新興国債券(EMD)市場は2017年に力強く上昇した後、年明け後も米国金利が急激に上昇する中で底堅く推移した。この堅調ぶりは偶然ではない。新興国の経済ファンダメンタルズが著しく改善していることが背景にあり、このためEMDは目先で起こり得る市場のボラティリティに対しても相応な抵抗力を備えていると見られる。

米国債利回りは1月に急上昇した。投資家が遅ればせながらもインフレ率の上昇や、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に4回利上げする可能性を織り込み始めたからだ。それでも、米ドル建て、現地通貨建てのいずれで見ても、EMDインデックスの多くはプラスのリターンを上げた。現地通貨建てはとりわけ好調で、ハイイールド社債市場をアウトパフォームするほどだった。

EMDのアクティブ運用はさらに素晴らしいパフォーマンスを達成した。1月はハードカレンシー建てEMDのアクティブ運用マネジャーの75%以上がベンチマークをアウトパフォームしている。

現在の市場のボラティリティも、EMDの最近のパフォーマンスも、決して意外なことではない。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では2017年末、インフレや米金利リスクの見直しに関し市場は後手に回っており、ボラティリティが高まる恐れがあると警告した(以前の記事『新興国債券市場の回復はまだ道半ば』ご参照)。また、EMDはボラティリティ上昇に対する抵抗力が高まっていると見られるため、この資産クラスから手を引くべきではないと言った。さらに、EMDへのエクスポージャーについては、アクティブ運用を用いることで選別的な姿勢を維持するよう投資家に促した。

EMDの底堅さの理由は何だろうか? EMDの過去や現在の状況を検証することでその答えを探し、今後の見通しについて考えてみよう。

過去: この数年間、多くの新興国が経常赤字を削減し、インフレを抑制してきた。また、支出抑制や税制の簡素化、国内の燃料価格を国民の所得水準に合わせて抑制するための補助金の打切りなどを通じ、政府の財務立て直しに努めてきた。

新興国経済は、いつもそのように健全だったわけではない。過去10年間を振り返ってみると、その前半は多くの新興国が多額の財政赤字を抱え、それを証券投資による資金流入が穴埋めしてきた。米FRBが2013年に緩和的な金融政策を正常化する方針を示し始めると、世界中の投資家がそれをきっかけにリスク縮小に乗り出し、その結果投資マネーへの依存度の高い新興国では通貨価値が落ち込み、金利が上昇した。

新興国における経済ファンダメンタルズの大幅な改善は、そうした急激なポートフォリオ資金の流出に対する各国の脆弱性克服に貢献してきた。今日では、経常収支の赤字が縮小している上に、証券投資マネーと比べて安定性の高い海外直接投資が潤沢に流入し、経常赤字を十分埋め合わせている。

現在: 当然ながら、EMDへの投資では国別、個別企業別、セクター別などによる選別が依然として重要な意味を持つ。政治的リスクを無視できないことがその理由のひとつだ。一部の新興国では2018年に重要な選挙が控えている。

幸い、政治的リスクの中身は国によって大きく異なっている。ブラジルやロシアが抱えるリスクは、メキシコやベネズエラのリスクとは異なっている。このことはアクティブ運用の重要性を裏づけている。また、最近の市場のボラティリティ急上昇は、そうしたアプローチがいかに重要たり得るかを物語っている。モーニングスターのデータによると、アクティブ運用のEMD戦略はその80%がベンチマークをアウトパフォームしている*。長期的にも同じ傾向が見られる。2004年から2017年までの期間におけるパフォーマンス(3年間ローリング・ベース)を見ると、アクティブ運用の69%がJPモルガンEMBI 指数をアウトパフォームしている(以前の記事『Passive Investing Hurts Emerging-Market Debt Investors』(英語)ご参照)。

将来: 金融危機以降の金融緩和局面が幕を閉じようとしているため、米国を中心とする先進国の金利は上昇が続くと見込まれる。FRBは今年さらに何度か利上げする計画を示している。欧州中央銀行(ECB)の金融政策についても、ABのエコノミストは2018年に資産買入れを打ち切り、2019年には金利引上げに着手すると予想している。

こうした状況変化は、米国の長期債をはじめとするグローバルな債券利回りを押し上げる要因となりそうだ。しかし、金融政策の引締めや債券利回りの上昇が世界経済の力強い拡大を伴うものである限り、新興国の資産にとって問題とはならない。米国などの先進国における力強い経済成長は、他地域の経済活動を押し上げる傾向がある。新興国自身の強固な経済ファンダメンタルズもEMD市場を支える。

それに加え、EMD市場はここ数年、緩やかな金利上昇に対する抵抗力を示してきた。1993年以降、米10年債利回りが100ベーシス・ポイント以上上昇した期間は9回あった。ハードカレンシー建てEMDはそのうち7回において、プラスの累積リターンを上げてきた(以前の記事『Why EM Debt Investors Don’t Worry About Rising US Rates』(英語)ご参照)。現地通貨建てEMDは市場が誕生してからまだ日が浅いが、最近の利回り上昇局面の大半において底堅い動きを示してきた。

こうした、市場が非常に不安定な場面においてもEMDが好調なパフォーマンスを示したことは、どのような債券ポートフォリオであってもEMDを中核的な保有資産とすべきであることを意味している。EMDに関してアクティブ運用を用いて選別的なエクスポージャーを構築する投資家は、ポートフォリオの運用リターン向上に成功する可能性を高めていると言える。

* EAAファンド・グローバル・エマージング・マーケッツ・ボンド・モーニングスター・カテゴリーに含まれるすべてのファンドの、対 JPモルガンEMBI グローバル・ダイバーシファイド・インデックスでの相対パフォーマンス
 

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