新興国債券にとって、2022年は相反する力がぶつかり合う年になりそうだ。投資家は、このアセット・クラスが直面している多くのマクロ経済的な課題の中から、回復力のある分野を選別して投資する必要がある。

新興国債券にとってリスクとなる要因は、先進国市場と中国を除く新興国市場の国内総生産(GDP)成長率の差がごくわずかであること、持続的なインフレ、ポピュリストの圧力、中国の経済成長が目先は緩やかであることなどが挙げられる。一方、チャンスとしては、中国の長期的な成長計画と、新興国諸国の対外的なぜい弱性の軽減に注目している。

このような難しい環境で、投資家はどのような投資姿勢を取るべきだろうか。今のところ、米ドル建て新興国債券は、ソブリン債と社債を問わず、現地通貨建ての新興国債券よりも魅力的だ。そして、銘柄の厳選が鍵となる。それでは、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の分析を細かく見ていこう。

2022年のリスク要因: 成長力が高くない環境

2021年に経済が再開した際には、溜まっていた需要が世界的に力強い成長をもたらした。2022年も同様の成長が期待されている。新興国債券が良好なパフォーマンスをあげるために、世界的な高成長という1つの基準は満たされている。しかし、もう1つの重要な基準、すなわち新興国債券の経済成長が先進国の経済成長を大きく上回ることは、2022年には期待できないようだ。それどころか、先進国市場はパンデミック前よりもはるかに速いペースで成長している一方で、新興国市場はパンデミック前のペースを維持するに過ぎなくなっている。その結果、新興国市場と先進国市場の成長率の差が縮まっている(図表1)。経済成長の優位性がなければ、新興国市場は投資家をひきつけることが難しくなる。

新興国市場は成長の優位性を(一時的に)失った.png

さらに、金融政策が引き締めに転じたことは、新興国市場の成長を遅らせる可能性が高い。新興国諸国では、インフレが高止まりしており、新興国諸国のほとんどの中央銀行が金融引き締めを開始せざるを得なくなっている。ABでは、新興国諸国はこれまでに引き締めサイクルの半分以下しか完了しておらず、2022年にはかなりの利上げが残されていると予想している。

新興国でのワクチンの普及が遅れていることも、人道的な観点からだけではなく、課題となっている。新型コロナウイルスのパンデミックのような危機は、不平等や貧困を激化させ、国民の不満をあおり、政治や政策の行方に影響を与える可能性がある。新興国では全般に若年層が多いなどの特徴があり、ポピュリスト的政策の圧力(以前の記事『ESG分析で新興国のポピュリズムを読み解く』ご参照)、財政再建の遅れ、民主主義の後退などのさまざまな動きに対してぜい弱な国がある。特に、社会経済状況がぜい弱で、新型コロナウイルスによる経済的な傷跡が深い国では、2022年に選挙が行われる国を評価する際に、投資家は細心の注意を払う必要がある。

最後に、中国の成長が鈍化し、他の新興国諸国にとっての追い風がなくなっている。パンデミック前は、中国の旺盛な成長により一次産品価格が上昇し、それが他の一次産品を産出・輸出国の成長を後押ししていた。しかし、中国はもはや自らを世界の成長エンジンとは考えておらず、より広範な政策フレームワークの中で、成長と並んで金融の安定や環境配慮を優先している(以前の記事『中国の成長見通しの全容』ご参照)。その結果、2022年のGDP成長率目標は5~5.5%といった現実的な水準にとどまっている(また、政策担当者からも不動産や製造業などで高成長を促す姿勢がなくなっている)。

2022年の投資機会: グリーン・エコノミーがコモディティの需要を喚起する

中国は、「リスク要因」と「投資機会」の両方で、2022年の注目材料リストに入っている。それは、全体の成長を緩やかにする政策の枠組みが、同時に経済政策に失敗して経済成長が失速する可能性を低くするからだ。しかし、昨今の流れを考えると、どのみち中国はコモディティ高騰の中心的存在である必要はないかもしれない。今後10年の間に、二酸化炭素の排出量をゼロにしようという世界的な動きによって電力網の整備や電池の製造ニーズが拡大し、銅、アルミニウム、コバルト、リチウムなどの需要が大幅に増加し(以前の記事『電気自動車業界におけるエンゲージメント』ご参照)、この新しい需要はコモディティブームの火付け役となる可能性がある。そして、こうした資源は多くが新興国諸国から供給されるためだ。

