株式市場の投資家は米国の税制改革を支持しているように見える。だが、楽観論は後退を強いられるかもしれない。税制改革が個別銘柄に与える影響はまちまちで、いくつかの要因に左右されそうだ。

 

米国の税制改革を巡る議論は2017年末に急速に進展し、12月15日午後遅い時間に最終案が公表された。法案が上下両院を通過すれば、クリスマスまでにはトランプ大統領の署名を経て成立する見通しだ(注:当法案はその後議会を通過し、12月22日に大統領署名により成立済)。

 

それはトランプ政権にとって初年度の最大の政治的成果となる。

 

米企業は法案の成立を強く待ち望んでいる。法人税率は現行の35%から21%に引き下げられる見通しで、幅広い業界の数多くの企業が恩恵を実感できることになろう。しかし同時に、大規模な税制改革によってどの企業が最も大きな恩恵を受けそうか、そしてその恩恵がどのように浸透していくかを理解するには、それぞれの企業の状況を精査していくことが必要だと考えている。

 
 

競争で収益押上げ効果が損なわれる可能性   

すべての企業が同じように影響を受けるわけではない。市場をリードする一部の巨大企業を含む多くの米国企業は、これまで何年にもわたって利益を海外に滞留させてきた。当法案はキャッシュを海外に滞留しておくインセンティブを減少させるが、各企業の利益に与える影響はグローバル市場での収益構造によって異なる。一方、現在法定税率に近い水準で税金を支払っている国内ビジネスの比率が高い企業は、多くの恩恵を受けられそうだ。

 

しかし、減税は激しい競争環境を生み出す可能性がある。減税による恩恵が各企業でほぼ同等である業界では、企業は減税による恩恵を価格の引下げに充当することで競争を勝ち抜こうとし、利益はそこそこの水準に落ち着いてしまう可能性もある。

 

優位性のある企業に大きな追い風   

一部の企業は長期的な恩恵を享受できる可能性がある。特に、すでに競争上優位な位置にある企業は税制改革で勝者となりうる。例えば、大手テクノロジー企業の多くはビジネス上で非常に有利な地位を占めており、税率の引下げで創出された余剰キャッシュをより多く手元に確保できると見られる。一般的に、寡占化している業界で高い税金を支払っている企業は、税制改革でより大きな恩恵を受けることができそうだ。

 

同様に、競合の参入が難しい業界も、少なくとも一時的には恩恵を維持できるだろう。米国に数十億米ドル規模の化学プラントを構えている企業を考えてみよう。競合する海外企業が、減税により資産を米国に移転しようとするかもしれないが、既存の工場を移転することは時間もコストかかるため、そう簡単なことではない。

 

キャッシュの本国環流    

税制改革法案は企業が海外に滞留するキャッシュの米国への環流を促す狙いもある。法案に基づけば、企業は魅力的な税率で海外から米国に資金を還流させることが可能になる。

 

海外に2,500億米ドルのキャッシュを保有するアップルのような企業にとって、その潜在的な影響は非常に大きい。投資家はすでにそれを認識しており、アップルのバリュエーションを分析する上でキャッシュ保有残高を考慮している。しかし、法案によってこうした企業がキャッシュやバランスシートをより柔軟に管理できるようになると考えられるものの、それを完全に評価するには時間がかかりそうだ。

 

 小型株に大きな恩恵     

その一方で、米国の小規模企業(小型株)は高い税率が適用されているケースが多いため、大企業(大型株)に比べ減税による収益押上げ効果が大きいと考えられる。しかし、減税の影響は複雑なものとなる見込みで、ABが最近のブログ(以前の記事『Will Tax Cuts Yield a Small-Cap Windfall?』(英語)ご参照)で指摘したように、企業間で異なる形で影響を受ける可能性がある。

 

株式市場が税制改革の成立を好感して上昇すれば、重要な政策決定は株式市場に大きなインパクトがあると考えがちである。

 

しかし、短期的なセンチメントは決して長期的な投資戦略の指針とはならない。税制改革が業界や企業に与える真の影響は、一定の時間が経過しないと把握されない。投資家はどの企業が税制改革によって最大の恩恵を受けるかを理解するために、各企業のキャッシュ・ポジションや競争環境をしっかり注視していく必要がある。 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

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