イラン情勢に伴う今回の原油ショックは、世界経済への影響において、さまざまなマイナス要因が考えられる。

イスラエル・アメリカによるイランへの軍事作戦は、これまでの戦争や紛争などと異なり、原油関連施設への攻撃や海上輸送ルートの封鎖など、経済活動に直接的な影響が及び、金融市場を混乱させるさまざまな懸念が浮上している。

アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は、地政学に対する専門家ではないため、この紛争がどれほど続くのか、あるいはその結果がどうなるのかを予測することはできない。紛争が速やかに沈静化するならば、経済への影響は限定的であるし、そうでなければ、深刻化する可能性がある。この種の状況において、不確実性は避けられず、運用においては実利的に対応するしか方法はない。

原油ショックの規模と期間が重要

原油価格の上昇はスタグフレーションのリスクを高める。企業や家計など、より多くのエネルギー支出を強いられるためである。その結果、その他の支出が抑制され、経済成長が鈍化する。物価上昇と成長鈍化が生じるのである。その影響を測ることは難しい。今時点の景気がどういう状態か、そしてショックが消費者マインドをどれだけ弱めるかなど、複数の変数に依存するためである。ただ、全体の経済の方向性は明確にマイナスである。

少なくとも現時点では、今回のイラン情勢が原油価格に与えている影響は、過去の他の原油ショックと比較して相対的に限定的である。2026年3月9日時点で、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)原油の直近限月の先物価格は、戦闘の開始以降、およそ50%上昇している。この上昇率は、ロシアによるウクライナ侵攻後の上昇よりも小さく、アラブの春や湾岸戦争に伴うショックと比較すれば、さらに大幅に小さい(図表)。原油価格の情報幅は、さまざまな物価に影響を及ぼすため重要であり、上昇幅がさほど高くないという状況は、経済的観点からすれば、良い知らせである。

同様に、価格急騰がどれほどの期間続くかという点も重要である。原油価格が急騰後すぐに元の水準へ戻るのであれば、経済への影響は軽微である可能性が高い。しかし、紛争が長引き、原油価格が高止まりする場合、状況はより複雑になる。

ガソリン価格の痛みは、より幅広いインフレへ波及し得る

原油価格が急騰すると、ガソリン価格がほぼ即座に連動して上昇するため、ドライバーは最初にその影響を感じることが多い。これが総合インフレ率を押し上げる。価格ショックが十分に長く続くと、企業は輸送費の上昇を販売価格に転嫁するため、その他の商品価格も上昇し始める。

これらの「第二次的効果」は、ガソリン価格よりも粘着性が高い傾向にある。原油価格が下落すれば、ガソリン価格も下落する。しかし企業は、仮に値下げを行うとしても、そのペースが遅くなることが多く、その間は利幅が拡大する。この影響が、中央銀行が警戒するコアインフレ率に波及する。

スタグフレーションのリスクは金融政策の判断を難しくする

では、中央銀行は、持続的な原油価格ショックによる物価上昇を抑えるために利上げを行うべきなのか。そう単純ではない。そこには複雑な要素があるためである。物価が上昇する一方で、経済成長は減速する。消費者や企業はエネルギーへの支出が増えると、その他の財やサービスへの支出を削減する。こうした影響は経済全体に波及し、次第に大きくなる。その結果、需要全体が減速し、それに応じて成長も鈍化する。これが、スタグフレーションにおける「停滞」である。

こうした状況において中央銀行が取るべき対応は明確ではない。それは、経済成長とインフレ率の双方に与える影響の大きさに左右されるためである。また、その影響の大きさは一定期間が経過しなければ明らかにならない。こうした判断の難しさを踏まえると、米連邦準備制度理事会(FRB)は、さらなる情報が得られるまで政策を据え置く可能性が高いと考えられる。ABは、もともと近い将来に利上げや利下げは想定していなかった(FRBも同様である)。したがって現時点では、今回のショックによる政策経路の変更は見込んでいない。

これは世界の他の地域でも同様である。欧州はペルシャ湾からの原油及び天然ガスの主要な輸入地域であるものの、今回の価格ショックは、欧州中央銀行が警戒を強めるほどの規模には達していない。ABは、欧州でも金融政策は慎重姿勢を維持すると見ている。例外となる可能性があるのは英国である。イングランド銀行は、主要中央銀行の中でもっとも利下げに近い位置にいるように見える。ただし、今回の戦争が政策当局の方針を変更させるほどの影響を与えるかどうかは不透明である。

アジア経済は概して中東の原油及び石油製品の大規模な輸入地域である。中国は、原油の備蓄を積み増しており、当面の供給混乱には対応できるとみられる。それでも、新興アジア諸国はぜい弱である。中東からの供給に代わる原油の生産能力や調達力を十分に持たない国が多いためである。

今回の原油ショックは市場にとって何を意味するのか

スタグフレーションは厄介な組み合わせである。物価が上昇する一方で成長が鈍化するという、経済にとって思わしくない状況が同時に起こるためである。これまでのところ、金融市場は変動こそ大きいものの、急落が続いているわけではない。株式市場や債券市場で崩壊的な下落は起きていない。市場での資産価格は、政治指導者が紛争の長期化をどの程度見込んでいるかに関するニュースに反応して動いている。

過去のショック時における市場の典型的な動きを踏まえると、こうした反応は妥当であるとABは考えている。繰り返しになるが、紛争が比較的短期間で収束するのであれば、市場に長期的な影響が残ると投資家が懸念する理由はほとんどないとABは見ている。その理由は、経済への影響自体も長期化しないと考えられるためである。しかし、地政学的な衝突は複雑で、予測が極めて難しい。事態が長引けば、状況は変化し、ABによる影響評価も変わり得る。最終的には時間が答えを示すことになる。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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