資産運用の世界では、たいていの仕事は1人だけでは進められないことを誰もが理解している。多くの場合、グループやチームといった集団が問題解決にあたる基礎ユニットとなろう。だが、そうしたグループが思慮深く効果的な意思決定を行い、好ましくない判断を回避できるようにするには、どうすればよいのだろうか?

「ラクダは委員会が創り出した馬である」ということわざがある。これは、どのような理想を掲げていても、グループによる意思決定は必ずしも最善の結果を導くとは限らないことを意味している。ダイバーシティ(多様性)は成功を収める大きなカギとなり得るが、単に多様であるだけでは十分ではないのだ。

投資において本当に良い成果を生み出すためには、運用チームは多様な見解や情報を取り入れると同時に、そのプロセスを損ないかねない摩擦やコストを避けなくてはならない。目的が銘柄選択であれ、資産配分あるいはリスク管理であれ、成功と失敗の差は非常に大きいからだ。

問題解決ツールの多様性が重要

組織の幅広い領域から優秀な人材を集めることができれば、効果的な投資判断を下すのに十分な知見が得られると考えたくなるだろう。しかし、必ずしもそうとは言えない。

ある調査結果(注1)によると、グループの中で最も知能の高いメンバーの能力がグループのパフォーマンスの差異に与える影響は、わずか4%に過ぎない。グループの平均的な知能ですら、9%を左右するにとどまっている。実際のところ、チームのパフォーマンス差異の90%以上は、知能水準以外の要因に起因している。

これはなぜだろうか?ひとつには、たとえ知能の高い人たちであっても、グループのメンバーの多くが同じような知的ツールを用いていれば、彼らは同じようなアプローチで問題を解決しようとしがちになるからだ。つまり、より望ましい解決策かもしれない他のアプローチには気づかない可能性があるのだ。

実は、知性にはいわゆる「学力」などの認知能力だけではなく、視空間認知力(人の顔や地図、風景などの視覚情報を処理する能力)、言語能力、対人能力といった他の側面もある(図表)。こうした知性の異なる側面は問題解決により多様なアプローチをもたらす。そしてそれは状況を一変させ得る。思考のダイバーシティは、知能水準そのものよりも重要なのだ 。

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情報のダイバーシティを生み出す努力

グループにおいてダイバーシティがもたらす影響については、長年にわたり数多くの研究が行われてきた。そうした分析は幅広いビジネス分野を対象としてきており、全体的な結論は金融サービス業を含むあらゆるタイプの企業に当てはめることができる。

それらの分析は多くの場合、社会的カテゴリーのダイバーシティと情報のダイバーシティには密接な相関関係があるという見方を前提としている。実際、民族的バックグラウンドや性別が異なる人々は確かに異なる視点や思考方法をもたらしてくれる可能性がある。しかし、それは常に誰にでも当てはまるわけではない。

多くの研究が示しているように、本当に重要な要素は情報(あるいは認識)に関するダイバーシティである。一部の人々は社会的カテゴリーのダイバーシティを情報のダイバーシティの代用品として用いるかもしれない。それは手始めとしては好ましいが、あくまでも本当に重要なことの代用品であることを理解することが重要である。たとえジェンダーや人種が多様なグループを作っても、メンバー全員が同じ大学でMBAを取得し、同じような問題解決アプローチを学んでいれば、おそらく期待しているようなダイバーシティを実現することはできない。異論もあるかもしれないが、実際に出来上がったグループは、前述したように、問題解決に向けて非常に似通ったアプローチを採るメンバーで構成されている可能性があるのだ。

何らかの価値共有も必要

メンバーの目標や信念の違い、すなわち価値のダイバーシティも、グループの意思決定を左右する重要な要素のひとつとなる。問題解決を目指すグループがその能力を十分発揮するためには、目標や基準に関する何らかの共通性が必要である。おそらく、これがグループのダイバーシティに関する一部の研究がそのプラス面を評価する一方で、一部の研究がマイナスの影響を指摘する理由だと思われる。この齟齬をつきつめると、ダイバーシティをいかにうまく管理し、取り込むかという問題になるようで、それはいかに価値を共有するのかという問題と部分的に関係がある。

結論として言えるのは、チームの編成にあたっては、できる限り幅広い人材の母集団から、多様な考え方を持つメンバーを適切に組み合わせて選出することを目指すべきであるということだ。ダイバーシティは形だけのものであってはならない。内部の対立や摩擦を避けるため、グループをうまく管理しなくてはならない。目標は協力し合うことであり、カオスを招くことではない。結局のところ、ダイバーシティから得られる実質的なメリットは、個々のメンバーの多様な考え方がもたらす全体的なメリットからダイバーシティのコストを差し引いたものとなる。

