米国の住宅市場：金利上昇でも、価格は下がらず

米国では住宅需要が鈍化しているにもかかわらず、価格は高止まりしている。その原因は、高金利、供給の制約、そして住宅保有者が新たなローン借り入れを渋っていることだ。

米国の住宅市場における価格の高止まりについては最近色々な説が出ているが、どれも理解しがたい。米国経済の成長を支える柱と言われる住宅市場の特異な値動きを解明するには、金利が住宅の需給にどんな影響を与えるかに関する従来の見解を改めて考えてみる必要がある。

住宅の販売件数は大きく落ち込んでいる。不動産仲介会社レッドフィンのグレン・ケルマン最高経営責任者（CEO）は「どん底だ」と語り（外部リンク）、自宅を引っ越すのはそうせざるを得ない人々だけだと指摘する。その一方で、価格は高止まりしている。特に、供給が制限されている地域では買い手同士で値をつり上げる動きが続いており、好条件の物件を手に入れるのは難しい。

では、住宅市場は弱いのだろうか、それとも強いだろうか？

需給の法則に逆らう

もし1年前に、米連邦準備制度理事会（FRB）がフェデラルファンド（FF）金利を5％以上引き上げるが、住宅価格はほとんど下落しないと予想したら、誰も相手にしなかったであろう。

だが、まさにそのとおりのことが起きた。

全米不動産協会によれば、米国の中古住宅販売件数は2022年7月以来17％近く減少している。その一方で、S&Pコアロジック・ケース・シラー指数に基づく住宅価格は、同年5月以来わずか1.7％しか下落していない（図表） 。

通常であれば、金利負担が増えれば住宅購入の妨げになると考えられる。しかし、需要は驚くほど旺盛で、米国経済を予想以上に押し上げている。

FRBがインフレの高進を抑えるために金利を急速に引き上げた結果、金融引き締めが需要を減退させる以上に中古住宅の供給を制限し、現在のような価格の高止まりを招いたとアライアンス・バーンスタイン（以下、「AB」）は考えている。

動かないことが最善の戦略

なぜこうした現象が起きたのだろうか？30年物固定金利住宅ローンの平均金利が、2022年初めの3.1％から、今日では7.6％前後まで上昇していることを考えてみよう。2022年初めの平均住宅価格と現在の価格を比較し、頭金を20％支払うと仮定すると、金利負担の差は毎月約1,200米ドルに達する。今住んでいる家を出て低金利の住宅ローンを手放し、高いローン金利を支払って高額の物件を買いたいと思う人はほとんどいない。

一方、住宅建設は慢性的に不足しており、在庫は依然として新型コロナウイルスのパンデミック前の水準を大幅に下回っている。その結果、供給カーブは下方にシフトしており、中古住宅の販売を圧迫している。

住宅は広範な供給トレンドを反映

ある意味で、米国の住宅市場は、サプライチェーンの混乱に苦しむ他の業界と同じ視点から見ることができる。米国の自動車市場は、新型コロナウイルスのパンデミックに見舞われた期間にサプライチェーン問題で在庫がひっ迫し、新車・中古車ともに価格が高騰した。マンハイム中古車価格指数は、パンデミック前の水準から2021年までに実に65％も急上昇した。その後は17％下落し、さらに下げが続いている。

転換点が訪れたのは、自動車業界が生産を拡大し、底をついていた在庫が補充され始めた時だった。米国の住宅価格が大幅に下落するためには、それと同じ動きが起こる必要があるとABは考えている。

混乱を断ち切る： 米住宅市場の見通し

さまざまなシグナルが交錯する中、米国の住宅市場は今後数年間にどのような動きを示すのだろうか？

その多くは金融政策にかかっている。ABは、米国の金利とその影響を受ける住宅ローン金利はピークに近づいており、最終的には現在の水準付近で安定すると予想している。金利が依然として高止まりしていることを踏まえれば、住宅購入意欲が劇的に増加するとは考えにくいものの、需要が大幅に鈍化するとも思えない。

過去数年間と同じように、カギを握るのは供給の動向だ。在庫が長期的に制約されそうなことを踏まえれば、住宅建設が回復するには金利の安定が必要になる。住宅供給の増加は経済成長を押し上げ、住宅価格の上昇は幅広いディスインフレ・プロセスを混乱させるのを予防することができる。金利がこれ以上大幅に上昇したり、劇的に低下したりしなければ、住宅市場はABが現在予想している米国経済の相対的なソフトランディングに寄与する可能性がある（以前の記事『2つのスピードで走る米国経済』ご参照）。

当面は、住宅市場はこれまでとは異なる動きを示すことが予想される。インフレが落ち着き、都市の景気が回復すれば（以前の記事『Office Exodus: Can US Cities Survive?』（英語）ご参照）、住宅販売が伸び悩んだとしても、住宅価格は高値で推移するとABではみている。最終的には、FRBと住宅建設業者がアメリカン・ドリームのカギを握ることになろう。