トランプ関税はユーロ圏経済にデジャブをもたらし、ユーロ圏経済は低成長と低金利に逆戻りしそうだ。
トランプ政権が発動した世界規模の追加貿易関税について、同大統領が90日間の停止を発表したことを受けて市場は反発したが、この一時停止は次のような注目すべき特例を伴うものだった。
- 報復関税を発動していない貿易相手国に限定された一時停止である。
- 相互関税は撤廃されなかったが、代わりに中国以外の貿易相手国に対しては一律10%に引き下げられた。中国に対する相互関税は今では125%になっている。
- 米国に輸入される鉄鋼、アルミニウム、自動車に対する世界規模の25%関税は引き続き発動されている。
こうした関税政策により、直接の悪影響だけでなく景況感も打撃を受けており、民間調査(「ZEW Indicator of Economic Sentiment」(英語))の結果はすでに経済成長の鈍化を暗示している。米国政権が開始した医薬品と半導体の輸入状況に関する調査などの、関税関連のさらなる取り組みにより、不確実性がなお一層高まり、景況感を一段と損ねる可能性があろう。
欧州の経済成長は関税によってすでにダメージを被っている
欧州連合(EU)には当初発表された20%の相互関税ではなく、現在は10%の一律関税が課せられている。それでも、米国による2025年4月2日の関税発表以前より高い税率である。一方、EUは対抗措置として4月9日、米国製品に対する210億ユーロ相当の関税賦課を票決したが、その発動も延期されている。双方の関税はこのように一時停止されたが、ユーロ圏経済は決して危機を脱却してはおらず、すでにダメージを被っている。
アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の評価をベースにすれば、経済成長は鈍化する見通しであり、さらに成長率が下振れるリスクがある。追加関税が発動されることは一切ないという非現実的なシナリオや、景況感はほんのわずかなダメージしか被らないというシナリオと比べると、実際に経済成長が受ける打撃はおそらく相当なものになるだろう。図表1は、さまざまなシナリオにおける2025年の各種指標のAB予想を示しており、その数値の広範なレンジは、関税がもたらす高水準の不確実性をまさに反映するものと言えるだろう。

ユーロ圏の景気回復はまだ緒に就いたばかりであって弱い。そのため、ユーロ圏は再び、部分的に関税の影響、不確実性、景況感の悪化から生じる低成長リスク、または景気後退リスクに直面する可能性があろう。
インフレ下振れリスクが高まっている
ユーロ圏はすでに2025年のこれまでの過程で、持続可能なベースであるインフレ目標2%に向かって進んでいた。しかし、今では経済成長率の鈍化が見込まれ、景気後退に陥る可能性があるほか、次の3つの追加ファクターにも促され、インフレの下振れ圧力が強まりそうだ。
- エネルギー価格はインフレの主導役だが、米国による4月2日の関税発表を受けて大幅下落し、その後も相対的に見て低水準にとどまっている。
- 米国の金融環境がタイト化していることから、ユーロ圏はこれに連鎖する悪影響を被る可能性がある。同時に、ユーロがドルに対して上昇しており、そのおかげで米国から輸入する製品が安くなっている。ユーロ高が続けばこの効果も持続するだろう。
- 中国は関税障壁のせいで米国に輸出しても稼げなくなるため、自国製品を輸出する市場を探し続けるだろう。そして、EUを中心とした他の地域に自国製品の仕向け先を変える可能性がある。実際に、トランプ関税の第一ラウンド中にはそうした動きを見せ、EUへの輸出が急増した(図表2)。中国の今回のリアクションはそれより大規模なものになりそうである。

そのため、ABの基本予想は、欧州中央銀行(ECB)が2%を下回る水準まで政策金利を引き下げ、同金利が年末までに1.75%に達するというものである。そして、景気後退リスクや下振れリスクが高まれば、それに伴いさらなる利下げが実施される可能性も大きくなる。
財政政策による容易なソリューションは存在しない
ほとんどのEU加盟国は厳しい予算の制約に直面している。財政政策は過去のエネルギー危機の最中ほどには頼りにならないだろう。
スペイン政府が最近発表した140億ユーロのパッケージのように、特定のセクターに対して救済策を準備する国はあるかもしれない。しかし、かなりの規模の財政支援を提供する余地があるのはドイツだけである。ドイツは景気後退の3年目に突入するかもしれないため、財政の制約を棚上げし、自国産業を直ちに支援する可能性があろう。
ドイツがそうしたとしても、EU全体として見れば、厳しい状況に置かれていることには変わりない。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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