新興国の資産のリターンは過去10年にわたり、先進国の資産を大幅に下回ってきた。だが2020年は11月の時点で、新興国株式のパフォーマンスは先進国の株式と肩を並べている。市場は転換点を迎えているのだろうか?
 
2020年の市場は困難な幕開けを迎えたものの、足元では新興国の株式と債券への資金フローはどちらも流入超に転じている。2020年10月は新興国債券への資金フローが5カ月連続でプラスとなったほか、新興国株式へも4カ月連続で資金が流入した。このことは、センチメントの改善にやや弾みがつきつつあることを示している。それを支えているのは、新興国市場のファンダメンタルズに対する見通しが改善していることと、新興国の株式や債券のバリュエーションが先進国市場に比べ魅力的なことである。
 
このトレンドは持続するのだろうか? また、新興国の資産クラスに幅広く存在する投資機会を最大限に活用するにはどうすればいいのだろうか?
 

主な指標はプラスに転換

新興国の経済は新型コロナウイルスによる打撃から立ち直り始めた。中国や韓国、台湾を含む北アジア諸国はウイルスを最も効果的に封じ込め、危機時における経済活動の落ち込みは先進国に比べ軽く済み、いち早く回復に向かっている。
 
例えば、新興国や北アジア諸国の輸出向け製造業の活動は、足元で力強く拡大している。中南米など他の地域も後に続き始めた。2020年10月は新興国の株式が先進国株式をアウトパフォームし、回復の兆しが現れた。新興国株式の堅調なパフォーマンスは、新型コロナウイルスで最も大きな打撃を被った新興国が感染の抑制に成功した一方で、英国やフランスなど一部の先進国は全国的なロックダウンの再導入を強いられたことを反映しているのではないかとアライアンス・バーンスタイン(以下「AB」)ではみている。その結果、2021年は新興国経済が先進国を力強くアウトパフォームするとABでは予想している(図表1)。
 
2021年は新興国の国内総生産(GDP)成長率が先進国を上回る見通し.png
 
成長支援を目的とした利下げや景気刺激策などの中央銀行の政策も、回復をさらに後押ししている。インフレ率が低水準にとどまるとみられることから、こうした環境は持続可能で、金利上昇圧力はわずかなものにとどまりそうだ。
 
しかも、足元の米ドル安は、米ドル建ての借り入れを抱える新興国やその企業が資本市場で資金を調達し、債務を返済するのを助けている。重要なのは、それが多額の債務を抱える新興国政府に対する圧力を和らげ、そうした国の中央銀行がハト派的な政策を維持するのを可能にしていることだ。米連邦準備制度理事会(FRB)が掲げる「(金利を)より低く、より長く」維持する政策により、米ドル相場は引き続き低水準で推移しそうだ。米ドル安によって新興国投資家のリスク許容度が高まり、新興国の株式やハイイールド債のリターンを押し上げるケースが多い。
 
新興国資産のバリュエーションも魅力的である。新興国企業の利益は2021年には30%以上増加する見通しで、株価も先進国企業に比べとりわけ割安な水準にあるようだ。例えば、企業の成長性を考慮した上で割安度を測る指標であるPEGレシオは、新興国ではわずか0.44と、先進国の0.82のほぼ半分に過ぎない(2020年9月30日現在)。新興国の債券市場では、ハイイールド債のスプレッドも非常に魅力的な水準にあり、米国のハイイールド債に対するスプレッドはほぼ10年ぶりの高水準に拡大している。債券のスプレッドが縮小すれば価格が上昇し、高水準のリターンが創出されるため、こうした高水準のスプレッドは投資家にとって大きな投資機会があることを意味している。
 
ABでは、現在の回復局面で新興国資産が恩恵を受ける余地はまだあると考えている。しかし、多くの投資家は依然として様子見姿勢を保っており、特に新興国株式についてはそう言える。機関投資家の運用資産残高(AUM)に占める新興国株式の割合は7%と、2017年に株価が力強く上昇した直前と同じくらい低い水準にとどまっている(2020年9月30日現在)。2017年にはMSCIエマージング・マーケット指数のリターンは37%に達した。
 
