カーボンニュートラル経済*への移行は極めて重要であり、サステナブル投資を掲げる投資家はその道のりを支えるため、ポートフォリオに組み入れている社債が炭素排出にもたらす影響を注視する必要がある。しかし、債券ポートフォリオのカーボンフットプリントを把握するには、従来の指標から得られる情報よりも、理解しておくべきことが多くある。

気候変動は、投資家にとって非常に大きな関心分野となっている。そして、カーボンニュートラル経済に向かう道のりにおいて、社債は重要な役割を果たすことになる。

単純な指標から始める

まず、投資家は自分のポートフォリオが気候にどんな影響を与えているかを把握するため、簡潔で分かりやすい情報を必要としている。それを受け、MSCI(同社レポート「CARBON FOOTPRINTING 101」ご参照)をはじめとする多くのプロバイダーは、ポートフォリオの炭素排出状況をベンチマークと比較するさまざまなカーボンフットプリント指標を作り出した。

債券投資家にとって最も重要な指標は、ポートフォリオの加重平均炭素強度である。これはポートフォリオのカーボンフットプリントを、単位売上高当たりの二酸化炭素排出量(CO2eトン/100万米ドル)で測定している。

この指標にはいくつかの利点がある。幅広い資産クラスに適用できること、計算が簡単であること、他の(株式保有に関する)指標が必要とする時価総額や売上高のデータが不要であること、2つの数値(ポートフォリオのスコアとベンチマークのスコア)で表現できること、などである。

限界を理解する

しかし、このように単純で簡潔な指標には、いくつかの制約が伴う。まず、この指標はある時点における数値にすぎない。つまり、企業の炭素削減計画を考慮して将来を予測することはできない。例えば、電力会社のように化石燃料を大量に使用している企業は、たとえ再生可能エネルギー源への移行に向けた綿密な戦略を構築していたとしても、厳しい評価を受けることになる。

第二に、この指標では炭素使用に関する微妙な違いを把握することができない。GHGプロトコル(GHGプロトコルのページ(英語)ご参照)では、直接的な炭素排出源(スコープ1)と間接的な排出源(スコープ2及び3)を区別している。この区別は、企業が事業の本質的な部分として自ら炭素を排出しているのか(製造業など)、エネルギーのユーザーとして排出しているのか(暖房や冷房など)、チェーンのさらに上流または下流部門で排出しているのか(出張、サプライチェーン、流通など)によって異なる。従来の気候データや測定基準のプロバイダーは、スコープ1と2の排出量は確実に測定できるが、スコープ3を取り入れた複雑な作業については取り掛かり始めたばかりである。

最後に、既存の炭素強度報告ツールは、従来型の債券のカーボンフットプリントと、グリーン・ボンドや他のESG債券(以前の記事『進化するESG債市場』ご参照)のカーボンフットプリントを区別していない。これらの債券では、グリーン・ボンド発行を通じて特定のグリーン・プロジェクトを推進したり、重要業績評価指標(KPI)連動債を通じて全社的な炭素使用量の削減を支援したりするために資金を調達している。

結局のところ、加重平均炭素強度指標は基本的な事実を把握することはできても、ポートフォリオに組み入れている企業の意図や責任に関する分析を提供することはできない。特に、企業が事業戦略の一環として気候変動対策の具体的な目標にコミットしているかどうかは考慮されていない(以前の記事『手遅れになる前にネットゼロの実現を』ご参照) 。

カーボンニュートラルへの移行にはコミットメントが必要

カーボンニュートラル経済への移行を支援しようとする債券投資家は、ポートフォリオの排出量に関する将来的な方向性や発行体の意図について、深く理解する必要がある。結局のところ、移行を成功させるには、企業が事業の脱炭素化を約束し、かなり先まで見越した計画を立てることが必要となる。

持続可能な債券ポートフォリオは、将来の炭素削減に向けた明確なコミットメントと、目標を達成するため十分に検討された戦略を持つ企業への投資に焦点を当てるべきだとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。

この目的をサポートするため、ABはより優れた洞察を通じて将来を見据えた情報を提供できる分析アプローチを開発した。

サステナビリティに関する主な問題を把握する

まずMSCI のデータを使ってポートフォリオの加重平均炭素強度スコアを分解し、発行体レベルの動きが見えるようにする。次に、発行体ごとにそれぞれの証券を分析し、2つの重要な問題について点検する。

