年の初めは、大局的な見地から今後の見通しについて考えようとするさまざまな顧客と議論するいい機会になる。顧客は年金基金、保険会社、コンサルティング会社、政府系ファンドなどで、所在地もオーストラリア、アジア、欧州、北米などさまざまな地域にまたがっている。本稿では、2023年初めに顧客が議論したいと考えていた主な問題について取り上げたい。これらのトピックをまとめてみれば、投資家が考えていることを把握することができる。

私がセルサイドからバイサイドに移ったとはいえ、150ページのプレゼンテーション資料をミーティングに持ち込む習慣を改めるのは簡単ではない。理論的には、どこにいても議論はできるが、インフレはほとんどのミーティングで最大のテーマとなる。議論の焦点となるのは、目先の循環的なインフレ見通しや(ありがたいことに)フェデラル・ファンド(FF)金利がどこでピークに達するかといった問題ではなく、資産配分の担当者は5年後や10年後の戦略的なインフレ見通しを検証したいと考えている。

新たな投資環境が到来したとの見解で一致

脱グローバル化、人口動態の変化、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮という3つの要因がインフレ率を押し上げている中、投資家が高インフレという新たな環境に直面しているというアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見解に異を唱える声は驚くほど少なかった。むしろ、少数の顧客からは、10年後の米国のインフレ率を3%と予測するのは甘すぎるのではないかといった見方が寄せられた。最近のブレークイーブン・インフレ率の低下によってインフレ問題が過ぎ去ったと資産配分担当者が安心しているようには見えず、インフレに関する顧客のコンセンサスは、市場に織り込まれた「コンセンサス」よりも高いと結論づけることができそうだ。しかし、だからといって、このインフレ見通しを反映させるよう彼らが戦略的な資産配分に関する見解を修正しているわけではない。なぜなら、それを実行するのは難しいからだ。

インフレ率の上昇、名目リターンの低下、分散投資の後退はいずれも、今後10年間は過去40年間に比べ、実質シャープ・レシオが低下しそうなことを示唆している。こうした状況を考えれば、多くの顧客との電話やミーティングにおいて、それが実物資産の必要性にどのような影響を与えるか、さまざまなインフレ・シナリオの下でどの資産がインフレに対する抵抗力があるか、インフレ率が上昇する見通しを踏まえて資産配分のダイナミクスをどう変えるべきか、といった問題が議論の的となったのは当然だ。

プライベート資産へのエクスポージャー拡大と
非流動性プレミアムを巡る問題

この議論の重要な要素で、2023年の年初時点で多くの資産配分担当者にとって対処すべき課題リストの上位に入っているのは、プライベート資産へのエクスポージャーをどの程度にすべきかという問題だ。それは地域によって異なる。米国の顧客の間では、2022年の上場株式や債券価格の下落を受け、多くの年金基金が2023年にプライベート資産(特に株式)をオーバーウェイトとしていることが議論の中心となっている。オーストラリアの投資家にとっては、プライベート・エクイティへの関心はあまり高くない。彼らは、インフレから資産を守る上でインフラや不動産が果たす役割に大きな関心を抱いており、それらがどの程度インフレに対する抵抗力があるか、インフラの持つ特性がどの程度変化し、その変化がどれだけ長期化するのかといった問題に焦点を当てている。そして、共通の話題は「非流動性プレミアムはまだあるのか?」という問題だ。

それに関するABの見解は、非流動性プレミアムの問題は、アセット・オーナーにとって中心的な関心事だということだ。彼らにとって、実質シャープ・レシオが過去40年間よりも低くなるという問題に直面することは、ほとんど避けられない。この見通しを改善するには、非流動性リスク、ファクター・リスク、アクティブ運用リスク、レバレッジを組み合わせることが必要で、それらはいずれも高いリスクを伴う。しかし、それ以上に重要なのは、時間軸、流動性、購買力を維持する必要性など、投資家それぞれが持つ要件を踏まえた上で、どうすればこれらのリスクを最も効率的に組み合わせることができるかという問題だ。

ABは、投資家が最終的に負債や目標を実質ベースで設定することを前提に、プライベート資産へのエクスポージャーは今後も拡大していくべきだと考えている。これらの資産は、投資家が求めるリスク・リターンと目標のギャップを埋める上で重要な役割を果たしているが、特に上場株式や伝統的なクレジットの供給は減少している今、なおさらだ。流動性をめぐる懸念は今後も高まっていくだろうが、プライベート資産への投資からくるメリットはそれを相殺する効果がありそうだ。

