政策転換は、分散投資へのインセンティブを生み出す可能性がある

米国が2025年4月に大規模な新たな関税を発表した際、市場の反応は芳しくなかった。米国株、米国債利回り、そして米ドルの為替レートは、いずれも急落した。しかし、株式市場と債券市場はその後、これらの下落を完全に戻すことに成功した。

しかし、米ドルは依然として弱含みで推移している。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、米国の景気後退は予想していないが、今後数四半期で米ドルはさらに下落すると予想している。

その理由は2つある。バリュエーションと、米国の政策が世界に与える影響だ。

どのような尺度から見ても、最近の下落を経てなお米ドルは依然として他の通貨に対して割高だ。パンデミック後の時期には、米国は経済的に例外的な存在だとの考えが市場環境を支配していたため、米ドルは急上昇したことを思い出してほしい。他の通貨バスケットに対する実質実効為替レートベースで見ると、米ドルは2021年から2025年の間に約20%上昇し、2024年には史上最高値近くで終了した(図表1)

トランプ政策が変化の引き金を引く

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一般的に、バリュエーションは為替レートの短期的な方向性を予測するのにはあまり役立たない。結局のところ、米ドルはここ数年間、割高な状態を続けている。通常、トレンドを変化させ、歪みが解消に向かい通貨が正常なバリュエーションに戻るには、何らかのきっかけが必要だ。

現在の米国の政策環境こそがその引き金になっているとABは考えている。長年にわたる米ドルの強さの大部分は、世界の準備通貨としての揺るぎない役割に起因している。外貨準備を保有する国は、様々な理由から、その準備金の過度の割合を米ドル建てで保有してきた。その一部は今日でも当てはまる。

例えば、米国経済は依然として世界最大かつ最も重要な経済圏である。米ドルは貿易決済、債券発行、国際間の資金移動において依然として支配的な通貨だ。そして、米国の金融市場は世界で最も厚みがあり、最も流動性が高い。

しかし、米ドルの優位性を支えるその他の理由は疑問視されている。世界の中央銀行の外貨準備の運用担当者の行動を考えてみよう。彼らは資産を長期保有し、政策の予測可能性、信頼性、そして法律や規制に基づく枠組みの遵守に基づいて配分を行っている。

しかし、4月の関税発表で明らかになったように、米国の政策枠組みはもはやそれほど予測可能でも信頼できるものでもない。米国の意思決定プロセスはもはや国際社会が受け入れている既存のルールや規範を遵守していないと判断する向きも増えている。一般に準備預金の運用は、変化をゆっくりと進める傾向がある。しかし、米国の政策環境の変化はこうして準備預金運用にとっても対応が難しく、変化を起こすインセンティブを高めていることは明らかだとABでは考えている。

関税と貿易を超えて

米国の政策変更の可能性は、関税と貿易だけにとどまらない。

議会が7月に可決した財政法案は(以前の記事『House Budget Bill Signals Higher US Deficit Trajectory』(英語)ご参照)、財政赤字と債務負担が拡大し続ける可能性を示唆している(以前の動画『The End of US Exceptionalism?』(英語)ご参照)。

FRB(連邦準備預金理事会)の独立性が低下する可能性は、インフレ率の上昇や市場・経済のボラティリティの増大に対する懸念を高めている。

また、政策変更のスピードが速く、事前にこれらの変更について議論・分析するための透明性のあるプロセスが欠如していることを考えると、国際社会は今後さらに大きな変化を想定していく可能性がある。

米ドル安は、より競争力のある価格での輸出につながる可能性があり、これは米国の多国籍企業にとって追い風となるはずだ。また、米国以外の株式に投資している米国拠点の投資家にとっても追い風となる可能性がある。しかし、米ドル安が長期化すれば、輸入が生産活動の大きな要素となっている企業の利益率が低下する可能性がある。

債券市場では、米ドル安は米国からグローバル分散投資へシフトする動きを促す可能性がある。

米ドルは依然として優位性を維持

ABでは米ドルからの急速な資本逃避を予想しているわけではない。米ドルは依然として他通貨に対して大きな優位性を維持している。しかし、外貨準備預金におけるわずかな変更でさえも米ドルの重しとなる可能性があり、こうした不確実性から、世界各国の外貨準備金の運用者は外貨保有の分散化を図ることになると考えている(以前の動画『What’s the US Dollar’s Decline Telling Us?』(英語)ご参照)(図表2)

外貨準備金の運用担当者は、ここ数カ月の変化以前から既に分散投資を始めており、国際投資家が米国の政策枠組みへの信頼を失うにつれて、この傾向は加速する可能性が高いとABでは考えている。

もちろん、外貨準備金の運用担当者は世界の為替市場における唯一のプレーヤーではないが、彼らの資産配分は大きく、持続的である傾向があるため、他の投資家にとっても米ドル削減の動きを予測して行動するインセンティブとなる。

この組み合わせは、今後数四半期にわたって米ドルの重しとなる可能性が高く、米ドル暴落は予想していないが、割高であった米ドルの長期的なバリュエーションがより正常な水準に戻る可能性が高いと考えている。

このような様々な要因が、米ドル安を後押しすると考えられよう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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