なぜ投資家は新興国資産への投資をちゅうちょするのだろうか? 1つには、新興国への投資は総じて比較的リスクが高いとみなされていることがある。世界の景気回復ペースや、欧州における新型コロナウイルス感染の再拡大、米国の政権交代などを巡る不透明感が高いことを踏まえれば、短期的にボラティリティが高まる可能性があることは否定できない。しかし、米国がバイデン政権下で世界貿易機関などの国際機関に再び関与するようになれば、新興国市場にも追い風が吹きそうだ。バイデン政権下で貿易を巡る不透明感が解消されるとみられることも、輸出主導型の新興国経済を支える要因となるだろう。
 

制約のないマルチアセット型アプローチの強み

単一の資産クラスにしか投資しない投資家は、新興国市場がもたらす投資機会の多くを逸する可能性がある。現在のような重要な時期には、投資家は小規模な新興国や企業を含め、新興国市場全体の動きから収益を得られるポートフォリオを構築する必要がある。新興国の株式、債券、通貨を効率的に組み合わせることにより、投資家はファンダメンタルズ、バリュエーション、需給に関する指標が示唆する幅広い投資機会にアクセスする柔軟性を手に入れることができる。
 
ダイナミックに運用される新興国のマルチアセット型ポートフォリオは、ボラティリティをはるかに低い水準に抑え、ドローダウンも小さくしながら、株式と同等のリターンをもたらす可能性があるだけでなく、魅力的なインカム収入も期待できる。株式や債券の市場全体を見渡せば、それぞれの地域で魅力的なリスク調整後リターンを得られそうな証券を選び出すことができる。例えば、4%の利回りが得られるブラジルの債券は、益回りが低い上にバリュエーションも割高に見えるボラティリティの高いブラジルの株式に比べ、はるかに投資妙味があると思われる(図表2)。
 
魅力度の高いリスク調整後リターンを提供する証券はどれか?.png
 
株式では、新興国の指数は大規模な国や企業に偏っている。しかし現在の市場環境では、小規模な国や企業の中に豊富な投資機会が存在する。指数に占めるウェイトが小さな国の銘柄に投資すれば、分散投資効果が得られる上に、成長機会に投資することになる。投資上の制約がなければ、投資家はパナマやエクアドルなどMSCI エマージング・マーケット指数に組み入れられていない国を含め、チリやコロンビアなど時価総額が小さな国に投資することができる。景気サイクルが異なる段階にある国や、国内経済のけん引役が異なる国に幅広く投資すれば、より望ましいリスク・リターンのバランスを構築することができる。
 

変化がマルチアセット投資家に投資機会をもたらす

コロナ危機が進展するのに伴い、投資機会は通常とは異なる新たな形でもたらされる。今のところ、北アジア諸国はウイルスの影響からいち早く回復してきた。それらの地域のテクノロジー企業は、在宅勤務の流れや消費者行動の変化から恩恵を受けてきた。今後もそうした分野が引き続きリターンをけん引する見通しで、第5世代移動通信システム(5G)の幅広い導入といった長期にわたって持続する成長ダイナミクスが、それらの企業にとって追い風となりそうだ。
 
しかし、基本的なトレンドが改善するのに伴い、他のアジア地域や中南米の一部でも魅力的な投資機会が提供される見通しで、ウイルス感染が減少しているブラジルとインドはとりわけ魅力度が高い。同様に、これまではテクノロジー銘柄が回復を先導してきたが、出遅れていた一部の業界も魅力が増しているように見える。銘柄選択を重視する投資家はこうした投資機会をうまく活用することが可能で、例えば、有望ではあるがあまり知られていないテクノロジー銘柄や、新興国の回復が勢いを増す場面で成長が期待できる小規模な国の厳選した企業に投資すれば、高いリターンを得られる可能性がある。債券セクターでは、多額の債務を抱えた高リスクの新興国が回復による恩恵を最も受ける見通しだ。
 
柔軟なマルチアセット型のポートフォリオを通じて幅広い資産クラスに投資すれば、投資家は株式だけに投資するよりも低いリスクで新興国株式と同じようなリターンを得ることができる。同時に、こうした制約のないアプローチは、インカム収入を確保するのがかつてなく難しくなっている世界中の市場環境において、投資家が比較的高い利回りを獲得する一助となり得る。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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