主に資産残高の減少に伴う分母効果により、米国の年金プランはプライベート資産をオーバーウェイトとしている。それは短期的な課題として注視しなくてはならない。しかし、年金プランがそうした問題を見過ごすとは思えず、今後1年間にわたり、上場資産からプライベート資産へのローテーションはペースが鈍化すると思われる。プライベート・エクイティへの期待は過大になっているきらいがあるため、ABは資産を若干ながらプライベート・クレジット、インフラ、不動産、農地にシフトするよう提案してきた。顧客はとりわけプライベート・クレジットに前向きな姿勢を見せている。

株式と債券の相反するシグナル

最近のミーティングや電話の多くから判断すれば、顧客は否応なく、戦略的な考え方から戦術的な考え方にシフトしたいと考えているようだ。彼らが持つ疑問の多くは、株式市場と債券市場が全く異なるシグナルを発しているように見えることに集中している。逆イールドは、成長が減速し、期間の短い債券の魅力が高まっていることを示唆している。それは、リスク資産が売られる様子も、業績予想を大幅に引き下げる動きも見られないこととは相容れない。顧客の多くはこうした状況に戸惑っており、結果的に、株式に対して慎重に戦術的なポジションを取るようになっている。

「キャッシュを選ぶか、それともS&P500指数1四半期フォワードを選ぶか」と尋ねられれば、筆者は「キャッシュ。特に期間の短い債券」と答えてきた。

しかし、長期的に見れば、株式の見通しを後押しする重要な要因がある。それは、投資家が海外株式を買いたがらないことや、株式が実物資産に準じる役割を担っていることだ。ソブリン債よりも株式を支えているもう1つの要因としては、需要と供給の見通しが大きく異なっていることが挙げられる。つまり、中国以外の上場株式の発行残高が減少している一方で、需要は長期的に高水準で推移するとみられる。株式を取り巻く環境については、「2023年の戦略的投資見通し:アセット・オーナーの戦略的資産配分に関する4つの問題」をご覧いただきたい。それに対し、ソブリン債の供給は増加するとみられる一方で、量的引き締め、米ドル離れ、インフレから資産を守る必要性は、ソブリン債への需要が減少に向かうことを示唆している。

ファクターが復活:恒常的な議論のテーマに

ABは、顧客がファクター配分について積極的に議論したいと考えていることに驚いた。それは、ファクターが間違いなく復活していることを物語っている。ここ18カ月にわたり、特にバリューをはじめとするファクターが、とりわけ伝統的な資産クラスと比べ好調に推移してきたことを考えれば、ファクターに対する関心が再び高まっていることは意外ではないかもしれない。しかし、顧客からは、戦術的な見解、バリュー対グロースに関する長期的な議論、戦略的資産配分におけるロング・ショート・ファクターの広範な役割など、ファクターのさまざまな異なる側面について質問が寄せられた。

高インフレの環境では、バリューに新たな役割が加わるとABでは考える。ただし、技術的な混乱を考えれば、平均回帰のプロセスはバリュエーションとの明確な関連性が見られないことに留意する必要がある。また、企業の投資がほとんど無形資産に振り向けられる中で、バリューをどう測定すべきかという問題もある。それでも、インフレとバリューの関係は1世紀近く続いており、バリュー・ファクターがインフレ・ヘッジの一部となり得ることを示唆している。

ABはまた、投資家が成長に対する期待を捨てるべきだとは考えていない。バリューとグロースは定義上、正反対だというインデックス・プロバイダーの見解にはこれまでも同意してこなかった。高成長企業は、より持続的な成長を実現する能力を示しており、またABは実質金利がここから上昇することはないとみている。総合的に考えると、これらの議論は成長企業の現在のバリュエーションを正当化できることを示唆している。それよりも大きな問題は、具体的にどの企業が持続的な成長を実現できるか見極めることで、グロース企業ユニバースにおける発行体の選択が重要な意味を持つ。

しばしば提起されるもう1つの疑問は、資産の方向性に関する見解ではなく、投資手法の問題である。つまり、タイミングはどんな役割を果たすのか、それをどのように測定すべきか、といった問題だ。この疑問は、パッシブな資産クラスのベータがもたらす期待リターンが低下し、タイミングの決定とアクティブ運用がもたらす付加価値のハードルが低くなっている状況において(以前の記事『The (Renewed) Case for Active Investing』(英語)ご参照)、一段と重要性を増している。タイミングの本質を考えれば、このアプローチにおけるスキルを実証するには、銘柄選択よりも常に時間がかかる。しかし、ABはタイミングのスキルを評価し、それをマネジャー選択や戦略的配分の一部として活用する方法を提示した1

本稿で取り上げたトピックについては、『コロナ禍の教訓を活かす』と題するブラック・ブックでさらに詳しく検証したい。このリサーチでは、マクロ環境、資本市場の見通し、戦略的資産配分、投資業界の将来など、アセット・オーナーが直面している主な問題に関するABの見解を提示している。

1. リサーチペーパー「アルファ、ベータ、そしてインフレ」をご参照ください。


当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら
 

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