イングランド銀行(BOE)は、2022年5月初旬に政策金利を0.25%引き上げ1.0%とした。今回の動きはおおむね予想されていたが、今後の展開は不透明である。大半の国や地域と同様、英国経済は、インフレ率が急上昇している一方で成長は鈍化しており、2つの別々の方向へ引っ張られている。
 
こうしたジレンマに直面したとき中央銀行はどう対処すべきなのだろうか?残念ながら模範解答は存在しない。高いインフレ率に対抗するために利上げをすると、成長鈍化が悪化するだろう。他方、成長を支えるために金融政策を緩和すると、必然的にインフレの過熱が過度に長く続く状態を許すことになる。
 

成長とインフレの板挟みは英国が最も深刻

そうしたジレンマは、欧州や米国よりも英国の方が深刻である。英国では、インフレ率が両者よりも高い水準で推移しており、またそうした状態が続く公算が大きい。主な理由の1つは、規制が設けられている英国のエネルギー価格が2022年4月と10月に改定されるという点だ。4月の引き上げ率は50%を超えたが、10月にも大幅な改定がなされる見込みである。BOEの予想にはそうした軌道が反映されている。BOEは現在、インフレ率は2022年10-12月期に10%を超え、ピークに達すると予想している。つまり、他の主要国に関するアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の予想と比較すると、より長くインフレ率の上昇が続き、かつより高い水準に達すると予想している。
 
同時に、成長鈍化も英国の方が顕著であり、これもBOEの予想に反映されている。英国経済について同中銀は現在、2023年は景気後退し、2024年はプラス成長に回帰するも小幅にとどまると予想している。インフレ率の予想同様、成長予想における英国固有の要素が、確実視される景気後退を他の国や地域における見通しよりも甚だしいものにしている。例えばブレグジット(英国の欧州連合離脱)が今後も英国の貿易の重しになり、成長を押し下げると考えられる 。
 

政策当局ではさらなる意見の不一致が生じる見込み

もっとも、英国が直面している難題が最も重篤だとしても、こうした難題に直面しているのはなにも英国だけではない。米国とユーロ圏に関するABの予想では、インフレ率が目標水準を上回って推移する状態が続くと同時に2022年の成長は減速するとみている。したがってBOEの対応は、他の国や地域における今後の展開を占う注目の事例になるだろう。
 
BOEの対応がどうなるかは不透明である。5月初旬にBOEにおける9名の金融政策委員のうち3名が0.5%の利上げを主張した一方、2名については将来の利上げの公算が大きいことを示唆する文言を声明から削除することを主張した。特定の中央銀行の政策決定機関内でそうした深い溝が生じるのは異例のことであるが、これは他の国や地域における動向の予告なのかもしれない。
 
現在のところ、米連邦公開市場委員会(FOMC)は満場一致で政策引き締めを予想しているが、今後は、成長鈍化の証拠が積み上がるにしたがいそうした一枚岩に亀裂が生じるとABは予想している。タカ派的(利上げに前向き)なメンバーはインフレ率が大幅に低下するまで利上げを続けるべきだと求める一方、ハト派的(利上げに対して慎重)なメンバーはより早い段階から成長の減速を利上げの判断において重視しようとするだろう。同じことが欧州中央銀行(ECB)にも当てはまる。複数のメンバーが早ければ7月にも利上げに踏み切るべきだと積極的な様子である一方、他のメンバーは遥かにもっと慎重な姿勢を保っている。時間の経過とともにそうした溝は広がると考えられる。
 

妥協点を探る: 成長とインフレ率

そうした難しい状況のなか政策を決定するにあたっては、3つの中央銀行はいずれも妥協点を探ろうとするだろう。BOEは追加利上げを決定する公算が大きい。インフレ率が10%近くで推移しているなか、金利を現在のような低水準に維持するよう中央銀行に求めるというのは単に無理な話である。英国の金利は2.0%まで引き上げられると予想する(図表)。
 
中央銀行の政策金利は引き上げ傾向.png
 
ECBは少なくともプラス水準に金利を引き上げる公算が大きい模様だが、インフレ率がそれほどは高くないため、利上げの必要性は他地域ほど顕著ではない。したがって今年は0.50%が上限になる公算が大きい。米国の成長の勢いは欧州のいずれの地域よりもはるかに力強いため、米連邦準備制度理事会(FRB)はより大胆な政策を実行するとABは予想している。もっとも、利上げのペースは年内に減速し、2022年末時点の政策金利は2.5%程度になるだろう。
 
BOEのメッセージを総合すると、不安定な経済情勢が影響し、柔軟な政策決定が必要になることが見込まれると述べている。成長とインフレ率とのジレンマという難題に対する模範解答のない環境においては、中央銀行は機動的に動くことが求められるが、投資家についても同じことが言える。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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