サプライチェーンの混乱が世界中の企業を試練にさらしている。解決策は発酵タンクからも見つかるのだろうか? アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)はこの危機によって、素材から食品まで多くの製品について、外部に依存せずに地元で持続可能な供給を確保するため、合成生物学の技術を取り入れる動きが加速する可能性があると考えている。
 
危機は必然的に大きな変化とチャンスにつながる。現在のサプライチェーン危機も同じことかもしれない。新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、企業や国家は経済を正常に機能させるために不可欠な品目について、安定した供給を確保するのに苦戦してきた。2022年はさらに、ロシアとウクライナからの原油や小麦などの主要なコモディティの供給が戦争によって妨げられている。また、近年の気候変動に伴う自然災害の多発も、サプライチェーンを阻害している。
 
自動車メーカーではマイクロチップの不足で生産に支障が生じ、工場が休眠状態に陥っている。製薬会社は、多くの医薬品について、有効成分の調達を海外に依存している。「欧州の穀倉地帯」と呼ばれるウクライナから輸出される小麦に依存している食品メーカーは、作付け時期に農家が作業できないリスクにさらされている。こうした問題に直面しているさまざまな業界の企業は、合成生物学に目を向けることで、サプライチェーンを再構築する画期的な方法を見出すことができるかもしれない。
 
合成生物学は、さまざまな製品の製造方法に大きな影響を与える可能性のある革新的な技術である。ABは最近発表したホワイトペーパーの中で、この分野の技術がどのように機能し、応用範囲を急速に拡大しているかについて説明している(「The Synthetic Biology Revolution: Investing in the Science of Sustainability」(英語)ご参照)。それはすべて、醸造所のような環境で起きる。人間が利用するような生物の細胞(例えば酵母)は通常、発酵槽の中で増殖し、生産物(例えば精製タンパク質)が収穫される。合成生物学が最初に取り入れられたバイオテクノロジー業界以外でも、コストの低下により、ペットフード、時計用ストラップ、セメントの品質改善につながる素材の生産などに利用が広がっている。加えて、今起きているグローバリゼーションの後退は、合成生物学のさらなる導入を促す可能性がある。
 

長年にわたるグローバリゼーションの巻き戻し

数十年にわたる比較的平和な時代は、企業にサプライチェーンのグローバル化を促した。多くの自動車部品は車に搭載されるまでに何度も米国とメキシコの国境を越える。アップルのiPhoneには、40ヵ国以上で製造された部品が使われている。こうしたサプライチェーンの最適化の結果、企業はかつてなく高い利益率を得ることが可能になったが、隠れたぜい弱性も生み出された。
 
ある地域で新型コロナウイルスが流行して港が閉鎖されたり、地政学的な紛争で供給が妨げられたりすれば、海外から部品を安く調達することで得られたコスト節減効果はたちまち消えてしまう。農業用肥料など我々が日頃使っている製品は、多くの材料を遠く離れた国から輸入しており、非民主的な政権が支配している国から調達されるケースも多い。たとえ現在の紛争が解決したとしても、企業や経済はその本質的なぜい弱さを認識したため、単純にこれまで当たり前だったサプライチェーンに戻ろうとはしないと思われる。
 
そうした環境において、合成生物学はコスト効率の高い現地生産を可能にする。そしてビールを醸造できる場所ならどこでも合成生物学を使うことができる。ここで、合成生物学が厄介な供給問題を解決できる可能性のある分野をいくつか紹介したい。
 
石油や天然ガス:化石燃料はエネルギーを生み出すためだけに使われているわけではない。プラスチックやナイロンは石油の副産物だ。そして、これらは合成生物学を使って作り出すことができる。また肥料の一部は天然ガスから作られているが、最近の研究では、天然ガスに依存しているアンモニア系肥料の代替品として、人工的に作られた細菌を使用できる可能性があることが指摘されている(「Engineered ammonia-producing bacteria could replace crop fertilizers」(英語)ご参照)。
 
医薬品成分:世界の医薬品の約半分は、植物や自然由来の原材料から作られている。米食品医薬品局(FDA)によると、医薬品の有効成分メーカーの約78%が米国外に拠点を置いている(「Fact Sheet: FDA at a Glance」(英語)ご参照)。合成生物学を利用してこれらの化学物質を生産する製薬会社が増えれば、原材料の国外への依存度を引き下げることができる。
 
食品や香味料:最近の世界的な危機によって、食品サプライチェーンのさまざまな部分におけるぜい弱性がさらけ出された。例えば、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた際には、米国の消費者が大規模な食肉不足に直面し、タイソンフーズは「食品サプライチェーンが壊れつつある」と警告した。グッド・フード・インスティチュートによると、合成生物学を利用すれば代替タンパク源を作ることが可能で、比較的小規模でも経済的に成り立つため、さまざまな場所で実用することができるという(「Supply Chains for the Production of Agricultural Commodities and Food Products」(英語)ご参照)。分散型の供給システムは混乱に対する耐性が強い。シンガポールは全食品の90%を輸入しているため、世界に先駆けて培養肉を認可している。また、合成バニラは世界の供給の85%を占めるようになり、主にマダガスカルで生産される天然バニラの慢性的な供給不足を解決している。
 
衣料品:地球の裏側で製造されたシャツや靴を身につけることは当たり前になった。だがマッキンゼーによると、アパレル及びファッション企業の71%が2025年までに近隣国での生産拡大を計画している。マッキンゼーは、合成生物学を活用することで、ナイロン、絹、綿、衣料用染料といった素材の生産コストが大幅に削減できると予測している。
 
電気自動車用バッテリー:コロンビア大学の教授は(以前の記事『投資家と気候科学者のサケ養殖』ご参照)、合成生物学を利用して、貴重な素材を環境に配慮した持続可能な方法で鉱山から抽出できる、特殊な微生物を開発した。それは、米国における電気自動車用バッテリーの原材料の現地調達を改善する一助となり得る。
 

科学による戦略的な優位性

多くの企業は合成生物学について、高価な未来のテクノロジーで、世界的に分散されたサプライチェーンには適さないとして敬遠してきたかもしれない。しかし、既存企業が事業の転換を図っているほか、新興企業が成長し、新たなサプライチェーンをゼロから構築していく中で、合成生物学はより魅力的な選択肢となる可能性がある。合成生物学への投資が拡大すれば、生産コストを引き下げる発見につながり、用途や市場が拡大し、さらなる投資を呼び込むという好循環が生まれることになる。投資家にとって、それは注目に値する。ABの見方では、合成生物学の革命を実現しようとしている一部の革新的な企業は、魅力的な成長の可能性を秘めている。また、サプライチェーンの問題に対処するためこの技術を取り入れようとしているさまざまな業界の企業が、同業他社に対する戦略的な優位性を手に入れることで、投資家は長期的に魅力的なリターンを得られる可能性がある。
 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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