2019年10月1日発行の記事『米国不動産の投資機会②: 安定した利回りが魅力の優先リート』では、リート(不動産投資法人)を通じた米国不動産への投資のうち、優先リート(リートが発行する優先株)を取り上げた。本稿では、続編として普通リート(リートが発行する普通株)の投資機会を紹介するが、中でも米国不動産をコアとするグローバル・リート投資に着目したい。
 

グローバル・リートによる不動産分散投資

普通リートの中でも証券取引所に上場されているもの(上場リート)はリアルタイムで取引可能であることから、不動産投資でありながらも流動性が高く、投資家にとっての自由度が高い。実は、グローバル株式の代表的な指数であるMSCI ワールド指数においても不動産セクターの約80%(2019年9月末時点)を占めるなど、不動産投資のみならず株式投資においても重要な投資ツールとなっている。
 
グローバル・リート市場を代表するS&P世界リート指数の構成を見ると、時価総額約164兆円(2019年9月末時点)のうち、米国が約66%、米国外が約34%となっている。グローバル・リートは、米国不動産の投資機会をコアとしつつも、米国外の不動産への投資拡大を可能にしている(図表1)。
 
SP世界リート指数の国別構成比.png
 
リートは1960年に米国で誕生した後、2001年に日本で上場リート市場が開設されるなど、アジア諸国や欧州でも広がりを見せてきた。一般に、不動産は長期契約のため短期的な景気循環の影響を受けにくく、所在地ごとの需要を収益源泉としていることから、リートの値動きは国・地域によって異なる傾向が強い。このため、地理的に分散投資をすることによるリスク低減効果は大きい。普通リートへの投資アプローチとして、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、米国リートをコアの収益源泉としつつ、米国以外の国・地域への収益源泉拡大と分散投資によるボラティリティ低減が期待できるグローバル・リート投資の魅力度が高いと見ている。
 
以下、足元の価格上昇により高値警戒感も浮上している米国リートのバリュエーションを検証しつつ、米国以外のリートの状況も紹介し、グローバルリートの投資機会に迫る。
 

力強く上昇したものの、過熱感はさほどない

金利低下局面では、相対的に高い配当利回りを背景にリートが物色される傾向がある。2019年に入り世界経済の先行き不透明感が高まった結果、欧米を始めとする各国の中央銀行は金融政策の舵を緩和方向に切っており、金利の低下が進行した。加えて、足元の堅調な業績を受けてリート市場への資金流入が加速したことから、リート相場は上昇傾向となった。米国リートは6月下旬に過去最高値を更新し、その後も底堅く推移している。
 
そこで、足元のバリュエーションを検証してみよう。バリュエーションを図る指標にはNAV倍率がある。これは、リートの純資産価値と市場価値を比較した指標で、一般的に、NAV倍率が1を超える場合にそのリートの市場価格は割高、1未満の場合は割安だと言われる。また、純資産価値は、リートが保有する不動産の価値を時価評価した値から、借入など負債を差し引いて算出されるため、リート本来の価値を表す指標として注目されている。
 
足元のNAV倍率を見ると、日本のJ-REITに対して一部で過熱感を指摘する声があるほか、米国リートに関しても年初来の上昇を受けてやや割高方向に動いている。また、それに伴いグローバル・リートもNAV倍率が1倍を超えている(図表2)。ただ、この水準は必ずしも割高というわけではなく、米国不動産市場の健全性や高い評価の表れであるとも言える。背景には、図表3 が示すように、米国不動産市場の需給バランスが需要超過で健全な環境にあることが挙げられる。また、各セクターの空室率が低下傾向にあり、賃金の上昇も続くなど、市場は引き続き良好な環境にある。
 
リートの地域別NAV倍率の推移.png
 
米国不動産の需給.png
 
別の観点からもバリュエーションを見てみよう。グローバル不動産関連株式の株価純資産倍率をグローバル株式に対する相対比率で見ると、過去10年の平均1.1倍に対し、足元では1.08倍となっており(2019年9月末時点)、割高感はさほど感じられない(図表4)。
 
また、グローバル不動産関連株式のキャッシュフロー利回りの世界10年国債利回りに対するスプレッドは、過去27年の平均である3.39%よりもやや高い環境にある。今後、米国を中心に世界的に低金利環境が続くと見られる中、グローバル・リートは、利回りを求める投資家にとって引き続き投資妙味のある資産であると考えられる。
 
グローバル不動産関連株のMSCI ワールド指数に対する相対バリュエーション.png
 

次の景気後退局面でディフェンシブ性を発揮する可能性

景気は好況と不況の繰り返しであり、景気後退局面ではグローバル・リートにも下落圧力がかかると考えられる。一方、次の2つの観点から、景気後退時には、グローバル株式よりもディフェンシブ性があるとみられる。
 
第1に、リートは株式ほど景気感応度が高くない。一般的にリートのベータは1を下回っており、過去1年を振り返っても、景気減速懸念が高まった局面では相対的にディフェンシブ性が見られた。住居用リートやヘルスケア・リートは、マンションや病院、高齢者向け施設などからの賃料が収益源になっており、これらは長期で契約するものが多く、景気循環の影響を受けにくいからである。また、先進国では今後さらなる高齢化が見込まれるため、ヘルスケア・セクターは長期的な成長が期待できる。
 
第2に、仮に景気が実際に後退局面に陥ったとしても、10年余り前のサブプライム住宅ローン危機のような状況になる可能性は低いと思われることが挙げられる。2004年から2007年にかけての米国では、政策金利が段階的に引き上げられていたにも関わらず、不動産供給は過剰な状況にあった。現在は、上述のように不動産市場の需給が健全であるほか、リート企業の財務体質もリーマンショック以降改善してきている。
 
例えば、総負債対総資産比率を見ると、米国リートではピーク時の58%からリーマンショック前の水準の48%近辺まで改善してきている。
 
また、世界的に低金利環境が続いていることから、リート企業の利息負担(支払利息対営業利益比率)も10年前の35%台から22%前後へと減少基調にある。債務の長期化など、構造的な追い風も鑑みると、リーマンショックのような不動産バブル崩壊というシナリオは、今のところがい然性が低いと考えられる。
 
このように、世界的に景気減速懸念がくすぶり続け、超低金利環境も長引く見通しが強まっている中、普通リートを通じた不動産投資の魅力は高まっている。伝統的な株式投資や債券投資とは大きく異なるリスク・リターン特性を備えつつ流動性も比較的高いため、ポートフォリオの分散にも大きな役割を果たし得る。ABでは、特に米国リートをコアの収益源泉としつつ、米国以外の国・地域への収益源泉拡大と分散投資によるボラティリティ低減が期待できるグローバル・リートに優れた投資機会があると見ている。
 

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