世界経済の見通しは急激に悪化しており、2023年の国内総生産(GDP)成長率は潜在成長率を大きく下回るとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では予想している。しかし、すべての景気後退が破滅的であるわけではなく、中央銀行がインフレ対策から焦点を移し始めることが可能になれば、経済活動と金融市場の回復が目前に迫っていることを示すサインといえる。
 
インフレがすぐに沈静化する兆しは乏しく、中央銀行は積極的に金融引き締めを進めている(図表1)。米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年に入ってから150ベーシス・ポイント(以前の記事『米国利上げ-FRBはインフレ対策を最優先』ご参照)、イングランド銀行は125ベーシス・ポイントの利上げを行い、欧州中央銀行も2022年7月に引き締めを開始する予定である。オーストラリア、カナダ、新興国の中央銀行も金融引き締めを行い、今後も引き締め政策が続くと予想されている。
 

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景気後退は確実ではないが、当面はリスクが高い

金融引き締めは必然的に成長率の低下を意味し、金利上昇が遅かれ早かれ景気後退につながることが市場ではますます懸念されている。景気後退は確実ではないが、その可能性はここ数カ月で高まっている。
 
ABではインフレ見通しを上方修正し、成長見通しを下方修正した(図表2)。現時点では、ほぼすべての主要経済国で2023年のGDP成長率が潜在成長率を大きく下回ると予想している。景気の減速がテクニカル・リセッションに至るかについても、今後数四半期は予断を許さない状況だ。このため、中央銀行が利上げペースを緩めるほどインフレが緩和されるまでは、金融市場の安 定は期待できないと思われる。
 

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中央銀行にとって難しい計算

中央銀行にとっての問題の1つは、物価を押し上げる要因の多くが、中央銀行の手に負えないものであるということである。多くの地域でパンデミックによる経済活動停止からの回復に苦慮しているため、サプライチェーンの混乱は依然として影響を及ぼしている。商品価格の上昇は、サプライチェーン問題とウクライナでの戦争の両方によって引き起こされて、火に油を注いでいる格好だ。
 
中央銀行ができることは、利上げとバランスシートの縮小によって需要を減退させて現在の供給水準に近づけることである。
 
しかし、それは容易なことではない。引き締めのスピードが遅すぎたり、小さすぎたりすると、インフレ期待が安定を失い、インフレがコントロールできない時代の到来を告げることになるかもしれない。しかし、引き締めすぎれば、景気後退を招き、供給サイドの回復が実現した時に、逆にディスインフレに陥る可能性がある。中央銀行は今回の利上げサイクルにおいては、慎重を期して徐々にしか引き締めを行わないようにした。しかし、インフレがなかなかおさまらない中、引き締めのペースは急速に強化されつつある。
 
政策立案者はサイクルの初期段階で利上げ幅を迅速に引き上げ、ダウンサイド・リスクを最小限に抑えた引き締めサイクルを実行できるだろうか。これは、高インフレが続くことでソフトランディングへの道が狭まっていくことに対抗する政策手法だが、不安要素がある。今回の局面では、金融政策で直接影響を及ぼすことのできない部分の供給サイドの物価上昇要因が緩和されない限り、中央銀行には経済成長減速のリスクを侵しても、積極的な引き締め姿勢を維持する以外の選択肢はな くなるだろう。
 
マクロ環境の厳しさを考えれば、金融市場が苦戦するのは当然であり、実際、これは経済のリバランスに不可欠な要素である。金融政策は、金融市場を通じてマクロ経済に働きかける。金利上昇、信用スプレッド拡大そして株価下落は、需要を減退させる作用があり、それらは中央銀行が引き締め政策で企図しているとおりの現象なのだ。したがって、中央銀行が当面は市場を支援することはないと思われ、それは金融市場のボラティリティが更に高まることを意味する。
 

景気後退を歴史的にとらえる

短期的な景気見通しは厳しいものの、パンデミックや世界金融危機のときと異なり、すべての景気後退が壊滅的なものではない。通常のサイクルでは景気後退はあまり厳しくないし、今回のサイクルは比較的堅調な経済環境を出発点としている。
 
