2015年

ハッピーリタイアメントの文化を日本にも

2015.08.21

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欧米ではもはや当たり前の「ハッピーリタイアメント」文化。
翻って、日本ではいまだ退職するということに対してネガティブな印象が強い。
老後は幸せだ、退職するのはハッピーだという意識を
根付かせるにはどうすればよいか?
多方面で活躍する小山薫堂氏に山本誠一郎(弊社代表取締役社長)が話を伺った。

父からもたらされた経済に対する高い意識

山本本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
今回は金融機関のイノベーションがハッピーリタイアメントをつくる、と題して小山薫堂さんにお話を伺います。
薫堂さんといえば、「料理の鉄人」をはじめとするテレビ番組の放送作家であり、映画「おくりびと」の企画および脚本家、「くまモン」など地域創生の仕掛け人、そしてさらには大学教授、京都の歴史ある料亭の経営者と、その類まれなる才能を多方面で発揮されています。そのバイタリティはどこから生まれてくるのですか。

小山ひとことでいうと、僕が「貧乏性」である、ということではないでしょうか。貧乏性というと誤解を生むかもしれませんが、僕の根底には「一度きりの人生を生きるなら、無駄に生きるのはもったいない」という考えがあります。現代はいろんな自由があります。たった百数十年前の江戸時代なら、職業を選ぶことさえ許されなかったことを考えれば、なんでもできる社会だといえます。フルにチャンスを活かさなければもったいないと思うのです。 
もともと僕は、テレビの放送作家としてキャリアをスタートしています。「自分の作った番組で人を喜ばせたい」というのが、今も昔も変わらない思いです。でも、テレビは視聴率という数字は見えますが、喜んでいる人の笑顔は見えない仕事なんです。それで、リアルに人の喜ぶ姿が見たいと思い、寄せられるさまざまなご要望にお応えしているうちに、今のように仕事が広がりました。

山本私自身の個人的な意見ですが、薫堂さんの素晴らしさは、クオリティの高いお仕事をなさりながら、商業的にもきちんと成功を収めていることだと感じています。金融業に身を置く私たちから見ても、金銭に対する高い意識がおありだと感じますが、その意識はどのようにして身に付いたのでしょうか?

小山それは、父からもたらされたものだと思います。僕の父は、熊本県で金融業を営んでいました。そのせいか、小学生の頃から金利や公定歩合、金融商品などについて、さまざまなことを教わりました。お年玉も「今一番金利が高い金融商品はこれだから、ここに預けなさい」と郵便局の定額貯金に預けさせられました。もっとも、当の僕は郵便局にある冷水器の水が飲みたくて、通うような少年でしたが(笑)。毎月のお小遣いも、父が郵便局に入金して僕が引き出して使うというスタイル。ある時、どうしてもほしいものがあって、土日に引出したことがあるんです。そうしたら父に「預けたお金の金利で得られる金額を考えなさい。土日の手数料1回で、無駄になるどころか資産が減ってしまっているんだぞ」と怒られました。

山本それはすごい英才教育ですね。実際の体験を通して、お金に対する感覚を身に付けたからこそ、今の薫堂さんがあるのですね。

ハッピーリタイアメントのロールモデルを見せる

山本では、そんな薫堂さんに、お知恵を拝借できればと思います。私たちが提唱している「ハッピーリタイアメント」とは、仕事をリタイアする人に対して「おめでとう、これからの人生をますます楽しんでください」と祝福する考え方のことです。実際に欧米ではリタイアするときに「おめでとう」と祝福され、楽しい老後生活をスタートさせます。一方で、日本の定年退職のシーンには、どこかさみしさやもの悲しさが感じられます。ハッピーリタイアメントの意識をもってもらうためには、どんなことが必要でしょうか。

小山そうですね…。リタイアメントがハッピーなことだ、という認識が日本にないのは、そういうロールモデルを知らないからではないでしょうか。つまり、「あんなハッピーリタイアメント生活を送りたい」という憧れがないから、定年=さみしい、もの悲しいという認識になってしまうのだと思います。
たとえば、これは思い付きですが、ハッピーリタイアメントを実践している人にクローズアップしたテレビ番組があってもいいですよね。退職の日からスタートして、その後の人生を追う。その人がいかにスパッと格好良く仕事をやめたか、第二の人生を楽しんでいるのかを紹介します。クルーズの旅に出る人もいるでしょうし、田舎に帰って新しい暮らしを始める人もいるかもしれません。対象は都会じゃなくてもいい。お金がなくても十分に幸せに過ごす人もいます。そうしたさまざまな幸せの形を示してあげることで、「老後ってなんか楽しそうだ」「リタイアするって幸せなことなんだ」と思うのではないでしょうか。

山本それはすごく素敵な企画ですね。確かに、憧れのハッピーリタイアメントのケースがたくさんあれば、社会全体が老後は幸せだ、という空気になりそうです。

小山薫堂(こやま・くんどう)

放送作家。脚本家。1964年に熊本県天草市に生まれる。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、これまでに「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」など斬新な番組を数多く企画・構成。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した。東北芸術工科大学教授や株式会社下鴨茶寮代表取締役社長の肩書も持つ。

