パンデミックからの景気回復の歩みが地域によって不均一であることから、世界の債券・通貨市場のバランスは徐々に変化している。こうした中、投資のエクスポージャーを見直す際には、中国人民元が提供する分散効果とその長期的な見通しを考慮する必要があるだろう。

足元で起こっているインフレ懸念の再燃と米国金利の激しい動きは、ポートフォリオのリスクとリターンの源泉を長期的な目線から適切に分散させる必要性を注意喚起している。

一例を挙げると、最近の米国の利回り上昇を潜在的なチャンスと考える向きが多いようだ。欧州中央銀行は、欧州経済が新型コロナウイルスの第3波を乗り切るために低金利を維持することを繰り返し強調している。

このような地域間の違いを活用するにあたり、投資家の選択肢は米国一択ではない。中国は米国よりもさらに先行してすでに金融政策の正常化に向けて動き出しているからだ。中国の通貨と債券市場は債券投資における分散効果を高める機会を生み出しているとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。

人民元の国際化が進む

中国に関するここ数年のニュースは、主に米国との貿易摩擦か、コロナ危機に集中していた。そのため、中国が資本市場を海外投資家に開放し、自国の通貨を世界経済に浸透させてきたことについては、市場の認識がおろそかになっているのかもしれない。いま、貿易戦争やパンデミックの問題が徐々にアク抜けしてきたことで、中国の金融市場の構造的変化に再び注目が集まりつつある。

その背景には、やはり中国の高い経済成長がある。その高成長を支えている海外資本の多くは米ドル建てで供給されており、中国側から見ればこの米ドル依存を長期的に解消させたいと考えるのは当然のことなのだ。政策担当者は人民元を国際化する目標を隠さない。グローバル経済の貯蓄や決済の手段として、人民元を米ドルに代わり得るもう1つの通貨にするための取り組みに着手している。

実は、この取り組みはかなりの進展をみせている。例えば、2013年には中国初の自由貿易区が上海に開設されたが、現在はその数が19まで増えている。2015年に中国は銀行間取引決済システムとして、人民元をベースにしたCIPS(Cross-Border Interbank Payment System)を立ち上げた。これは米国のSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunications)に対抗するものだが、現在では160カ国が加盟してSWIFTの200カ国に次ぐ規模となっており、世界の決済通貨としての米ドルの優位性に対し挑戦しうる立場まで成長している。人民元による国境を越えた決済は、2017年には2兆元だったが、2020年の1-3月期には6兆元(約9,200億米ドル)を超えた。

さらに最近の取り組みとしては、上海を国際金融センターとしてアピールするための年次フォーラムの立ち上げや、人民元建て決済の銅取引市場の立ち上げ(中国は世界の銅使用量の半分を占めている)などがある。2020年には、China BaoWu Steel(宝鋼集団)が初の鉄鉱石のクロスボーダー人民元決済を実施した。取引相手は、世界的な鉱山会社3社、BHPグループ、リオ・ティント(共に英豪合弁)、ヴァーレ(ブラジル)である。

中国の資本市場の開放による海外からの投資資金の流入は、人民元のさらなる支援材料となっている。例えば、2021年10月には、FTSE世界国債指数への中国の組み入れが予定されているなど、世界の債券指数への組み入れが進む。指数構成比率は段階的に引き上げられるため中国が完全に組み入れられるのは3年後となる。しかしその暁には時価総額規模約2.5兆米ドルの巨大債券指数の5.25%を中国が占めることになる。

このように中国の政策が人民元の国際化を促進している一方で、投資家目線で言うと、人民元の評価の見通しにとっては中国の経済発展が非常に重要となる。

中国経済の生産性の向上は人民元の上昇を促す

理論的にも歴史的にも、貿易相手国よりも速い生産性の伸びを達成した国の通貨は、時間の経過とともに価値が高くなる傾向がある。潜在的な通貨価値の変化を1960年代からの高度経済成長期に経験したのが日本だったが、現在の中国はかつての日本と似たような状況にある。人民元の実質実効為替レート(REER、貿易相手国の通貨バスケットに対するインフレ調整後の人民元の為替レート)は、過去30年間で上昇傾向をたどってきた(図表)。

人民元のバリュエーションは中国経済の生産性の伸びを反映していない可能性がある.png

しかし、中国の相対的な生産性向上を考慮すると、中国のREERの居所はどのあたりにあるべきだろうか?ABは人民元のREERの水準は、同国の生産性の向上に対しては低すぎると分析している。

図表には生産性を調整したREERを黄緑の線で示しており、この線は下落傾向にある。もし、通貨価値の上昇が生産性向上の影響を完全に相殺したのであれば、折れ線は横ばいで推移していたはずだ。つまり、人民元の為替レートはこれまで上昇はしたものの、依然として過小評価されているということになる。

これが示唆するところは、中国の相対的な生産性の向上が続けば、人民元の価値は上がり続け、海外の投資家は人民元投資から為替差益を得ることができる可能性が高いということだ。

中国の政策担当者は、自国経済のさらなる生産性向上に焦点を当てている。中国政府は、2021年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)において、経済の「国内循環」と「国際循環」のバランスをとる「双循環」という戦略を打ち出した。この戦略は、原材料や仕掛品の輸出と海外技術導入という古い経済モデルからの脱却を進め、内需主導の経済成長のイノベーションの達成を目指すものだ。

具体的には、最新のIT技術を導入して国内の製造業の基盤を強化し、生産性の向上と最先端技術製品の国産化を進めることが計画されている。このように、国内産業が製品のバリューチェーンにおいて果たす役割を高付加価値にシフトさせる試みは、2010年にシンガポールが始めたものに似ている。同様のイニシアチブにより、シンガポール・ドルはREERベースで大幅に上昇している。

中国当局は人民元に通貨価値の上昇と安定を求める

より目先の話をすると、海外投資家の中国への証券投資資金流入と、他の大規模な債券市場と比較して中国の金利水準が高いこと、金融政策が相対的にタカ派的であることなどが、人民元を支える材料となる。

現在はあまり大きなリスクではないと考えるものの、この見通しが外れるリスクも常に存在する。おそらく最大の循環的リスク要因は、中国の政策担当者が経済のデレバレッジを過度に行い、現在進行中の成長の回復を早々に妨げてしまうことであろう。または、米国のトランプ前政権での米中関係のような緊張が、バイデン大統領との間でも生じるシナリオがあるかもしれない(中国はトランプ前大統領が関税を課した際、人民元安を容認するという対抗措置をとっている)。

よって、ABは人民元の長期的な見通しは前向きに考えるものの、その上昇が一直線に安定的なものになるとまでは想定していない。確実と考えているのは、中国が今後とる政策が人民元の上昇要因になりやすいということだ。

とりわけ、中国は、人民元が安定していて強い通貨と認識されることを望んでいる。なぜなら、これは人民元の国際化を進めるために不可欠だからだ。こうした通貨の特徴は、長期的な分散投資の機会を求めている投資家にとっても魅力的であるとABは考えている。

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