急速に変化している業界において、最も有望な投資機会を提供している企業を見極めるのは必ずしも容易なことではない。話題の製品は注目を集めるが、変革のトレンドをはるかに上回るような恩恵を受ける企業を見つけ出すには、変化に不可欠な材料、製品、サービスなどを供給する「イネーブラー」を探す方が好ましいケースが多い。
 
自動車からコンピュータまで、技術革新はあらゆる業界に広がっている。しかし、デジタル革命を推進する企業の多くは、一般の人々に知られていない。そうした企業は人気商品を陰で支える重要な部品を生産している。変化を可能にする「イネーブラー」企業は、「ピック(つるはし)・アンド・ショベル」を売る人(19世紀半ばのゴールドラッシュ時代の概念)のようなものである。当時、多くの人々が金鉱を掘り当てることに失敗した一方で、採掘の道具を売る人たちは、次々に押し寄せる人々につるはしやショベルを売りさばいて大儲けした。
 

異なる見方: 投資家と消費者

自動車業界における最近の画期的な製品について考えてみよう。2021年5月下旬、フォードは2022年にピックアップトラックの電気自動車(EV)モデル「F-150ライトニング」を発売すると発表した。その性能は、発進から時速約100キロメートルに加速するまで4.4秒、1回の充電での走行距離は約500キロメートル、停電時に家に電力を供給できるなど、消費者の視点で見ると目を見張るものがある。
 
一方で製品に対する株式投資家の反応は、消費者とは異なるかもしれない。自動車業界について考えれば、世界の年間生産台数は2018年に9,000万台を超えてピークに達したとみられるが、それは長期にわたり大きく変動しないと思われる。また、実現すればの話だが、自動運転車が革新をもたらせば、年間の自動車販売台数が減少する可能性もある。
 
そのため、フォードが最終的に内燃エンジン車よりも多くのEVを販売し、市場シェアやEV1台当たりの利益を拡大できるかどうかが投資のポイントとなる。自動車業界では競争が極めてし烈で、新規参入企業との競争が激化していることも、さらなる課題をもたらしている。それに加え、伝統的な自動車メーカーの株価は数十年前と同じ水準で推移しており、新技術がメーカーレベルでコモディティ化(市場参入時に高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下して一般的な商品になること)していることを示唆している。魅力的な新製品を持つ企業でも、最終的に成長へのハードルを乗り越える能力によって評価される必要がある。
 
市場が新たなイノベーションに心躍らせるのは間違っているのだろうか? さまざまな業界における勝者を見つけ出せば、それに見合うリターンが得られるのだろうか? これは投資家にとって非常に重要な問いかけである。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、多くの場合、そのような銘柄の潜在的なリターンは、取ったリスクに見合うものではないと考えている。もちろん、業界をリードする企業の中には、株価が好調で、ファンダメンタルズが魅力的な企業もある。しかし、業界の変化を取り巻く不透明感が強い局面では、勝者を見極めるのは難しいかもしれない。
 
自動車産業の電動化は、それに伴う業界の成長期待を踏まえれば、多くの投資家が取り込みたいと考えているメガトレンドである。だが、そのトレンドを取り込むための最善の方法とはどのようなものだろうか?
 

自動車向けの「ピック・アンド・ショベル」を提供する企業

ABでは、変化を可能にする製品やサービスを提供する「イネーブラー」企業を探すことが適切な戦略と考えている。自動車業界では、「ピック・アンド・ショベル」を提供する企業が、世界の自動車メーカーにとって不可欠な新技術を生み出している。自動車メーカーはEVへの移行に伴い、従来のワイヤーハーネスを、より高性能で拡張性のある「スマート・アーキテクチャー」に置き換えようとしている。
 
自動車メーカーはさらに、自動緊急ブレーキ、ブラインドスポット・モニタリング、サラウンドビューなど、21世紀の車に搭載される多様な製品を導入している。顧客はこれらの機能にお金を払うことをいとわず、多くのユーザーは、ひとたびそれらに慣れてしまえば、それらが付いていない車に戻ることはできないだろう。
 
自動車用テクノロジー部品メーカーのアプティブのような企業は、自動車メーカーが今後ますます乗用車やトラックに搭載する必要が生じる多様な製品を提供している。これらの製品の一部は、今のところ搭載されている車の台数が比較的少ないとしても、今後10年間に急速に導入が進むとABでは予想している。さらに、より高度な部品を必要とするEVの増加に伴い、1台当たりの部品数は急速に拡大し、年間の自動車生産台数の変化をはるかに上回る成長を遂げると思われる。
 
デジタル技術は自動車だけでなく、コンピュータ、電車、宇宙船など、多くの製品に変革をもたらしている。これらの製品は、製品のコアとなるマイクロプロセッサを外界とつなぐコネクターやセンサーに依存している。それらは価格は安いものの、貴重な電子部品である。アンフェノールは、デジタルアプリケーション向けの優れた技術力により、「イネーブラー」としての重要な役割を果たしている企業の一例である。同社は、多くの業界や地域で生産されるさまざまな製品向けに高性能のコネクターを提供しており、1つの人気製品の成功や失敗によって潜在的な成長力が左右されることはない。
 

ヘルスケア分野のイネーブラー: ワクチン検査

ヘルスケア業界では、新型コロナウイルスのワクチン開発が、「ピック・アンド・ショベル」に関するもう1つのケーススタディとなる。ワクチン開発を目指す数多くの企業が、新薬の承認を得るために必要な臨床試験の計画や実施を手助けする医薬品開発業務受託機関(CRO)の支援を必要としていた。
 
ワクチン開発企業への投資家は、大きな課題に直面していた。どの企業が科学を解明するのか? 市場はどの製品を好むのか? 次に、投資家はタイミングや影響力の大きさについて正しい判断を下す必要があった。しかし、CROは薬品開発の成功(あるいは失敗)ではなく、開発プロセスから収益を得ている。その一例がIQVIAホールディングスである。同社はバイオ医薬品業界向けの臨床研究サービス分野で世界をリードする企業で、新たな治療法を市場に投入するまでの時間を短縮するとともに、医薬品開発の総コストを削減することに貢献している。また、世界的な事業展開とデータ分析技術により、新型コロナウイルスのワクチン開発を目指す製薬会社から高く評価されている。
 
「ピック・アンド・ショベル」を提供する企業は、必ずしも最も魅力的な投資先には見えないかもしれない。しかし多くの場合、「イネーブラー」はよく知られたブランドよりも低いリスクで、魅力的な成長の可能性に投資する機会を提供している。投資家にとっては、大々的な話題を集めるような大型商品の需要よりも、テクノロジー分野における「イネーブラー」の成長を予想する方が容易かもしれない。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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