人材採用はビジネスを成功させる上で基本的な要素である。インクルージョンの高い採用活動を行う企業は、より優れた人材を見つけ出すことが可能で、競争上の優位性を高め、投資家により良い結果をもたらすことができる。

ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公正さ)、インクルージョン(包摂性)(以下、3つ合わせて「DEI」)を推進する方針が有益であるとの認識が企業間で広がっている(以前の記事『ダイバーシティは企業のみならず、投資家にも恩恵をもたらす』ご参照)。人種、文化、性別に関する多様性を示す指標で高いスコアを得ている企業が、スコアの低い同業他社に比べ収益性が高いことを示す証拠が増えている。

では、多様性のある労働力を生み出す最善の方法とは何だろうか?多くの企業は、ダイバーシティに関する一定の基準を達成することに重点を置いている。しかし、それは最善の方法ではないかもしれない。女性やマイノリティの従業員を増やすことを競っても、人事部門が適切な人材を採用できるとは限らない。

むしろ重要なのは、多様な人材の採用を妨げる可能性のあるバイアスを是正し、最も優秀な人材を見極めるため、より創造的な手法を編み出すことだとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では考える。HRリサーチ・インスティチュートの調査によると、多くの雇用主が採用プロセスをより公正なものにしようと努めていると答えているにもかかわらず、それを体系的に実践している雇用主はほとんどいない(図表)

投資家は、将来を見据えた採用とダイバーシティを重視する考え方を戦略的に融合させた、3タイプのインクルーシブな採用戦術に注目すべきである。

適性を再定義する:学歴や職歴よりも言動

採用担当者は見栄えのよい履歴書に引き付けられがちだ。一流大学卒の学歴や有名企業での職務経験は、採用候補者を良く見せることができる。だが、履歴書には表れない多くのスキルが採用の成否を分ける可能性がある。

採用候補者は職務に必要な創造性を持っているだろうか?既成概念に疑問を持つことに抵抗は感じないだろうか?問題解決能力や知的好奇心はどうだろうか?こうした適性を企業がテストすることができれば、職務の標準的なテンプレートに当てはまらない適格な人材を見つけ出すことができるかもしれない。

インドのITサービス企業であるインフォシスは、まさしくそれを実践した。同社は、米国を拠点とする顧客対応スタッフの拡充を図りたいと考えていた。そして、初級レベルのポジションに就くには、工学の学位よりも、クリティカル・シンキング(批判的思考)が成功につながる重要な要因になると認識した。そのため、同社は米国のコミュニティ・カレッジやリベラル・アーツ・カレッジと提携し、クリティカル・シンキングのスキルを持つ学生を探し出し、その学生にコーディングの方法を教えた。これらのカレッジの学生は、女性やマイノリティの比率が高い。このような学生を採用することで、インフォシスは、米国における従業員基盤の拡大やダイバーシティの推進を実現し、多様な顧客にうまく対応できる体制を整えることができた。

配送トラック運転手の世界では、ダイバーシティはあまり見られない。それは男性の仕事だと考えられているからだ。しかし、日本のトラック運送・物流会社であるSGホールディングスは、その常識を打ち破った。高齢化が進む日本で十分な男性ドライバーを確保するのに苦しむ中、同社はテクノロジーに投資し、身体的負担の大きい伝統的な仕事に必要とされる能力について見直しを行った。例えば、交換可能なコンテナを備えたスワップボディ・トラックに投資することで、トラックへの積み込み作業と運転を分離することができた。その結果、同社は現在、多くの女性や高齢者、さらには身体障害者をドライバーとして雇用している。

非伝統的な人材に目を向ける

人事部門は慣れ親しんだ採用パターンから抜け出せないことが多い。候補者は同じようなタイプの大学や企業から選ばれるため、多様性が乏しくなる。創造的な採用プロセスは、いつもと違う場所で適切な人材を探し出そうとするオープンなものでなくてはならない。

安全や手順の遵守が最優先される軍隊を考えてみよう。それらは、建設用重機のレンタルを手掛けるハーク・ホールディングスのような企業が求める完璧な特性である。同社は採用候補者として米軍の退役軍人、予備役、州兵に目を向け、訓練を積んだ多くの兵士の中から求めていた人材を探し出した。

欧州では、従業員として雇うのにウクライナをはじめとする紛争地域からの難民は、ふさわしい人材に見えないかもしれない。しかし、故郷を逃れてきた難民は生活を立て直そうとする意欲の高い人々である。フランスに拠点を置くIT企業のキャップジェミニは、難民を訓練してデジタル関連の仕事に就かせるプログラムを英国で立ち上げ、この分野における人材不足の問題を解消しようとしている。フランスの化粧品グループであるロレアルも、2022年から難民を労働力に取り込み始めた。同社は当時、「目標は、移民に対する考え方を変え、難民や故郷を逃れてきた人々を統合するという課題を、企業や経済にとってチャンスに変えることだ」と述べた。

採用プロセスからバイアスを減らす

バイアスはおそらく、多様な労働力を取り入れる上で最大の障害の1つとなる。この問題に対する意識の高まりを受け、バイアスを減らし、インクルージョンを推進するのに役立つさまざまなツールが開発されている。

米国の科学機器サプライヤーであるサーモ・フィッシャー・サイエンティフィックは、すべての求人広告について、言葉のバイアス(意図しないまま潜在的に候補者の応募を阻止する可能性のある言葉)を減らすのに役立つツールを用いてスコアをつけている。英国では、製造業企業のIMIが無意識のバイアスに関するトレーニングを実施し、ヘッドハンティング会社には男女比のバランスの取れた候補者リストを作成するよう求めている。IMIが採用した工学系大学卒の学生は、3年連続で半数が女性だった。

適切な人材を採用することは、事業の健全性を構成する要素の中でおそらく最も過小評価されているもののひとつだろう。ダイバーシティを重視する投資家は、企業がどのような方法で適切な人材を見つけているのかについて、もっと注意を払うべきであるとABでは考える。定型的な採用方法を打ち破った企業は、おのずとその職務に適した多様な人材で従業員基盤を構成することになり、将来の収益性を一段と高めることができる。

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