新型コロナウイルスが流行していた期間には、世界の中央銀行はさまざまな優先課題を管理しなければならなかった。しかし、新型コロナウイルスが世界の経済成長に及ぼす脅威が薄れつつあるように見える今、インフレ高進がもたらすリスクが彼らの政策課題として大きな部分を占めるようになっている。

世界中の中央銀行は持続的な高インフレに対応し、金融政策の引き締めに舵を切っている(以前の記事『世界経済の次のステップは「金融政策の正常化」』ご参照)。しかし、政策スタンスやインフレショックの度合いは国によって異なるため、その傾きは一様ではない。例えば、米連邦準備制度理事会(FRB)は現在、利上げに向かっているが(以前の記事『FRBが加速する利上げとテーパリングの駆け引き』ご参照)、一部の小規模な先進国の中央銀行はすでに利上げしており、新興国でも多くの中央銀行が政策を大幅に引き締めている。

イングランド銀行はインフレ・リスクの高まりに対応

英国のイングランド銀行は足元で、数週間にわたり検討した末、政策金利を0.1%から0.25%に引き上げた。英国のインフレ率が2021年11月に10年ぶりの高水準に達したことから利上げは避けられないように見え始めていたが、多くのアナリストは、イングランド銀行がもっと早く行動しなかったことに驚いている。彼らはそれについてどう説明しているのだろうか?当局者は、インフレがいずれ姿を消すという基本シナリオに変わりはないものの、その予想が悪い方向に外れるリスクが高まったため政策の引き締めが必要になったと指摘した。

リスク管理は中央銀行にとって重要な機能であり、新型コロナウイルスのパンデミックに伴うインフレ率の急上昇に中央銀行がどんなアプローチを取っているかを理解するカギとなる。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)や他の多くの予想は2022年にインフレ率が急低下するとみているが、リスクは均衡していない。つまり、インフレ率が高止まりする確率は、インフレ率が予想以上に低下する確率よりもはるかに高いように見える。

イングランド銀行のリスク管理スタンスには、燃料コストの高騰や労働市場の混乱が、英国のインフレに他国よりも大きな影響を与える可能性が高いという事実が反映されている。それでもイングランド銀は、インフレを抑制するために必要な引き締めは「小幅な」ものにとどまるだろうと指摘している。ABはイングランド銀行が2022年前半にあと2~3回の利上げを実施すると予想している。

欧州中央銀行は異なるリスク・バランスに直面

欧州大陸では、欧州中央銀行(ECB)が政策の引き締めに向けて非常に緩やかな歩みを進めており、債券購入プログラムの1つである「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」を2022年3月に打ち切る計画を発表した。しかし、これは真の引き締めとは言えない。なぜなら、ECBはもうひとつのプログラム(資産購入プログラム、APP)を通じて買い入れを強化するとみられるからである。この相殺措置は、2022年後半にECBが買い入れを縮小するまで数カ月続けられそうだ。

欧州では、中期的なリスク・バランスが引き続きインフレ率が高すぎるよりも低すぎる方に傾いているため、政策の引き締めは緩やかなペースで進めるのが適切である。最近はこのバランスが均衡に向けて動いており、短期的にはインフレ率がECBの目標である2.0%を上回りそうだ。だが、ECBは依然として、2023年以降は目標を下回るインフレ率が続くと予想している。ABもそれと同じ見方をしており、ユーロ圏では2022~23年に利上げが実施されることはないと考えている。しかし、インフレ・リスクが非常に緩やかではあるがECBの政策に影響を与え始めていることは認識している。

リスク・バランスの変化が政策の重点移行を後押し

新型コロナウイルスの感染が再び拡大していることを踏まえれば、金融引き締めに向けた最近の政策動向の変化は無神経に見えるかもしれないが、それぞれの中央銀行は、市場を分析する上でパンデミックが引き続き重要な要因だとして慎重な姿勢を示している。実際、リスク・バランスの変化は政策を左右する重要な要因となっており、パンデミックによる供給の混乱は需要を落ち込ませる以上に経済に大きな打撃を与えていることが明らかになっている。

各国政府が新たな行動制限に踏み切り、経済活動が打撃を受けることになれば、そうした認識は変わる可能性がある。しかし、そうならなければ、中央銀行はパンデミックによって成長率が低下するよりも、インフレ率が上昇する可能性が高いと判断している。その結果、政策当局者はパンデミックの先行きが予想できないことを認識しながらも、引き締め政策への移行を支持している。このトレンドは今後数四半期にわたり持続する見通しで、2022年は投資家にとって非常に困難な年になると考えている。

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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