新型コロナウイルスのパンデミックに起因する落ち込みから世界経済が立ち直るのに伴い、人々は再び自由に動き回れるようになっている。物やサービスに対する需要が増加しているほか、財政政策の蛇口は大きく開き、緩和的な金融政策と一体化している。そして、投資家は環境の変化に応じてどんな調整が必要であるかを判断するため、ポートフォリオを見直している。

投資家が気にかけているリスクの1つは、ここ10年近くあまり気にされていなかった問題である。それはインフレで、米国では増加する需要に商品や労働力の供給が追いついていないため、物価水準が上昇している(以前の記事『米国インフレの行方-押さえておくべき4つのポイント』ご参照)。この圧力は2021年内に解消されるとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えているが、インフレ期待は高まっている。さらに長期的に見れば、グローバル化の一巡、ポピュリズムの復活、政府債務の増大といった持続的な変化が進行しており、それらが今後数十年にわたって世界のインフレ圧力を押し上げる要因になると予想される。

インフレと戦う実物資産の実力

1970年代のような2桁のインフレでなくとも、インフレは経済に打撃を与える。インフレ率のわずかな変化でも、長期的に購買力を損なう可能性がある。こうしたシナリオの下では、伝統的な株式や債券へのエクスポージャー(特に国債)は逆風に直面してきた。アクティブ運用や様々な市場に投資をするグローバルなマルチアセット戦略においては、株式や債券へのエクスポージャーをインフレに対応できるよう強化できるが、それに加えて、実物資産に対して戦略的に資産配分することもポートフォリオを守る上で重要な役割を果たす。

歴史的に見れば、実物資産への分散投資は、インフレ率が米連邦準備制度理事会(FRB)の目標水準にある、またはそれを上回っている時期など、インフレ率が上昇している場面で効果を発揮してきた(図表1)。そのため、インフレに備えて株式や債券へのエクスポージャーをダイナミックに調整することのみならず、実物資産へのエクスポージャーの積み増しや再構築を検討することが賢明だと思われる。

インフレ率が上昇する局面では実物資産がアウトパフォーム.png

ポートフォリオに欠けているインフレへの備え

ABのリサーチによると、投資家の資産配分において実物資産はかなり不足しているようだ。だが、実物資産へのエクスポージャーについてあまり議論されてこなかったことについて投資家を責めるのは難しい。この10年間の大半はインフレが抑制されていたため、実物資産のパフォーマンスは低迷してきた。世界金融危機以降、実物資産は年率換算した5年間の平均リターンが世界の株式を下回っている。2020年末までには実物資産がやや持ち直したが、リターンはそれでも世界の株式を6.8%下回った。

パフォーマンスが低迷していることに加え、さしあたってインフレが問題になっていないことが、実物資産のエクスポージャーを縮小させてきた(図表2)。流動性の高い実物資産に投資する上場投資信託(ETF)の比率は、現時点で約5%にとどまっている。一般的に言って、投資家は他の資産クラスではパッシブ運用に移行しているが、実物資産についてはまだパッシブ運用へは移行していない。その結果、多くの投資家のポートフォリオに占める実物資産の割合はかなり少なく、全くないケースも多いとみられる。

投資家のポートフォリオでは実物資産が不足しているか?.png

インフレと戦う特効薬はない

ポートフォリオにおいて実物資産が不足していることを踏まえれば、今は投資家にとって、必要に応じて実物資産のエクスポージャーを追加または拡大し、ポートフォリオの設計を見直す好機だと考えられる。しかし、実物資産の種類を1つに絞り込むのは賢明なアプローチとは言えないとABでは考える。インフレの形態はそれぞれ異なっている。過去にうまくいった投資が今回も成功するとは限らず、今後も常にうまく機能するとは限らない。

2021年初来でインフレ率やインフレ期待が上向いた局面を振り返ってみよう。この半年間に一部のコモディティ価格が急騰し、特にエネルギー、工業用金属、穀物などの上げが目立った。S&P500指数のエネルギー・セクター指数は45.5%、金属・鉱業セクター指数は59.8%上昇した。一方、金は低迷し、SPDRゴールド・シェアETFのリターンは7.6%と、インフレヘッジ手段としてはほとんど役立たなかった。

これは、実物資産戦略において、投資対象を狭い分野に絞るべきではないことを示す好例である。

分散された柔軟な実物資産へのエクスポージャーがカギ

実際、インフレに対する感応度、信頼性、コスト効率などに関する多面的な評価に基づけば、単独でインフレに対抗できるツールとして完璧な実物資産は存在しない。金はインフレとの連動性が高いにもかかわらず、そのさえない値動きは、インフレヘッジ手段としての信頼性が低いことを示している。また、リスク調整後のリターンに基づくコスト効率もそれほど高くない。不動産株は金よりもはるかにコスト効率が高く、信頼性も高いが、インフレに対する感応度が低い。

ABでは、不動産関連株式、天然資源関連株式、コモディティ先物、金、同業他社よりもコスト圧力への耐性が高いインフレ連動株式など、さまざまな実物資産に分散投資する戦略が望ましいアプローチだと考えている。さらに、環境の変化に柔軟に対応し、環境に応じてより効果的な手段にシフトすれば、投資家はポートフォリオにおける実物資産の不足分を埋めるソリューションを手にすることができそうだ。

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