また、気候変動対策のコスト負担を公平にするための「公正な移行(just transition)」も、多国間の大規模な支援として長年にわたって新興国に供給されることが予想されている。例えば、先日開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では(以前の記事『Bond Investors Can Help Hold Companies Accountable Post COP26』(英語、日本語準備中)ご参照)、先進国が移行資金として少なくとも年間1,000億米ドルを新興国に拠出することが改めて表明されたほか、カーボンオフセットを集中的に取引するシステムを構築し、その収益の5%を新興国向けの気候変動適応基金に充当することが合意されている。

その一方で、新興国の対外的なぜい弱性は低下している。基本的な収支(経常収支と海外直接投資の合計)は、この20年間で最も強固なものとなっている。パンデミックの継続的な影響に対処するために、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)が6,500億米ドル増額されたことも、新興国の対外収支の状況を改善させた。さらに、2022年にIMFが追加の基金を設立し、SDRの恩恵を富裕な国から新興国に移転することも、新興国市場の流動性もプラスの効果をもたらす。

金融市場はリスクについて明快な見通しがある状態を好むが、残念ながら足元は不確実性が残る環境にある。例えば、オミクロン株の台頭、世界的な渡航規制の強化、FRBのタカ派化などに市場が反応したため、新興国債券やその他のリスク資産は2021年後半に打撃を受けた。しかし、2020年と比較すると、「想定外のリスク」への恐怖は著しく減少している。オミクロン株の影響はまだ不明だが、金融市場の反応の大きさや話題性からは、オミクロン株が2022年を通じて経済や市場に永続的な影響を与えうるとはとても判断できない。世界が平均以上の成長と景気刺激策の縮小という環境に向かう中で、不確実性がなくなることはないが、確実に減少していくと想定している。

すべての新興国債券が同じなわけではない

このようにリスク要因と投資機会が混在していることから、ABでは足元は米ドル建てのソブリン債と社債を選好している。米ドル建ての債券は当該発行国の循環的な景気後退の影響を受けにくく、ハイイールド債のスプレッドは過去に比べると高水準で、今後も縮小の余地を残している(図表2)。

新興国ハイイールド債のスプレッドは米国ハイイールド債に比べてワイド.png

一方、現地通貨建ての債券については、短期的には、売りの影響を受けやすいため、慎重な姿勢を維持している。しかし、2022年後半、新興国諸国の金融政策の正常化がさらに進み、米国の金融引き締めに関する市場の織り込みが進めば、新興国の現地通貨建て債券はより魅力的になる可能性がある。投資家は、市場環境とバリュエーションを注意深く監視し、状況に応じてポートフォリオの構成を変更する準備をする必要がある。繰り返しになるが、このような環境では、銘柄を厳選することが最も重要だ。

これが、新興国市場のソブリン債と社債の両方について、環境・社会・ガバナンス(ESG)を評価することが投資プロセスに不可欠であると考えている理由だ。COP26の誓約の実施により一次産品の需要が高まる中、最も環境に優しい方法で資源にアクセスしている国や企業が優位に立てると考えている。また、ABの調査によると、過去10年間にパフォーマンスが低下した新興国市場の社債の約3分の2は、災害などの環境に関するイベントや会計上の不正など、ESGの理由によるものだった。

その一方で、ESG改善への取り組みを実践している企業は、発行体のバランスシートを強化する、より有利な資金調達の機会を得るはずだ。したがって、投資家は、責任ある投資が必須でなくても、ESGの要素を分析に取り入れるべきだ(リサーチペーパー『ゴルディアスの結び目を断ち切る』ご参照)。

結論として、新興国債券の投資家は、米ドル建てのソブリン債や新興国社債への投資を検討し、発行体固有のリスクを取れる投資対象を選別し、ESG要素が投資にどのように影響するかを慎重に考慮する必要がある。徹底したリサーチと投資への積極的なアプローチは、市場の方向性がどちらに向こうと、新興国市場のリスクを軽減して収益機会を見つけるための鍵となるだろう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

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