市場では今、米国における量的緩和(QE)の移行プロセスに関心が集まっているが(以前の記事『FRBはテーパリング着手へ向かう・・・だが「タントラム(市場の動揺)」の懸念は小さい』ご参照)、近いうちにもう1つの移行に注目が向かう見通しだ。それは、米連邦準備制度理事会(FRB)の指導部に変化が生じる可能性である。
 
ジェローム・パウエルFRB議長は2022年2月に任期が満了し、ジョー・バイデン米国大統領は今秋にもそれ以降の体制について発表するとみられる。交代する可能性があるのはパウエル議長だけではない。リチャード・クラリダ副議長の任期が2022年1月に満了するほか、ランダル・クオールズ副議長も、理事としての任期は続くものの、銀行監督を担当する副議長としての任期は2021年10月に満了する。
 

パウエル議長は再任か・・・それともブレイナード氏の可能性?

FRBではこれら3人が退任する可能性があるほか、すでに1人の理事ポストが空席となっているため、バイデン政権は今後数カ月の間に7人のFRB理事のうち最大4人を選ぶ機会を手にすることになる(必ずしもすべての理事が交代するとは限らないが)。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、パウエル議長は再任される公算が大きい。パウエル氏の金融政策運営は、民主、共和両党から幅広い支持を得ている。
 
しかし、バイデン米大統領がパウエル議長を交代させる決断を下したり、パウエル氏が再任を拒んだりした場合には、2014年からFRB理事を務めているラエル・ブレイナード氏が後任に指名される可能性が最も高いように見える。ブレイナード氏が議長に就任した場合、FRBの金融政策に変化が生じることはなさそうだ。外部の候補者についても、政策の継続性をチェックする必要がある。現在のFRBのアプローチはパンデミックの期間も経済を支える役割を果たしており、米国経済は非常に緩やかながら正常化に向かっているようだ。次のFRB議長はそれを揺るがしたいとは考えないだろう。
 

銀行監督を強化?

パウエル議長に対する議会の批判は主に規制に関するもので、一部の議員から、金融セクター、特に大手銀行に甘すぎると批判されてきた。
 
そうした理由から、クオールズ氏が銀行監督担当の副議長として再任されるとは考えにくい。規制当局にはもっと細かな対応が求められる見通しで、ブレイナード氏が議長に指名されない場合にはその役割を担う可能性がある。ブレイナード氏は規制政策に精通している上、経験も豊富で、より積極的な監督を主張している。そのスタンスは、規制ガイドラインの執行強化を求める議員にアピールできる力を持っている。
 
大半のFRB副議長は任期が満了すればFRBを去るが、クオールズ氏は少なくとも理事として残ることを検討しているようだ。過去の慣例を破ることは考えにくいが、その可能性はある。少なくとも、クオールズ氏は新たな副議長が決まるまでポストにとどまり、FRBの規制体制が手薄になり過ぎないよう留意するかもしれない。
 
クラリダ副議長の任期は2022年1月下旬に満了し、退任はほぼ確実視されている。バイデン米大統領がイリノイ州出身のクラリダ氏の再任を目指す可能性がないわけではないが、空席になっている理事に加えてクラリダ氏のポストを埋めるため、FRBの外部に目を向ける可能性がある。現在の理事会構成を考えると、外部からの人材登用は、連邦公開市場委員会(FOMC)に多様な視点をもたらすことができる候補者に焦点を当てることになりそうだ。
 

政策に与える影響は?

では、こうした指導部交代の可能性は、金融政策にどんな影響を与えるのだろうか?
 
バイデン政権は継続性を重視するとみられるため、FRBの安定性を維持することが強く求められそうだ。そのため、特にパウエル議長が再任された場合、金融政策の軌道修正につながるような人事が行われる可能性は低い。
 
長期的には、FRBに新たな人材が加わることで、より大きな影響が生じる可能性がある。今のところ、FRBは雇用の健全化につながるのであればインフレ率の上昇を積極的に容認する姿勢を示している。その考えを共有する理事をバイデン米大統領が任命すれば、インフレの容認はより長期的な政策となる可能性がある。一方、金融セクターに対する規制の枠組みが強化され、特に大手銀行は厳しい規制に直面するかもしれない。
 
FRBの指導部交代がもたらす他の影響については、今後の動向を見極めていく必要があるが、FRBが経済政策の主たる担い手であることに変わりはなく、今回の人事が今後数年間にわたって重要な意味を持つことは間違いない。
 

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