2021年11月にグラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)は、200カ国が「グラスゴー気候合意(GCP)」に署名して幕を閉じた。この合意は気候変動に関する取り組みに弾みを付け、炭素排出の大幅な削減を推進する可能性がある。

問題は何か?合意によるコミットメントこそ野心的だが、必ずしも強制的なメカニズムがあるわけではないということだ。投資家は国や企業の約束実現に向けた進捗状況を監視し、積極的なエンゲージメントを通じて彼らが責任を果たすのを支える重要な役割を担っている。

COP26は気候変動対策の加速を反映

まず、朗報として、COPサミットを重ねるごとに、各国の危機感、団結力、コミットメントが高まっている。その結果、今回の合意は気候問題に関してこれまでで最も野心的な政策を掲げた宣言となった。

COP26でも、順風満帆とは言えないまでも、これまでの会合に比べ協力体制が強化された。今回初めて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の主な結論を各国が初めて明確に認識し、それがグラスゴー気候合意の導入部分に盛り込まれた(2018年に開かれたCOP24では、米国とサウジアラビアが気候変動に関するIPCCの結論を受け入れなかった)。

それに加え、COP26では、温室効果ガス(GHG)の排出問題に取り組み、エネルギー転換を加速させるためのいくつかの重要なイニシアティブが立ち上げられた。これにより、2022年には、世界の気温上昇幅を摂氏1.5度に抑えるという目標達成に向けた「国が決定する貢献(NDC)」が強化される可能性がある。

炭素排出に関しては、2030年までにメタンの排出量を30%削減するため、米国と欧州連合(EU)が主導するグループに100カ国以上が参加した。この取り組みは、IPCCが第6次評価報告書(AR6)で発表した提言に沿ったもので、GHG排出量を効果的に削減するための短期的な行程を示している。IPCCによると、産業革命以降に世界の平均気温が摂氏1.0度上昇したが、そのうち約半分はメタンが原因とされている。

それ以外の主な項目は以下のとおりとなっている。

  • 新たに石炭利用の削減に焦点が当てられたが、石炭火力発電の廃止ではなく段階的縮小を強調したことで、スピードはやや後退した。石炭は世界の二酸化炭素排出量の46%、発電によるGHG排出量の4分の3近くを占めている。
  • 新たな炭素市場の創設とカーボン・オフセットの取引スキームの構築に向けた合意が成立した。これは、各国が脱炭素化目標を達成するためにクレジットを取引できる二国間システムと、オフセットのための一元化されたシステムで構成され、収益の5%が途上国の気候対策を支援する気候適応基金に振り向けられることになる。
  • 途上国の移行を支える資金として、先進国が毎年少なくとも1,000億米ドルを拠出することを改めて約束した。この目標は2009年のCOP15で合意されて以来、一度も達成されていない。
  • 2030年までに電力、道路交通、鉄鋼、水素、農業向けのクリーンなテクノロジーやソリューションをより低コストで提供するための10カ年計画「ブレイクスルー・アジェンダ」が立ち上げられた。
  • 世界の森林面積の90%以上にあたる120カ国が「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」に賛同した。この宣言は、2030年までに森林の消失と土地の劣化を阻止及び回復することを目指している。
  • 100を超える政府、地方自治体、企業が、2035年までに主要市場、2040年までに全世界で販売する新車をゼロ排出車に限定することを約束した。しかし、主要な市場である中国、ドイツ、フランス、米国はこの合意を支持しておらず、また大手自動車メーカーのうち4社が署名していない。

約束だけでは不十分

COP26で得られた合意や約束は称賛すべきものだが、十分とは言えない。まず、2030年までに炭素排出量を削減するという各国の約束は、世界の気温上昇幅を摂氏1.5度に抑えるという2015年のパリ協定で定められた目標を達成するために必要なレベルには到底及ばない。むしろ、2030年の目標は2.3度の気温上昇に相当し、特に急速な海面上昇や異常気象といった世界的な気候リスクは解消されない。世界資源研究所は、「気候変動による最悪の影響を防ぐには、世界の排出量を2030年までに半減させなければならない」と指摘している。

各国は気候変動に関する野心的な約束を打ち出したが、それを達成するために必要となる、具体的な政策措置は見えていない。例えば、各国政府は2050年から2060年までに地球温暖化予測を1.8度に近づけることを約束するネットゼロカーボン目標をどのように達成するのか(Climate WatchによるNet-Zero Trackerご参照)、ほとんど明示していない。