効果的なグループ運営を阻む障壁を克服

ダイバーシティは重要であるが、それは効果的なグループを運営するソリューションの半分に過ぎない。ダイバーシティに富んだチームを作り上げた後は、そうしたグループが陥りがちな幾つかの落とし穴を避けるため、慎重に運営しなくてはならない。ここでは、グループが最適に機能するのを妨げる可能性のある6つの大きな障壁を挙げ、それらへの対処法について述べる。

(1) 過度の上下関係: 過度に上下関係の強いグループでは、職位の高いメンバーによって他のメンバーの見解や意見が押し流されがちである。残念ながら、そうした形で決定が下されていることが多いのが実情だ。この問題に対処するには、企業は職位の高い人物の意見が通りがちな問題を認識し、対策を講じることが重要である。たとえば、グループの他のメンバーが意見を述べるまで、リーダーは自分の意見を控えるようにするといった方法がある。

(2) 存在感の薄い情報: 発言の多いメンバーは最も知識が豊富だと見なされがちであるが、必ずしもそうではない。グループの意思決定に関するある調査(注2)では、議論を開始する前に正しい答えのヒントをメンバーの1人に与えた。最も発言の多いメンバーが正しい答えを提案した時は、メンバーの69%がそれを信じたのに対し、最も発言の少ないメンバーが同様に正しい答えを提案しても、それを信じたメンバーは31%しかいなかった。これは、すべてのメンバーの意見を聞くことがいかに重要であるかを明確に示している。口数の少ないメンバーに発言を促すことには多少工夫が必要だとしても、彼らが確実に発言できるように具体的な措置を講じなくてはならない。

(3) 多数派のパワー: グループのメンバーは、たとえ多数派の意見が間違っていたとしても、その見解に同調しがちである。それは人間の本質的な傾向で、知識・経験ともに豊富な投資のプロであっても、このような人間の本質による影響を強く受けることがある。組織にとってこのハードルを乗り越える唯一の確かな方法は、「違うと思ったら異議を唱える義務がある」という認識を明確に掲げるカルチャーを確立し、それを支援することである。

(4) グループの分極化: この問題は多数派のパワーと関連がある。グループがある問題に取り組むとき、議論すればするほど、意見が合意に達しにくい両極端に分裂することがある。さらに悪いことに、そうした摩擦は職場の他の分野にも波及する可能性がある。組織はその点からも、反対意見を常に考慮するという明確な基本原則を定める必要がある。これは、すべての従業員のエンパワーメントという点で、組織にとって中核的な取り組みとならなければならない。

(5) 対立回避指向: 米国で盛んな「投資クラブ」の運用パフォーマンスに関する調査で、友人同士で構成されるクラブのパフォーマンスは、仕事あるいは純粋な投資上のつながりに基づくクラブに比べ、はるかに悪いことが明らかになった。友情で結びついたグループには対立がほとんど見られないが、それは全員が同意しているからではない。むしろ、彼らは難しい議論を避けることがある。どうやら、グループが好ましい意思決定を下すためには、ある程度の、節度ある摩擦が必要なようである。グループのメンバーそれぞれの意見を十分確認することで、その意見への確信度を測るとともに、友情やしがらみに基づく同意を排除しなくてはならない。

(6) 感情の軽視: 調査の結果は、他人の感情を読み取るスキルがグループ全体の知性を高めることを示している。そうしたスキルが備わっていれば、口に出さない問題や意見の一致しない問題に対し、グループがより繊細に配慮できるようになるためだ。グループにおけるやり取りの中では、予想外のボディランゲージや声のトーンなどに十分な注意を払い、言葉と非言語的コミュニケーションの間に相違点があればそれをフォローアップすることが重要である。

要点

ここまで述べてきたようなことは、ダイバーシティや好ましい意思決定にとって何を意味するのだろうか? 明らかに、グループが成功を収めるために重要な要素は数多くある。ダイバーシティはその中でも大きな要因だが、不協和や混乱を避けながら、情報に裏付けされたより望ましい解決策を生み出すためには、ダイバーシティをいかに管理するかが極めて重要な意味を持つ。

では、ダイバーシティはどの程度あれば十分なのだろうか?

それは問題の種類によって異なる。問題が難しくなればなるほど、つまり既成概念にとらわれない独創的な解決策が必要な問題であればあるほど、より幅広く多様な考え方が役立つ。しかし、より定型的な作業をする上では、ダイバーシティを管理するコストを考えれば、小さなグループの方が効果的である。企業の取締役会と資産運用会社のポートフォリオ運用チームでは、最適な規模やダイバーシティの度合いは異なるかもしれない。

ただ、いずれにせよ、異なる考え方を見つけ出し、それを取り入れ、うまく管理することは、競争上の優位性を高める重要な要素となり得る。

(注1)Devine, Dennis, and Jennifer Philips, “Do Smarter Teams Do Better?(2001年10月)
(注2)Henry W. Riecken, “The Effect of Talkativeness on Ability to Influence Group Solutions Problems,” Sociometry, vol. 21, no. 4(1958年12月): 309–311.
 

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