まず、発行体企業の戦略は、認識されている炭素削減目標と合致しているだろうか?この問いに答えるため、ABは外部プロバイダーによる独立したリサーチを利用して、それぞれの企業の将来的な炭素削減計画を検証・評価している。外部プロバイダーの調査手法には違いがあるかもしれないが、これにより、企業がどの程度パリ協定に沿った行動をとっているか、つまり、2050年までに気温上昇を摂氏2度未満に抑えられる水準に炭素排出量を削減する計画や、それを裏付ける証拠を見出すことができる(国際連合によるパリ協定の文書(英語)ご参考)。また、どの企業の炭素削減戦略が気温上昇を2度に抑えるパリ行動誓約に沿ったものであるか、または沿っていないか、適切な情報開示がなされていないかどうかについても判断することができる(パリ行動誓約のページ(英語)ご参照)。

次に、企業はどのようにしてカーボンニュートラルへの移行に要する資金を調達しているのだろうか。企業が移行計画を実行するには、グリーン・ボンドや、特定の目標に基づく他のESG債を発行することが魅力的な手法になり得ると考えられる。また、脱炭素化プロセスの初期段階にある業界にとっては、サステナビリティ・ボンドの発行が適切かもしれない。こうした仕組みは、外部要因に左右されずに企業が脱炭素化に取り組むことを支援し、方針転換を余儀なくされる可能性を引き下げる効果がある。例えば、石油・ガス業界では、石油・ガス価格が上昇すればさらなる探鉱・生産を進める魅力が高まり、炭素削減計画が頓挫するリスクがある。

下の図表は、持続可能な戦略に向けた、はるかに包括的で将来を見据えた分析結果を示している。

ポートフォリオにおけるカーボンフットプリントの内訳.png

この例では、サステナブルなポートフォリオの加重平均炭素強度は、ベンチマークの約3分の2となっている。さらに、このポートフォリオには、ベンチマークに比べはるかに多くのグリーン・ボンドが含まれており、それに比例して、具体的な炭素排出削減目標を掲げている企業へのエクスポージャーもはるかに大きくなっている。

全体像を見つめる

スコープ3の排出は非常に広範囲の排出源をカバーしているため(また、企業が一貫した方法で排出量を計算及び開示していないため)、従来の測定基準では全体像を把握することが難しい。例えば、小売業界では、サプライチェーンの全般的なフットプリントを考慮せず、商品の輸送コストのみをスコープ3に入れている発行体がある。しかし、大半の業界ではスコープ3の排出がカーボンフットプリントの大部分を占めており、ABは顧客向けにサステナブルなポートフォリオを構築する際にはこの点に配慮している。

同様に、環境破壊を行いながら環境保存に取り組むような見せかけの炭素「削減」に注意を払うことも重要である。排気ガスの多いディーゼル車をエタノール車に切り替えようとするブラジルのある自動車メーカーの計画は一見大きな効果があるように見えるが、その生産計画の裏にアマゾン流域の森林伐採による莫大な環境コストが隠されている場合もあった。

そのため、常に全体像を把握し、従来の分析が現実を適切に反映しているかどうかを問い続けることが重要である。

今後の道のりを明確に理解する

投資家は、企業の炭素削減に向けた道のりにおける重要なマイルストーンと最終的な目標を明確に理解する必要がある。我々は、将来の仮定的な技術進歩に依存したり、大量のカーボンオフセットの購入を組み入れたりしている脱炭素戦略に対しては、懐疑的な目を向ける傾向がある(ニュース記事「Carbon offsets might be a dangerous distraction from more effective climate action, experts say」(英語)ご参照)。また、投資家は科学に基づく目標を重視すべきである。国際資本市場協会(ICMA)の「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック2020」(英語)には、役に立つ最低限の基準が記載されているが、これらは今後さらに改訂される可能性がある。

最後に、2050年までにカーボンニュートラル経済を実現するために、投資家は野心的な目標を追求するとともに、持続的な改善を模索していくべきだとABは考える。企業の進捗状況を理解するには、経営陣との対話が重要な意味を持つ。

カーボンニュートラル経済への移行は、巨大かつ発展中のテーマである。排出削減に関するデータ量や詳細さ、そして科学はいずれも進化している。一部の基本的な測定基準は健全なプラットフォームを生み出したが、投資家は債券ポートフォリオのカーボンフットプリントをより正確に理解するため、新たな洞察に注意を払い、それらの分析を取り入れる準備を整えておく必要があるだろう。

* カーボンニュートラル経済とは、パリ協定で示された、2050年までに気温上昇を摂氏1.5℃に抑える経済と定義。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら

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