家計部門は信用力が高い。貯蓄は増加傾向にあり、労働市場は強く総所得も堅調な推移を続けている。このため、少なくとも今後数四半期は需要が減速しても大崩れすることはないだろう。また、ここ数年の景気の上昇・下降のサイクルは早かったため、企業部門では景気後退の始まりによく見られるような過剰なレバレッジは蓄積していない。こうした家計部門、企業部門の信用状況の健全さは、今後数カ月間のダメージを限定的にするはずだ。
 
もう1つの重要なポイントは、高インフレは世界中で均一ではないということだ。アジアの多くの地域では、欧米諸国が直面しているような物価上昇圧力は見られない。欧米の中央銀行が引き締めに転じる中、例えば日本では極めて緩和的な政策が維持されている。中国の政策立案者は財政と金融の両面から政策を緩和し、中国経済を軌道に乗せようとしている。
 

中国の安定化にもかかわらず新興国経済は低迷

中国は依然として世界経済の重要な部分を占めており、ゼロ・コロナ政策と関連する操業停止問題は、ここ数カ月の間、経済への大きな障害となっている。サプライチェーンが寸断された世界において、中国を物流の世界に戻すことは、世界経済をより正常な状態に戻すための戦いにおいて主要な一歩となる。中国の経済データは、数カ月間期待外れだった後、2022年4-6月期後半に回復し、成長率の改善を示唆している。政策当局者は、2022年の公式なGDP成長率目標である5.0%-5.5%を達成するために必要な手段を講じる構えだとABでは考える(以前の記事『近づく中国の財政刺激策:成長を目指す局面に』ご参照)。
 
他の新興国では、中央銀行(特に欧州と中南米)が引き締めサイクルの終盤にさしかかっているようだ。しかし、ディスインフレの具体的な兆候が現れるまでは、油断は禁物である。上述のように、このインフレ・サイクルは特殊であり、インフレ・リスクは、中央銀行が事態のさらなる悪化を止めるためには成長を犠牲にすることもいとわないところにまで高まっている。
 
その結果、ABでは中国とロシアを除く新興国の成長率見通しを引き下げた。これは2023年に先進国と新興国との成長率格差が拡大することを意味するものの、まだ新興国にとってプラスに作用する環境ではない。また、先進国の中央銀行が引き締めを強化しているため、新興国の中央銀行は主要通貨に対する金利差を維持するために引き締めサイクルを延長せざるを得なくなる可能性がある。このため、新興国の成長見通しに関するリスクバランスは下方に傾いている。
 

インフレ率上昇の社会的・財政的リスク

世界経済のハードランディングが起きた場合、商品価格が低下する。商品価格の下落は、新興国市場のインフレ問題を軽減するわけだが、今回の局面では通常ほどの効果は得られにくいかもしれない。その主な理由は、戦争による食糧供給の問題と、為替レートの変動や輸入品の価格上昇を通じて、グローバルなインフレが国内価格に転嫁される輸入インフレのリスクが高いからだ。
 
インフレ率の上昇は、新興国にとって社会的なリスクであり、財政悪化の一因となる可能性がある。すでにいくつかの国では、可処分所得を補うために補助金を増やしたり、パンデミック関連の社会的補助金を拡大したりして、インフレショックを吸収しているのが現状である。インフレ抑制に時間がかかればかかるほど、財政の分断化のリスクは大きくなる。その一方で、インフレ・スパイラルを止めるために世界的な金融引き締めを加速させることは、新興国経済にとっては別の意味の逆風であり、スタグフレーションのリスクが後退するまでは新興国の資産価格は苦戦する可能性がある。
 

全体像の総括

経済見通しは困難であり、成長率が鈍化しているにもかかわらず、インフレ率は頑強なまでに高い。中央銀行には全てを解決するような選択肢がない。インフレ対策は成長を阻害するが、インフレを放置すれば、より深刻な混乱につながる可能性がある。今のところ、たとえ成長率の低下や金融市場の不調を意味するとしても、インフレには正攻法で対処している。
 
このサイクルの中で、我々は何を注視しているか。
 
インフレとインフレ期待がカギとなる。インフレが一旦緩やかになり、インフレ期待が安定する限り、中央銀行は成長を重視する方向に舵を切ることができるだろう。このような方向転換は、経済と金融の両面の回復が視野に入ってきたことを意味するものと思われる。その一方で、金融市場では引き続きボラティリティが主要なテーマとなるだろう。

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