米国のテクノロジー企業の多くは従業員のパフォーマンスと株主の利益を合致させるため、株式報酬制度を活用している。しかし、株式ベースの報酬は会計上のゆがみを生み出し、それに気づかぬ投資家にリスクをもたらす。特に、グロース株のバリュエーションに厳しい目が向けられている現状ではそのリスクは高まっている。
 
米国の上場テクノロジー企業のエンジニアや営業担当者は、賃金のかなりの部分を株式ベースの報酬制度で受け取っている(図表1)。企業の取締役会や経営陣は一般的に、それは従業員のパフォーマンスと株主の利益を連動させるという観点で好ましい方法だと考えている。テクノロジー企業が株式ベースの報酬を通じて人材獲得競争を行っていると伝えられていることから判断すれば、従業員もそれを歓迎しているように見える。
 
米国のテクノロジー企業は株式報酬制度への依存度が高い.png
 

現金でなければいいということなのか?

テクノロジー企業も、株式報酬制度を導入すれば業績をよく見せることができるため積極的に活用している。投資家は通常、株式報酬制度は現金の支払いを伴わないという理由で、フリーキャッシュフローを算出する際に株式報酬制度による費用を除外している。企業は正式な決算発表に併せて、株式報酬制度による費用を除外したいわゆる試算ベースの業績や見通しを公表している。結局のところ、経営陣は投資家から喜ばれる措置を講じる傾向がある。
 
会計基準は、株式報酬制度を費用計上することを義務付けている。なぜなら、株式報酬制度を導入すれば発行済み株式数が永続的に増えることになり、将来の1株当たりの利益が希薄化されるからである。株式の希薄化は、それが投資家に与える直接的な影響は、キャッシュフロー計算書にただちに反映されるわけではなく発行済み株式数を通じてであり、現在ではなく将来的に生じるという意味では現金の流出を伴わない。しかし、将来の1株当たり配当が永続的に引き下げられるのであれば、株式報酬制度が現金を伴うものであろうがなかろうが、経済的に重要な意味を持つ。
 

なぜ株式ベースの報酬を好むのか?

正式な会計基準に基づく利益と試算ベースの利益の間には、かい離が生じることが多い。実際、米国のテクノロジー企業の多くは、所定の会計基準に従えば利益を出していない。その結果、膨らんだフリーキャッシュフローに照らしてもすでに割高な水準にある株価は、正式な利益を基準にすれば非常に割高な水準となる(図表2)。 
 
株式報酬制度による費用を除外すると、多くの企業は利益を計上していない.png
 
投資家は釈然としないはずだ。なぜならこれは、自分たちが経済的な真実を無視しているのか、あるいは会計のプロが利益の算出方法を知らないのか、のどちらかであるからだ。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、会計のプロはこの問題を正しく理解していると考える。投資家や経営陣、従業員は、株式を過大評価することで、おそらく自分たちが思っている以上に大きなリスクを負っている可能性がある。
 

いい時代は終わりつつあるのか?

最近までは市場が活況を呈していたため、こうしたリスクの一部にも容易に目をつぶることができた。2020年末までの10年間に、テクノロジー企業の比重が高いナスダック総合指数は5倍に値上がりした。だが、ここ数カ月はテクノロジー株の上昇ペースが鈍化し、高騰していたグロース株の一部は急激に下落している。
 
仕事に注力している従業員にとって、株式報酬制度を受け入れる際にそれがもたらす大きな金銭的な影響を精査することは困難である。実際、ここ数年は企業利益の拡大よりも、リスク許容度の高まりや金利低下が株価を押し上げる原動力となってきた。米国の10年国債利回りは2011年の初めは3%を上回っていたが、2020年末までにわずか1%に低下した。しかし2021年初めには、米国国債利回りが急上昇に転じ、金利上昇が株価収益率にとりわけ大きな逆風となりかねない一部のグロース株のリスクを高めている。
 
こうしたトレンドは、投資家が保有株式に求める超過リターンであるリスク・プレミアムにも影響を及ぼす見通しで、一時は10%という極めて高い水準に達していたプレミアムは足元で5%前後に低下している。
 
世界金融危機以降の企業業績の回復も重なり、バリュエーションに対するこれらの追い風は、特にグロース企業の株価を大きく押し上げてきた。企業の従業員や経営陣にしてみれば、そうした株価上昇を自分たちの努力の結果であると考えるのは当然のことかもしれない。
 

テクノロジー企業の従業員、そして投資家が報いを受ける日

だが、それは間違っている。株価がいつまでもここ数年の上昇ペースを維持することは難しく、どこかの時点では調整に向かうだろう。そうなれば、報酬のかなりの部分を株式報酬制度に依存してきた従業員の多くは、自分たちの収入が思っていたよりはるかに少ないことに気づくことになる。
 
そうなれば、意欲を失った従業員は株式ではなく現金での報酬受け取りを要求するだろう。その結果、従業員に支払う報酬のコストが誰の目にも明らかになるため、企業をよく見せるスキルに最も長けたアナリストでもそれを無視することはできなくなる。そして会計士らは、それは自分たちが以前から警告してきたことだと主張するだろう。
 
それは投資家にどんな教訓をもたらすのだろうか?株式報酬制度は、試算方式を通じて利益を調整すれば、投資家を欺きかねないことを示す重要な事例である。これは、総資産利益率(ROA)や投下資本利益率(ROIC)といった収益性を示す指標のほうが、キャッシュフローや株式リターンの持続可能性を判断する上ではるかに優れているとABが考える理由を裏付けている。市場環境が急速に変化する中で、不安定な報酬構造が本来の堅実なビジネスが生み出すリターンの潜在力を損なうことのないよう、テクノロジー企業に投資する投資家は従業員の経費について掘り下げて検討する必要がある。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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