近年、変動金利へのエクスポージャーや高利回りを求める投資家の間で、新しいモーゲージ担保証券の一種である信用リスク移転(クレジット・リスク・トランスファー)証券(CRT)への関心が高まっている。足元では、米国の税制改革が住宅市場に打撃を与え、CRT市場にも影響が及ぶとの懸念も浮上しているが、詳細に検証してみればそうした懸念は杞憂であると思われる。

米国の政府系住宅金融機関である連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディ・マック)は、2013年にCRTの発行を開始した。従来からのエージェンシー債と同様、CRTは何千件もの住宅ローンをプールして一つの証券にまとめたもので、投資家は原資産となるローンのパフォーマンスに基づき、定期的なインカムを受け取ることになる。しかし、大きな違いもある。CRTには政府保証が付いていないことだ。つまり、多数のローンがデフォルトに陥った場合、投資家が損失を被る可能性がある。

ここ数年は、それは大きな問題とはなってこなかった。米国の住宅市場が着実に回復していた上に、借り手の信用の質もリーマン・ショック以前と比べはるかに高まっているためだ。例えば、個々の住宅保有者の信用度を測るFICOスコアは、過去10年で大きく改善しているし、所得に対する負債の比率も非常に健全な水準にある。こうした要因はすべてデフォルト率を低水準に抑える役割を果たしてきた。

しかし今、その状況は変わろうとしているのだろうか?2017年末に成立した税制改正には、住宅市場に影響を及ぼしかねないと多くの人々が懸念する2つの大きな変化が盛り込まれている。住宅保有者が連邦税から控除できるローン金利と州および地方税に上限が設けられたことだ。しかし、ABはそのどちらもCRTに大きな影響をもたらすとは考えていない。

ローン金利控除: CRTは影響を回避  

ローン金利の控除から考えてみよう。これまで、借り手は100万米ドルまでのローンに対する金利の一部を償却することができた。税制改正後は、その上限が75万米ドルに引き下げられた。

この変更は高級住宅の価格に若干の影響を与える可能性があるが、CRTにとっては問題とならない。なぜなら、63万米ドルを超えるローンはCRTに組み込むことができないからだ。実際、CRTのプールに組み入れられているローンの大半は50万米ドル以下となっている。

この問題は当初、投資家を動揺させた。当初の税制改革案には50万米ドルを超えるローンについて支払金利の控除を打ち切ることが盛り込まれていたからだ。しかし、その上限が修正されたことで、CRT市場は影響を回避することができた。

新たなSALT規定も心配に及ばす  

より大きな問題は、「SALT控除」として知られる州及び地方税の控除額に上限が設けられたことだ。新税制では、納税者は連邦税から1万米ドル相当の州及び地方税を控除することができる。これまでは控除額に上限がなかった。

この変更により、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ニュージャージー州などの不動産税の高い州における高価格の住宅はやや手に入れにくくなり、買い手が住宅を購入する際には価格帯を引き下げようとする動きとなる可能性がある。

このことは、デフォルト率を押し上げるほど住宅価格に打撃を与えるだろうか? そんなことはなさそうだ。不動産税の高い州の高級住宅の価格は一時的に1%-2%ほど下落すると推定される。しかし、その程度であれば、デフォルト率に大きな影響を及ぼすほどではないだろう。

税制改革は住宅市場を下支えする可能性も   

結論を言えば、今般の税制改革が米国の住宅市場を損なう要因になるとは考えにくい。米国の雇用市場は依然として好調で、賃金や家計の純資産も増加している。米国経済は幅広い分野にわたり拡大を続けている。

もし税制改革が経済成長をさらに押し上げ、米国の株式市場が一段と上昇すれば、高所得層の借り手は多少の住宅価格の下落を十分に相殺できるほど資産効果の恩恵を受ける可能性がある。

投資家はここ数年、比較的高い利回りと変動金利によってCRTに引き寄せられてきた。変動金利は1カ月物LIBOR(銀行同士が短期資金を貸し借りする際に適用される指標金利)に連動するため、金利上昇局面では資産を保護する効果も得られる。図表が示すように、CRTの金利は上昇しており、変動金利バンクローンよりも上昇ペースが速い。CRT金利は、変動利付債とは異なる動きを示す(以前の記事『Don’t Bank on Bank Loans』(英語)ご参照)。

新たな税制によってそうした状況に変化が生じるとは考えていない。CRTは引き続き魅力的な投資機会を提供するであろうし、改善しつつある米国の住宅市場や経済の恩恵を受けるための優れた方法となるだろう。

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当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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