米国では今年もクリスマス商戦が始まったが、はたして消費者はモールへ足を運ぶだろうか? ショッピングのためモールを訪れることは時代遅れではないか? 米国ではモール業界の見通しについて活発な議論が行われているが、悲観的な見方が非常に多い。ヘッジファンドなどの投機筋は、モールの閉鎖に歯止めが掛からないとの思惑から、モールなど商業施設向けローンでデフォルトが加速すると予想し、商業用不動産担保証券(CMBS)のパフォーマンスが指数化されたCMBXで大規模なショート・ポジション(売り建て)を構築している。
 
CMBXは年度別にシリーズ化されており、2012年に組成されたローンが他の年より商業施設向けエクスポージャーが大きいとの理由から、ショート・ポジションは同年に組成されたCMBS 25本を対象とするシリーズ6に集中している。こうした動きについて、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、モール業界の実態やCMBXの特性を正しく反映していないと考えている。
 
モール業界は確かに低迷期にあるが、状況は複雑であり、勝者と敗者の二極化が進んでいる事実を理解する必要がある。モールに対する消費者の需要は、業界の成長が著しかった時代から大きく変わっており、ファンダメンタルズの悪化に歯止めを掛けるには、アパレルに偏った伝統的なコンセプトから脱する必要がある。成功を収めているモールは、環境の変化に対応すべく、バリューアップ投資を行い、消費者が求める姿へ進化を遂げている。
 

巨大化したモール業界の歴史を振り返る

モール業界が直面する課題や一部で見られるポジティブな進化を理解するためには、まず、モール業界の歴史に目を向ける必要がある。
 
米国のモールは都市部の百貨店を頻繁に訪れることができない郊外エリアに住む主婦層をターゲットに、1956年にミネソタ州で初めて誕生した。これを皮切りに、1960年代にかけて全米各地の都市部郊外で急速にモールが開発され、人口増加や個人消費の伸びがこの流れを下支えした。店舗面積あたりの売上高が最も高いAクラス・モールでは高級志向の商品が多く取り扱われ、主に高所得者層をターゲットとし、中間所得者層は商品の価格帯が下がるBクラス・モールを主に利用していた。
 
1970年代に入ると経済成長の減速を受け、モールの新規開発ペースは弱まったが、1980年に入ると再び加速し、インターネット・バブルの恩恵、個人消費の拡大、アパレルやライフスタイル・ブランドへの需要の高まりなどを背景に、モールの供給は1990年代まで続いた。ちょうどこの頃、プライベート・エクイティ・ファンドが小売企業の買収を進めていた。買収後、プライベート・エクイティ・ファンドは短期的に利益を確保するため、計画性に乏しい積極的な出店をモール中心に行い、店舗網を急速に拡大させ、モールの急速な拡大を支える結果となった。
 

主要テナントであった百貨店やアパレル企業の衰退

モールの急拡大を支えた百貨店やアパレル企業はモール同様に低迷期にあり、その背景にも着目し、消費者の需要の変化について検証したい。
 
米国でモールが誕生した1950年代、主要な顧客層は主婦であり、主婦は自分の買い物だけでなく、家族全員の買い物までモールで行っていた。当時、シーンに応じて異なる洋服を着ることが流行していた。自宅用、外出用、仕事用だけでなく、様々なシーンで着用すべきファッションの定義が細かく決まっており、家計の収入の多くが衣類に費やされていた。こうしたファッションの流行もモール業界を急速に拡大させる原因となり、モールには非常に多くのアパレル企業が出店した。
 
では現在のファッションはどうか。以前のようにシーン別に服装を大きく変える必要性は低下しており、職場でもスーツを着る機会が減っている業種も多い。以前は夕食をレストランで食べる場合、晴れやかな身だしなみがドレスコードで決められていたが、現在は日中に着用していた服装のままレストランを訪れても全く問題はない。複数のクローゼットを持ち、大量の服を購入する必要があった時代は既に過ぎ去った。流行の変化によって、消費者の需要が低下する中、百貨店やアパレル企業は過去に行った過剰な店舗展開が業績を圧迫し、足元で事業規模の縮小を進めている。
 
この他にも百貨店やアパレル業界に影響を与えた消費者サイドの変化がある。最近では一般的になった夫婦共働きも影響を及ぼしている。モールが誕生した時代は専業主婦が一般的であったが、現在は子供を持つ夫婦が共働きしている割合が62%と高く、単純にモールで買い物をする時間的な余裕がなくなっている。こうした生活の変化も少なからず、百貨店やアパレル業界を圧迫している。
 
さらにBクラス・モールの主要な顧客層である中間所得者層の賃金が伸び悩んでいることも影響を及ぼしている。そんな中、家計の大部分を占める品目で価格上昇が目立つ。1996年から2016年にかけて消費財の価格は55%上昇した一方、学費は200%、教材は125%、ヘルスケアは120%も上昇しており、衣類の購入を控えざるを得なくなっている。
 
これら変化は全て百貨店やアパレル企業がモールから撤退する要因となっている。2017年から2018年にかけての賃貸面積の変化は、百貨店で11%の純減、アパレル関連の小売テナントで29%の純減となっている(IHLグループ調べ)。1つの商圏にモールが乱立する地域では、これらテナントの撤退による影響は特に大きく、店舗面積あたりの売上高が劣るクオリティの低いCクラスやDクラスのモールでは、空室となったスペースを埋めることが困難になっており、近い将来、こうしたモールは淘汰される可能性が高い。
 

