ではないが、経済成長率を支える点で魅力的だろう。数年間にわたり経済成長率を底上げできる見通しが立つ場合には、特にそうだ。米国政府が大規模な財政拡張を行ったのは1980年代初頭だが、当時の10年物米国債利回りは13%だった。現在の方がリスクとリターンのわりは良さそうだが、それでもなおリスクがないわけではない点は留意が必要だ。
 
 
 
 
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