2019年は、債券投資のユニバースが大きく広がった年として記憶されるだろう。1月には、新興国債券投資で広く使われるJPモルガンのEMBI 指数に湾岸諸国が構成国入りした。4月には、同じくグローバル債券投資においてベンチマークとして多く採用されるブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合指数に中国現地通貨建て債券が組み入れられた。他方、10月には、先進国債券投資で用いられるFTSE世界国債指数で、日本と同格付で市場規模も大きいにも関わらず中国の採用が見送られた。このように指数構成国の変更には綿密な審査プロセスがしかれている。しかし、投資成果を得るために投資対象のユニバースを見直すのであれば、実は債券指数の構成国変更を待たなければいけない理由はない。

そもそもなぜ外国に投資対象を広げたのか

世界各国の金利は、過去数十年にわたって低下トレンドが続いてきた。その背景には趨勢としての経済成長率の低下傾向があり、その一因には有効需要創出や設備投資意欲の漸次的な減退がある。そこで投資家は、より良いリターンを求めて地域間格差に着目してきた。

国連の推計によると、先進国の人口は2035~40年頃から減少に転じるとされ(注1)、人類としてひとつの転機を迎える。しかし、日本では総人口はすでに減少に転じているし、先進国の中でも比較的人口増加率が高い米国も人口増加の半分は移民、EU(欧州連合)も移民を除けば人口減少に転じている。つまり、人口動態や社会制度の相違によって、人的資本が増えている国と減っている国が混在している。縮小均衡を目指す国と、これからまだ人口増加に伴ってインフラを整備する必要がある国とでは、有効需要発生の機会は異なって当然だ。ここに、実体を伴う金利の在りどころを探すヒントがあるのではないだろうか。

こうして考えてみると、世界最先端の成熟社会である日本の投資家にとっては、他のどの地域への投資を選んでも、人口動態、経済成長率、有効需要の機会が日本より魅力的である可能性が高い。日本人は海外投資に取り組むインセンティブが高い環境にあり、自主的に債券の投資ユニバースを広げてきた。これが海外債券市場においても日本の投資家が比較的存在感を持つ一因かもしれない。

「投資しやすい」ではなく「投資すべき」投資対象

いざ投資に臨む場合、投資対象地域による投資妙味の違いを考慮はするとしても、現実には制約がある。投資家は必ずしも自由に投資地域を選ぶのではなく、「投資しやすい国・地域」に集まる傾向がある。そのため、パッシブ投資を含む金融技術の発達によって「誰でも投資しやすい国・地域」が買い込まれて割高になりやすい。冒頭、2019年の債券指数の構成変更について書いたが、実は、中国の構成国入りが見送られたFTSE世界国債指数については、南アフリカがいつ指数から脱落するかが話題となってきた。こうした指数構成の変更を巡る市場の動きに関して注意を要するのは、実際にお金が動くのは指数の変更が実施されてからとなるケースが圧倒的に多いからだ。これが大きな指数の構成国に入っていない新興国の構造的な割安化をもたらす一因だと考えている。図表1 に示すとおり、同じ格付であれば、「新興国社債」の利回りは「先進国国債」や「先進国社債」を上回る。投資家にとっては、「指数の呪縛」を逃れることで超過的な利回りを得るチャンスが発生する。

米ドル建て投資適格社債のスプレッド水準及び新興国と米国の差異.png

投資ユニバース内で似た債券が増えていないか?

投資ユニバースを柔軟に考えるべきもう1つの理由は、分散効果の確保にある。先日、長期停滞論で著名なローレンス・サマーズ教授が、イングランド銀行のシニア・エコノミストであるルーカス・レイチェル氏と共同執筆した論文を発表した。この論文では、中立的な金利水準を推計するにあたり、個々の国それぞれで推計するよりも先進国をひとくくりで扱ったほうが、推定の精度が高いとしている(注2)。学術的にも先進国同士はよく似ているということかもしれないが、先進国を構成国とする指数への投資で得られる分散効果は以前より薄れたとも言える。そうした環境であれば、投資家は、債券指数の外の銘柄に投資することで、より高い分散効果を期待することができる。

投資ユニバースの拡大でポートフォリオの質を改善

これまで述べたとおり、特にわれわれ日本人にとっては、伝統的な債券指数よりも投資ユニバースを拡張することで、より良質の投資機会が得られる可能性が高い。言い換えると、みずから投資ユニバースを柔軟に設定することで、金利やクレジットの規律を不必要に緩めることなく投資効率を高められるチャンスがある。

図表2は、現地通貨建て先進国国債の運用が、流動性の高い同格付の現地通貨建て新興国国債を投資ユニバースに加えることで、利回り水準、および実績リスク、実績リターンがどの程度変化するかをまとめたものだ。90%を先進国にとどめ10%のみを新興国に割り振る想定だが、利回り改善に大きな効果がある。過去9年は新興国投資が苦戦した期間であるにもかかわらず、リスク・プロファイルが改善することで全体のリスク・リターンはほぼ横ばいとなった。

先進国国債指数に新興国の現地通貨建て国債指数を加えた場合のパフォーマンスと利回りへの影響.png

図表3は、同様に米ドル建て米国投資適格社債の投資ユニバースに、新興国の米ドル建て投資適格社債を投資対象として加えたものだ。先ほどと同様に90%をもとの米国投資適格社債にとどめて10%のみを新興国に割り振る想定だが、利回り、実績リスク、リスクあたりリターンの全てが改善している。

実際にポートフォリオを構築するには、投資先の条件を細かく吟味し、投資ユニバースを絞り込む「濾過プロセス」を経て、指先までリスクに気を払う必要がある。しかし、そのプロセスに入る前に、素材となる投資ユニバースを幅広く確保するひと工夫を行うことで、地道ながらも債券投資の質を向上させ得るのである。

米国投資適格社債指数に新興国のドル建て投資適格社債指数を加えた場合のパフォーマンスと利回りへの影響.png

 

出典
注1 国連人口部、World Population Prospects 2019、https://population.un.org/wpp/Download/Probabilistic/Population/
注2 “On Secular Stagnation in the Industrialized World”, Łukasz Rachel, Lawrence H. Summers, NBER Working Paper No. 26198 https://www.nber.org/papers/w26198
 
 

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