中国の成長は減速しているが、それには重要な意味がある。それは、投資や輸出への依存度を引き下げ、よりバランスの取れた経済に移行しようとする意図的な動きであることだ。

景気減速が投資家の懸念をかき立てるのは理解できる。たしかに中国の成長鈍化は世界経済や金融市場に影響を与えるだろうが、それでも、将来のもっと大きな問題を避けるには、中国経済には短期的な景気鈍化による調整が必要だとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。中国経済は、輸出や投資主導の成長モデルから、国内消費の拡大を通じたよりバランスの取れたモデルに移行する長期的なプロセスの初期段階にある。

こうした大きな転換期においては、成長の鈍化はほとんど避けられず、長期的な観点から見ればむしろ望ましいことと言える。

経済規模が著しく拡大、そして移行局面に

成長鈍化の一部は簡単に計算できる。中国の経済規模は世界金融危機以降におよそ3倍に拡大し(図表1)、高い成長ペースを維持することは困難になっている。実際、成長を押し上げようとすれば、レバレッジが過剰な水準に達し、中国の場合は住宅など経済乗数の高いセクターに過度に依存することになりかねない。その結果、以前から存在する不均衡がさらに拡大することになる。そのため、以前よりは鈍化していても持続可能なペースでの成長を実現することが、中期的に健全な道筋であるとABは考えている。

成長鈍化を招いたもう1つの主な要因は、実物投資や輸出に大きく依存した成長(図表2)から、よりバランスの取れた経済フレームワークに移行しつつあることだ。旧来型の産業には多くの資源が投入されてきたため、過剰な生産能力を抱えている。余剰生産能力が解消されるにつれて、貯め込まれていた資本が価格を押し下げるほか、無駄な資源が償却されるか他の産業に転用されるのに伴い、成長率が鈍化することになる。

一方、中期的な見通しが明るいセクターは引き続き好調で、それには旅行やレストランといった消費者に欠かせないサービスを提供する業種が含まれる。太陽光や風力発電プロジェクトも活況を呈しており、電気自動車の生産や他のハイテク製品、環境関連製品も好調に推移している。だが、不動産や大型投資で失われた活動をそれらの産業に置き換えるには時間がかかる見通しで、全体的な成長が鈍化しているのはそれが理由である。

世界的な成長ダイナミクスの変化

では、市場や世界は中国の成長見通しにどう対処すべきなのだろうか?

ABは、中国政府が掲げた成長目標(2023年はおよそ5%)を重視しすぎないことが重要だと考えている。たとえ経済がそのペースで成長しても、国外の人々にとっては「良い」成長だとは感じられないだろう。中国で最も好調な産業が、以前のように海外の成長を押し上げるとは考えにくい。道路や橋の建設には大量の資源を輸入する必要があるが、映画チケットの販売やレストランの食事はそうではない。

これらはすべて、中国経済がこれまでのように世界の成長エンジンとはなりそうにないことを意味している。市場にとって、この変化は混乱を招くように見えるかもしれず、多くの投資家の不安を誘うのは理解できる。世界第2位の経済規模を持つ中国の成長鈍化が世界全体の成長を押し下げるのみならず、中国の成長が国内主導の傾向が強まっていることも、なおのこと世界経済のマイナス要因となる可能性が高い。

的を絞った緩やかな刺激策が講じられる見通し

不安の多くは、移行に伴うリスクに集中している。特に不動産セクターなど、高水準の負債を抱えた中国企業はストレスにさらされがちだ。一方、政策立案者は大規模な支援策を講じることには消極的だとみられる。なぜなら、それは不均衡を悪化させ、移行を遅らせることになるからだ。不動産開発会社がデフォルトに陥れば、銀行セクターや地方政府の財政を脅かすほど深刻な影響をもたらしかねないが、それは我々の想定する基本シナリオではない。中国の金融システムが世界に直接波及するメカニズムは限定的だが、中国の混乱が他の国々のセンチメントを揺るがす可能性はある。

中国経済は減速しており、経済の移行が進むにつれてこの成長の鈍化は更に長引くとの見方が妥当とABでは考えている。成長鈍化が金融市場に影響を与えるリスクもある。だが、経済や不動産セクターが抱える負債やレバレッジをさらに拡大するという「治療法」は、病気そのものよりもたちが悪いとABは考えている。

中国の政策立案者も同じように感じているようだ。そのため、成長鈍化を管理するため、成長ペースを押し上げるための「ビッグバン」のような刺激策ではなく、的を絞った緩やかな刺激策が講じられるとABでは予想している。

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