市場は、2031年までユーロ金利が高止まりすることを織り込んでいる。しかし、このシナリオがユーロ圏経済の実態と釣り合っているかは冷静に判断する必要がある。

予想通り、欧州中央銀行(ECB)は6月11日、イラン戦争に端を発したエネルギー・ショックを受けて3つの主要政策金利を25ベーシス・ポイント(bps)引き上げた。2026年と2027年のインフレ見通しは上方修正され、目標水準に戻るのは2028年になると見られている。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は年内さらに1回の利上げを予想しているが、ECBは将来の政策金利について柔軟な態度を崩しておらず、追加利上げがあるとしても時期は不透明であり、利上げそのものが見送りとなる可能性もある。

仮にECBが7月に利上げを見送り、その後に中東地域の紛争が解決に至った場合、追加利上げを正当化することは難しくなるだろう。いずれにせよ、合計2回の利上げはECBの物価安定目標と整合的であり、インフレが正常化した後に速やかに利下げを行うことも容易と考えられる。

ユーロ圏経済の成長は鈍化

ABの予想に反して複数回の追加利上げが行われる可能性はあるものの、現在のマクロ環境を踏まえれば、一段の金融引き締めにはリスクが伴うと言える。足元のユーロ圏経済は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に前回エネルギー・ショックが発生した2022年2月時点と比べると成長が鈍化しており、賃金の伸びと求人件数は低下傾向にある(図表1)。また、ウクライナ侵攻前のユーロ圏のインフレ率は5.6%程度だったが、イラン戦争が始まる前のインフレ率は目標水準を下回っていた。

欧州の天然ガス価格は上昇したものの、ウクライナ危機時と比べれば依然としてかなり低い水準にある(図表2)。また、中期的なインフレ期待もこれまでのところ安定的に推移している。これは、ECBへの信認が今も保たれていることと、現段階で深刻な二次的インフレ波及が起きていないことを示す重要な手掛かりである。

加えて、ユーロ圏各国政府の財政がひっ迫していることを踏まえると、財政支援は規模、期間の両面で限定的なものとなる可能性が高く、インフレ圧力が高まる公算は小さい。以上の要因を総合すれば、現在のインフレ環境はウクライナ危機時と比べて相対的に落ち着いており、今回の利上げサイクルはより小規模なものになると考えられる(図表3)。

こうした分析を踏まえると、ABは、ユーロ圏の政策金利は2027年に中立金利まで引き下げられる必要があると見ている。また、インフレが正常化する中でユーロ圏経済の低迷が続いた場合には、中立金利を下回る水準への引き下げも必要となるだろう。

これに対し、市場は金利が今後上昇する展開を織り込んでおり、5年後のユーロ金利は現在より60bps高い水準になると見込まれている(図表4)。しかしABは、ユーロ圏経済には緩やかに景気抑制的な(中立金利を小幅に上回る程度の)金利水準であっても長期間耐えられるほどの強さはないと考えており、現在のインフレ・ショックに対して高すぎる金利水準が必要だとも考えていない。

ユーロ圏の経済がぜい弱であることと、エネルギー価格上昇のインフレへの波及が限定的と予想されることから、今般のECBの利上げは逆効果となる可能性がある。イラン戦争が一段と深刻化しない限り、市場が織り込むような過度な利上げが実際に行われれば、その弊害は一層大きくなりかねない。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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