2020年6月上旬の連邦公開市場委員会(FOMC)では新型コロナウイルスの発生以来初めて包括的な経済見通しが発表されたが、その内容は芳しくなかった。連邦準備制度(FED)は今後数年間にわたって経済が潜在成長率を下回って推移すると予想しており、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)も同様の見解だ。
 
ゼロ金利政策を今後数年間維持するとの見通しは市場に多少の安心感を与えたものの、経済成長をさらに下支えするチャンスを逃したとABでは位置づけている。見通しが顕著に改善すれば別だが、そうでない限り、今後数カ月の間にFEDが今回の過ちを正すことを願う。
 

経済予想の修正:急速に反発も、そこからの回復は鈍い

FEDは2022年までの経済予想を、コロナ危機の発生以降初めて発表した(FOMC後の議長記者会見から(2020年6月10日、英語))。そこでは短期的な景気回復が予想されている一方、数四半期以上にわたり国内総生産(GDP)が直近ピーク時を下回る状態が継続する、すなわち回復は緩慢なものに留まるとの見通しが示された。
 
ABの見解も同様だ。企業の営業活動再開や財政刺激策による消費下支えを受けて、今後数カ月間は需要復活に伴う力強い回復が見込まれるが、これらが一服した後は労働市場が酷く痛んでいるという現実がしばらく重石となるだろう。FEDは失業率の高止まり及びインフレ率の目標下振れが少なくとも今後2年半は続くという悲観的な予想をしている。暗い内容であるが、これは理にかなったものだ。
 

FEDに何ができたか?

このような見通しを踏まえて、FED は「経済が昨今の逆風を乗り越え、雇用最大化と物価安定の目標達成に向かっていると確信するまでは、ゼロ金利政策を維持するとともに米国国債及びMBS(住宅ローン担保証券)の買入れを継続する」姿勢を改めて表明した。
 
政策金利のゼロ据え置きや資産購入によってイールドカーブ全体に金利低下圧力をかけることはいずれも適切な判断である。しかし、今般弱い経済予測を立てておきながら、なぜさらなる政策対応を打たなかったのか?率直に言って理解に苦しむ。仮に高失業率かつ低インフレの状態で2022年末を迎えた場合、FEDはその使命を果たしているとは到底言えないだろう。
 
FEDは経済活性化に向けて他に何かできたのではないか? マイナス金利は検討から除外されているが(以前の記事『The Market and Negative US Rates: Right Idea, Wrong Tool』(英語)ご参照)、FEDは他の政策ツールも有している。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長はFOMC後の記者会見で、そのうちの2つ、フォワード・ガイダンス強化とイールドカーブ・コントロールを挙げた。
 
フォワード・ガイダンス強化とは、ゼロ金利政策及び資産購入の緩和条件を特定の経済指標に結びつけることである。
 
これは世界金融危機の際に実施されており,失業率が特定の水準を下回るまでは利上げを行わないとの表明が当時なされた。最終的に失業率が基準値を下回っても、インフレ率が低位に留まったことからFEDは利上げには踏み切らなかった経緯がある。この経験を踏まえると、今回フォワード・ガイダンスを強化するにあたっては、失業率ではなくインフレ率が指標として採用される可能性が高い。具体的には、「インフレ率が上昇し、持続的に目標を上回る状態が続くことが十分確認された後に利上げを行う」といったガイダンスが想定される。
 
イールドカーブ・コントロールを用いる際には、国債金利に対する上限が設定されるだろう。FOMCが当該政策を実施する場合、2年または3年国債の利回りを政策金利付近に維持するといった枠組みの構築が見込まれる。
 
イールドカーブ・コントロールの概念はフォワード・ガイダンスをより強固にしたものだ。FED が金利の低位安定に必要な国債購入にコミットするのであれば、政策金利の引き上げは事実上できなくなる。このアプローチは金利のボラティリティを低下させ、ターゲットよりも長い年限の債券にも影響を及ぼすだろう。
 

機を逸したFED

パウエルFRB議長は、これらの政策対応がFOMCで議論されており、今後数カ月の間に活用に至る可能性がある点に明確に言及した。FEDは極めて不確実性が高い環境下において、先のFOMCでは「待ち」の姿勢を好んだようだが、これは悪手であり、上述の政策措置を発表すべきであったとABは考えている。
 
しかし、挽回の時間は残されている。
 
ABはより積極的な緩和が必要だったと考えているものの、市場はまだ利上げを織り込んでおらず、様子見によるコストはそこまで大きくはない。仮に今後数週間で経済の長期見通しが改善するならば、今回の待ちは問題にならない。しかし、そうならない場合、次回のFOMCでより力強い政策が発表されることが望まれる。
 

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