米国労働省は2021年10月中旬に、確定拠出年金(DC)プランの投資商品を選択する際の受託者責任を明確にするルール改正を提案した。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、この新たなルールは、受託者がプランの投資メニューを立案する際に、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を考慮するよう促す大きな一歩だと考える。

正式には「プランの投資選択及び株主の権利行使における思慮と誠実さ(Prudence and Loyalty in Selecting Plan Investments and Exercising Shareholder Rights)」と呼ばれるこの規則は、プラン・スポンサーの主な義務に関する基準を定めている。それには、プランの投資商品や適格デフォルト商品(QDIA)の選択、議決権をはじめとする株主権利の行使、議決権行使方針やガイドラインの使用などが盛り込まれている。

ESGのルール策定におけるいくつかの紆余曲折

今回提案されたルールは、投資先を選択する上でのESG考慮について、受託者の基準を改定するものであり、2020年11月に最終決定された以前のルール(米国労働省による直前の変更も含む)に代わるものだ。当時の変更では、投資家の間でネガティブな反応が強かったことを受けて、ERISAプランにおけるESG関連戦略についての言及を削除した。

ABは、この変更を歓迎すべきこととして捉えた(以前の記事『DOL’s Revised DC Investment Rule Removes Potential ESG Sticking Point』(英語)ご参照)。なぜなら、一部のDCプラン・スポンサーにとってESG投資の選択肢に関する検討を妨げていた可能性のある問題が取り除かれたからである。政策当局者はこの変更を行うにあたり、重要なESG要因は実際に財務的問題であるという、AB(そして多くの人々)の見解を認識していたように見えた。ルールから潜在的に混乱を引き起こしかねない要因は取り除かれたが、運用業界は、プラン・スポンサーが投資メニューを設計する際にESGを考慮することをサポートするため、もっと明確な措置が打ち出されることを期待していた。

退職プランにおけるESGへのサポート強化

米国労働省は新政権の下で、ルールをより明確化し、ESGに配慮することを強く後押しするため、新たな視点からルールを見直すことを決めた。ABは提案された新ルールについて、大きな前進だと考えている。

強化された点は何だろうか?提案では、投資決定を行う受託者が、リスク/リターン分析に重要なESG要因を取り入れることができると明確に定めている。また、賢明な投資のためには、これらの要因を考慮することが「しばしば必要になるかもしれない」と指摘している。それは、プラン・スポンサーが投資の選択肢について検討する際の強力なサポートとなる。

また、新ルールでは、QDIAを選択する際にESGを考慮することに関する数多くの特別なガイドラインが削除され、他のすべての投資オプションに適用されるのと同じ基準がQDIAにも適用されることになる。さらに、「タイブレーカー」基準(比較にあたり、経済的な利益が同じである場合にのみ「付随的利益」の考慮が可能)に関する負担が軽減され、プラン・スポンサーは意思決定プロセスにおいて、経済的観点からは明らかに重要とは言えないESG要因などの「付随的利益」を考慮できるようになる。

米国労働省の新ルールで注目すべきもう1つの変更点は、受託者が株主として議決権を行使するのがより容易になったことだ。企業経営陣と株主の双方によるESGに関する提案は株主価値に大きな影響を与えており、議決権行使はそれを促す重要な手段だ。ABは、米国労働省が新たな提案でこの点を認識していることを称賛したい。

ルールのさらなる改善を期待

ABの見方では、ESGに関する重要な問題は財務的な問題である。そのことは、衣料品メーカーのサプライチェーンにおける現代奴隷のリスクを評価する株式運用担当者であろうが、ネットゼロ排出への移行が電力会社に与える影響を評価するアナリストや、国際連合の持続可能な開発目標に沿ったテーマ型の投資戦略を評価するプラン・スポンサーであろうが、いずれにも当てはまる。

ABはこのルールに関する意見募集期間に米国労働省に書簡を送り、非常に前向きな措置だとして支持する考えを表明した。また、確定拠出型機関投資家協会とともに、このルールにより、プラン受託者が評価プロセスにESG考慮を取り入れるという、原則に基づくアプローチに近づくことになるとの認識に同意している(米国労働省への書簡)。

依然として、改善すべき点はある。現状では、ルールにはESG要因の具体例が列挙されている。しかし、いくつかのESG要因を列挙することは、そこに含まれていない要因は関係ないことを示唆することになりかねない。財務に影響を与え得るいかなるESG要因も考慮できるとの形で、ルールを広範なものにしておけば、プラン・スポンサーにとって、より柔軟に対応する余地が生まれる。また、タイブレーカー・ルールを完全に撤廃すれば、混乱を減らすことにも寄与すると思われる。

ABは米国労働省が提案した新ルールを歓迎しており、パブリックコメントに基づきさらなる改善が施されると前向きに捉えている。DCプラン・スポンサーにとっては、投資を評価する上でESG考慮が重視されることが一段と明確化されたことで、ESGに関する選択肢をより積極的に取り入れやすくなるほか、ポートフォリオ運用にESGを組み入れるよう運用会社に働きかけることができるようになる。実際、多くのプラン・スポンサーは、すでにESGを組み入れた投資マネジャーを利用しているようだ。今回のルール改訂と今後期待されるさらなる改善に後押しされる形で、投資メニューをより充実させることは、最終的には、加入者のより良い成果につながるだろう。

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