米国では過去10年間、社債による借り入れが大幅に増加してきた。金利が過去最低水準から上昇に向かう中、株式投資家が危険を避けるためには、健全なバランスシートを持つ「質の高い」企業を重視することが重要になるだろう。

 

超低金利は長年にわたり資本市場を刺激してきた。多くの企業は好ましい資金調達環境を活かして借り入れを膨らませてきた。しかし、環境が変化し金利が上昇するのに伴い、投資家は緩和的な金融政策が生み出した厄介な副作用に直面する可能性がある。

 

金融機関を除く米国の一般企業が発行した社債の発行残高は2011年以降63%増加し、6兆3,000億米ドルに達した(図表1)。S&P 500指数構成企業のEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)に対する純債務の比率は、2011年末頃の水準から50%以上増加し、現在では1.75倍に上っている。そして、本当に懸念すべき点は、そうした多額の借り入れをけん引しているのが「質の低い」企業であることだ。格付が投資適格等級の下限であるBBB格の企業による借り入れは、2011年以降倍以上に拡大し、現在では米投資適格社債指数の半分程度を占めている。

 
 
BBB格の企業による債務が大幅に拡大.png
 

昨今のGEの苦境はこのリスクを浮き彫りにしている。同社はこのところ株価が下落しているほか、信用格付もBBB格に引き下げられ、投資適格等級の格付を失う寸前に追い込まれている。GEの問題は、成果に結びつかなかった企業買収や自社株買いを行うために過度の借り入れを進めてきたという過去の行動に根差すものだが、これは株式投資家にとって警鐘となる(以前の記事『米国企業は将来のために十分投資しているか?』ご参照)。もちろん、格付がBBB格の企業でもファンダメンタルズがしっかりしていて、長期的に良好なパフォーマンスが見込まれるものもあるが、GEのように過度の借り入れを行ってきた企業は、金利上昇に伴って市場からはじき出される可能性がある。

 

債務の質の悪化と金利上昇:悪い組み合わせ 

金利が上昇すれば、変動金利債務を過剰に抱えた企業の資金調達コストは押し上げられる。インフレ率の上昇はコスト増と利益率の圧縮を招くため、インタレスト・カバレッジ・レシオの悪化や信用格付の引き下げにつながる可能性がある。その結果、資金調達コストがさらに上昇し、負の債務スパイラルに陥る恐れが生じる。さらに、新たな借り入れが困難となった場合、株価が高かった時に自社株買いを行うために債務を膨らませた企業が、今度は債務を圧縮するために安値で株式を発行するはめになりかねない。

 

投資家は常に企業のバランスシートを精査しなくてはならないが、最近はその重要性がかつてないほど高まっている。債務の質の悪化と金利上昇は憂慮すべき組み合わせで、最終的に企業収益や株価に打撃を与える可能性がある。そうした状況がすでに生じている兆しもある。高水準の債務を抱えた米国企業の株価は、債務の少ない企業に比べ、2018年10月末時点の年初来パフォーマンスが7.2%下回った。

 

財務の質を測る3つの指標

では、現在の市場環境において投資家は何に注目すればいいのだろうか? 今日の複雑な市場環境で長期的に着実なリターンを創出し得るのは、債務比率の低さ、自力で資金を確保できる収益性、景気感応度の低い収益特性という3つのクオリティ指標でスコアが高い企業であると考えられる。

 

・債務比率の低さ: まず、健全なバランスシートを持つ企業に注目してみよう。EBITDAに対する純債務の比率が低い企業を探し出すのだ。現在、S&P 500指数構成企業のうち、その比率が指数全体の比率である1.75倍を下回る企業の数は半数をわずかに上回っている(図表2)。

 

投資家は低債務の企業を重視すべき.png

・自力で資金を確保できる収益性: 債務が少なく収益性が高い企業は、市場における資金調達環境の変化に比較的左右されにくい。資金調達コストが上昇したり、資金調達が困難な市場環境になったとしても、そうした企業の事業は影響を受けずに済む。なぜなら、そうした企業は営業費用の支払いや事業拡大に向けた投資に必要な資金を市場に頼らずに調達できるからである。ABは、総資産利益率(ROA)が収益性を測る信頼できる指標だと考えている(以前の記事『利益だけを見ていても成長企業はわからない』ご参照)。ROAが資産の伸びを上回っている企業は、自力で資金をまかなえている。そうした企業はより困難な市場環境においても、配当や自社株買いを通じて余剰資金を株主に還元することができる。

 

・景気感応度の低い収益特性: 高い収益性が持続していることは、その企業のビジネスに関し多くを物語る。大半の企業は、マクロ経済サイクルの変化に伴い収益の伸びが大きく変動する可能性がある。しかし、長期的に収益性を維持できる企業は、マクロ経済環境がどうなろうとも良好なパフォーマンスを得られる収益モデルを構築している場合が多い。銀行や素材メーカーなどコモディティ型のビジネスを行っている企業は、慢性的に低水準にあるROAを押し上げるため負債を活用しようとする傾向がある。ROAが高く、かつ債務が少ない企業は、差別化され、他社が参入しにくい事業を確立していることが多く、ヘルスケアやテクノロジー、あるいは消費関連セクターの一角に多く見られる。

 

米国では、企業収益がピークを迎えつつあるほか、信用サイクルも終盤にあり、資本市場が重大な分岐点にある。企業収益は税制改革や自社株買いでかさ上げされている(以前の記事『Smoke and Mirrors: Earnings Flatter US Stock Valuations』(英語)ご参照)。減税によって利益率が拡大したように見えるため、債務が問題ないように感じられる。だが、リスクは現実の問題だ。ポートフォリオに組み入れるのは、売上高が増加し、価格支配力を持ち、競争上の優位性があり、債務水準の低い、質の高い銘柄であるべきだろう。そうした銘柄は市場環境の変化を乗り切り、長期的なリターンをもたらしてくれるからだ。 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。


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