「企画とは、払っていただいたお金以上の価値を創ること」(小山)

日本に投資文化を根付かせるために必要なこと

山本もう一つ質問させてください。ハッピーリタイアメント文化の醸成をするためには、これから退職する世代だけでなく、若者にもその意識が浸透することが重要です。けれども、不透明な年金問題もあり、日本は若者になればなるほど、将来を悲観しているというのが現状です。老後を安心して過ごすための資金の準備ができない、と考えているのですね。
物心両面でハッピーなリタイアメントを迎えるため、日本に投資文化を根付かせていくことも、私たちの責務だと考えています。これについてもご意見をいただけますか。

小山僕は、自分の経験からも、若いうちからお金に対する教育をきちんとするべきだと考えています。アライアンス・バーンスタインさんや大手金融機関の皆さんが力を合わせて、ぜひ子どもたちにお金の教育をしてほしいです。その時に重要なのが、お金の貯め方だけでなく上手な使い方、使うことの喜び、重要性を教えることです。僕の仕事に照らし合わせると、「企画とは、払っていただいたお金以上の価値を創ること」です。たとえばここに1万円があるとします。その1万円はそのまま置いておいたら1万円でしかありません。もっと言えば、物価が高くなったりしたら、その価値は元本割れしてしまう可能性もあります。けれどもその1万円で何らかの企画を立てることによって、その人が10万円の価値を手にすることもできます。そうすれば、その人はより幸せになることができるはずです。

山本薫堂さんのお仕事が高い評価を受けているのは、その企画力だけでなく、価値の向上という点に目を向けていらっしゃるからなのですね。その考えは私たち投資の世界にも非常に通じるものがあります。投資もまたお金の価値を高めるものですが、未だ日本では投資を行う人が少ないのが実情です。私たちももっと力を入れていかなければなりません。

小山投資という言葉自体、まだまだ自分ごととして捉えられていないのかもしれませんね。金融業界全体で、投資大賞なんて作ってみてはいかがですか? 投資大賞といっても、「いかに多くのリターンを得たか」を競うのではありません。より魅力的で、世の中のためになる投資をした人に賞を贈るのです。例を挙げると故ソニー名誉会長の大賀典雄さんが寄贈した軽井沢大賀ホールなんて、若者に良質な音楽を安価に届け、町の魅力も高めた非常に素晴らしい投資ですよね。もちろん、そこまで大がかりな投資ですと身近に感じられにくくなりますから、10万円の部、100万円の部、1000万円以上の部、というように投資金額を分けてその効果を表彰してみてはいかがでしょう。

山本非常に面白いアイディアですし、投資のイメージを前向きに変えることができそうですね。薫堂さんが発起人となった首都高速道路のプロジェクト「東京スマートドライバー」は、悪い運転を取り締まり一方的に交通規制を強要する従来のキャンペーンではなく、良い運転をするドライバーを褒めて回ることで事故を減らすという発想が画期的でした。資産形成をしている人=かっこいいというイメージを世間に広めるためにもこういった発想の転換が必要なんでしょうね。
ところで、薫堂さんご自身は何か資産運用をされていらっしゃいますか。

山本誠一郎(やまもと・せいいちろう)

アライアンス・バーンスタイン株式会社代表取締役社長。安田信託銀行株式会社(現みずほ信託銀行株式会社)を経て、1999 年サンフォード・C・バーンスタイン社(現アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー)に入社。2012年3月より現職。

「資産形成をしている人=かっこいいというイメージを世間に」(山本)

小山こんなに話をしておいてお恥ずかしいところですが、自分自身の資産運用はあまり意識していない方です。若い頃は、旅先で訪れた酒場には必ずボトルをキープして、その街や人とのつながりの証にしていました。日本中のいたるところに地図なしで歩ける街をたくさん作るのは、今でも僕の理想です。どれだけたくさんの友だちをつくるか、そこにお金をかけたいなと思うのです。

山本街や人とつながるために、ボトルをキープするなんて、ある意味で薫堂さんらしい投資のあり方ですね。ネットワーキングに投資する、という考え方のように、金融商品に限らない投資のあり方も提案していくことで投資が身近になっていくのかもしれません。本日はお話ありがとうございました。

(対談日:2015年7月13日)

小山薫堂さんの関わった仕事の数々

料理の鉄人

1993年から1999年までフジテレビ系列で放映されていた料理をテーマとしたバラエティ番組。料理家同士の対決をテーマにしたコンセプトで大ヒットし、海外各国では「アイアン・シェフ」として話題に。小山氏が構成を担当。

おくりびと

山形県酒田市を舞台に、元チェロ奏者の納棺士を主人公にした滝田洋二郎監督の2008年の日本映画。小山氏が脚本を担当。国内外で数多くの映画賞を受賞した。

くまモン

小山氏がプロデュースした熊本県のPRマスコットキャラクター。熊本県民が日常にあるサプライズを見つけ発信するというPR活動の延長として、アートディレクターの水野学氏とともに熊本県に提案。いまや「ゆるキャラ」の代表格に。

日光金谷ホテル

2003年から顧問を務める日光にあるクラッシックホテル。客室の改装やレストランのメニュー開発など、さまざまなアイディアを提供した。

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