では、各国政府は、2030年に向けた頼りないコミットメントと、ネットゼロを目指す野心とのギャップをどのように埋めようとしているのだろうか?その答えは難しい。こうした不明確な状況は発言や行動において著しいギャップを生み出しており(Climate Action Trackerの記事『Glasgow’s 2030 credibility gap: net zero’s lip service to climate action』ご参照)、そのギャップを埋めるには多くの関係者が真剣に協力する必要がある(以前の記事『From Sustainability Skills to Radical Collaboration: Themes from COP26』(英語)ご参照)。

主な環境汚染企業は化石燃料からの移行を主導するべき

このギャップを解消するカギは、主要な炭素排出源である運輸、電力、エネルギーのセクターにあるが、その責任の所在は複雑に絡み合っている。例えば、自動車業界が炭素排出の削減に寄与できるかどうかは、電力会社による再生可能エネルギーへの移行ペースにかかっている。石炭で発電した電力でバッテリーを充電していては、電気自動車のメリットは限られたものになるからだ。

COP26では、世界の一部のリーダーが石炭発電の段階的な廃止を求めた。特に欧州の電力会社では、そうした移行プロセスはすでに進行している(以前の記事『Beyond Green Bonds: Innovations in Sustainable Investing』(英語)ご参照)。規制されていない独立系の電力会社は、規制を受けている電力会社に比べやや出遅れているが、彼らも石炭からガスや蓄電設備に軸足を移しつつある。EUでは、2050年までに初の気候ニュートラルな大陸を実現するという計画に基づき、大半の電力会社がすでに石炭発電を中止しているか、または2030年までに手を引く予定である。ただ、欧州で最も大きな石炭発電能力を抱える3カ国のうち、ポーランドとチェコ共和国の2カ国は、それに含まれていない。

米国の規制電力会社の大半は、すでに経済性に劣る石炭発電を減らす一方で、より大きな収入が期待できる再生可能エネルギーの発電能力を拡大することを計画している。これらの企業は概して、石炭発電所を閉鎖したいと考えている。問題は、それがどれだけ早く実行されるかということだ。移行スケジュールは州の規制当局と協力して決定される。規制当局は送電の信頼性、電気自動車のインフラを支える送電能力、地域における石炭関連雇用を考慮しなければならない。それでも、米国では2050年までに石炭発電能力の75%が閉鎖されるとみられている。

電力会社と同様、欧州の総合型石油探鉱・生産会社(E&P)は、野心的かつ科学的根拠に基づく炭素削減目標を設定し、予算の多くを低炭素プロジェクトや再生可能エネルギープロジェクトに振り向けることで、世界のE&Pを先導している。米国のE&Pは化石燃料の生産規律を維持し、新たな掘削への投資を縮小している。設備投資の予算には、バイオ燃料、水素を使った自然エネルギー、自然を利用したオフセットなどの低炭素投資がますます含まれるようになっている。

投資家はどうすれば違いをもたらすことができるか

環境に配慮した設備投資を求める圧力に企業が直面する中、グリーン・ボンドやKPI連動債(以前の記事『進化するESG債市場』ご参照)は、市場規模や重要性が引き続き大きく高まっていくとみられる。重要なのは、こうしたラベルだけでなく、中身をしっかりと評価することだ。例えば、投資家がKPI連動債を公正に評価するためには、バリューチェーン全体で脱炭素化を目指す持続可能性に関する目標を企業がどのように設定及び達成しているか理解する必要がある(以前の動画『Do You Know Your Bond Portfolio’s Carbon Footprint?』(英語)ご参照)。今後、国際サステナビリティ基準委員会のもとで環境・社会・ガバナンス(ESG)報告書が世界的に標準化されれば、透明性の向上に寄与すると思われる。

一方、責任ある投資家は、企業の気候戦略が具体的で実行可能なものかどうか、その排出削減計画は同業他社と比較してどうなっているか、削減計画が十分に野心的かどうか、ネットゼロの目標が科学的根拠に基づいており、さらに計画の短期目標(2030年)と長期目標(2050年)の詳細とともにNDCとの整合が取れているか、といった点についてしっかりと見極める必要がある。

アクティブな投資家は、国や企業が野心的な気候目標の達成に向けて順調に進んでいるかどうかを確認することで、気候変動対策において重要な役割を果たす。経営陣との継続的な対話を通じて、ESG要因が投資に与える影響をより深く理解し、企業行動の変化を促し、環境を守る担い手として責任ある行動を取らせることが肝要だからだ。

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