モールは進化している

小売業界はいずれインターネット販売に飲み込まれ、モールは一定の売上高を維持するクオリティの高いAクラス・モールしか生き残れないといった声が聞かれるが、必ずしもその限りではない。現代の消費者が求めるものを理解し、新たな姿へ進化しようとするモールは多く、こうしたポジティブな変化は、特にBクラス以下のモールで目立つ。
 
ミレニアル世代が子育て・ファミリー世代へ成長した今、成功を収めているモールはアパレル系テナントの割合を減らし、来店頻度が高まるような空間作りを目指している。具体的には家族で訪れることができるレストランや体験型の娯楽施設(ボーリング、ゲームセンター、映画館など)、健康志向の高まりや定期的な来店が期待できるジムやスパなどヘルスケアや美容関連のテナント誘致にも力を入れている。
 
こうした新たな分野のテナントとアパレル系テナントの入れ替えは今後も進むと見ているが、モールのテナントは多くが小売企業であり続けることは今後も変わらない。アパレルを含め、低迷期にある小売業界は打開策の1つとしてインターネット販売の強化を目指しているが、同時に実店舗販売との共存メリットも認識している。インターネットでの売上高目標を全体の30-35%に抑える一方(足元は20-25%)、実店舗での売上高目標を全体の65-70%とすることが小売業界で主流になりつつある。
 
モール業界はたしかに低迷期にあり、店舗面積あたりの売上高が低いCクラスやDクラス・モールを中心に、一定規模のモール閉鎖が今後発生する可能性は高い。ただ、業界全体が衰退の方向へ向かっている訳ではない。Aクラス・モールは堅調なファンダメンタルズを維持し、Bクラス・モールでは消費者需要の変化に対応し、競争力を高めるバリューアップ投資が進んでおり、今後は勝者と敗者の二極化がさらに進むと考えている。
 

モール業界に対する一方的な見方が魅力的な投資機会を創出している

多くの投資家はモール業界の実態を正しく評価しておらず、一部のネガティブな側面だけに注目が集まり過ぎている。その結果、CMBXシリーズ6で大量のショート・ポジションが積み上がっているが、この判断はリスクが高いとABでは考えている。主な理由を次に述べる。
 

+ CMBXシリーズ6に含まれるモールは米国全体の0.5%にも満たず、当シリーズで積み上がった大規模なショート・ポジションはそれに見合うものではない。

+ 当シリーズの商業施設のエクスポージャーに注目が集まっているが、商業施設以外の物件が5割以上を占めている。当シリーズ6が組成された2012年以降、不動産市場全体でネット・オペレーティング・インカム(NOI)の改善が続いているが、その傾向はオフィスなど商業施設向け以外の物件で特に強い。NOIの改善が不動産価格の上昇を下支えし、商業施設以外を対象とするローンを中心にLTVの低下が進む。また、ローンをディフィーザンス(同額・同年限の米国債を差し入れ)して実質的に期限前返済する動きも目立つ。

+ 商業施設向けローンのエクスポージャーは44%あるが、全てがモールではなく、ショッピング・センターの割合が大きい。ショッピング・センターはオープンスペースに多く店舗物件が並んでおり、食品スーパーやディスカウント・ストアなど生活必需品を取り扱う小売店舗を中心に形成される。モール対比ファンダメンタルズは安定しており、一定の出店需要も続いている。

+ 当シリーズにはモール向けローンが37本含まれているが、担保物件の多くは商圏内で高い競争力を維持するモールであり、潤沢なキャッシュフローを生み出し、約定返済や利払い能力に特段の懸念は生じていない。そのため、多くのローンが完済、または一部の債権放棄によって大部分が回収される可能性は高く、当シリーズで発生する損失率は低位に留まると予想している。

+ 一部はファンダメンタルズの悪化に歯止めがかからず、ローンがデフォルトし、債権回収も土地の時価程度しか期待出来ないローンもあるが、その割合は低い。当シリーズをショートする投資家は、こうしたデフォルトが全てのモール向けローンで発生すると予想している。

+ ローンを管理するスペシャル・サービサーの存在も重要であり、スペシャル・サービサーはCMBS投資家の利益を守る責務がある。簡単にローンをデフォルトさせ、損失を確定させるのではなく、ローン期日を延長し、可能な限り物件キャッシュフローから債権の回収を目指す。担保物件の差し押さえを行い、強制売却によって債権を回収する手続きは、非常に煩雑で長いプロセスである。また、相当なコストも発生するため、回収可能金額が低下しやすく、スペシャル・サービサーとしては回避したい選択肢である。当シリーズをショートする投資家が期待するほど、早期にデフォルトや損失が確定することは少ない。

一方的なバイアスが掛かったヘッドラインに踊らされ、投資判断を下すことは簡単である。ただ、その投資判断が最適だったことはあっただろうか。本件がまさにその良い例であり、CMBXシリーズ6をショートするリスクは大きい。
 
ABでは米国のモール業界を精査した結果、当シリーズ6が対象とするローンのデフォルトや損失率は足元の低い水準から大きく悪化しないと予想しており、ロング・ポジションの魅力度が高まっていると判断している。こうしたABの見方について、今後リリースするリサーチ・ペーパーで詳しく説明したい。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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