投資家は自然災害が投資に与える影響を評価する前に、自然災害がもたらす潜在的な物理的被害について理解しなくてはならない。

ハリケーンから地震、干ばつに至るまで、自然災害が起きる頻度が高まっているほか、その威力が増大し、被害額が膨らんでいる。どれほど大きな経済的打撃を被る可能性があるかを評価するためには、投資家は地域レベルの物理的リスクをしっかり理解する必要がある。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)とコロンビア大学クライメート・スクールの共同研究の目標はそこにある。

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自然災害がもたらす物理的リスクを理解する

コロンビア大学クライメート・スクールの全米災害準備センターは2016年に、米国の各州や各郡が自然災害を被る可能性(以前の記事『AB気候変動と投資に関するアカデミー:2023年ハイライト』ご参照)について幅広く評価した「自然災害指数」を作成した。その目的は、米国の家庭、地域社会、公衆衛生や緊急事態対応に携わる関係者が自然災害に備えるのを支援することにある。

その後、ABはコロンビア大学クライメート・スクールと協力して、2023年初めにバージョン2.0にアップグレードした自然災害指数を発表した。この指数に基づいて作成されたインタラクティブマップ(自然災害指数2.0のサイト(外部サイト、英語))は、全米3,143の郡にまたがる7万3,057の国勢調査区が自然災害に見舞われる可能性を詳細に示している(図表1)。

自然災害指数は、沿岸地域の洪水、暴風、干ばつ、地震、猛暑、洪水、ひょう、ハリケーン、地滑り、竜巻、津波、火山、山火事、冬の嵐という14種類の自然災害の頻度及び規模について評価している(コロンビア大学クライメート・スクールのサイト(外部サイト、英語))。

当指数は、4つの異なるカテゴリーにまたがる膨大なデータ(過去の被害に基づくヒストリカルデータ、起きる確率が何パーセントあるかを示す確率的または予測的なデータ、一定の条件の下で何が起こりうるかを示す決定論的なデータ、大まかなシナリオを導き出すためにさまざまな説明変数を利用するモデルデータセット)に基づいており、これらのデータは継続的に更新される。

その結果、それぞれのハザードスコアが1(非常に低い)から5(非常に高い)にわたる、ランク付けされていない総括的な指数が算出される。複数の災害可能性が存在する場合には総括的なハザードスコアが算出され、その最高は42である。この指数は、人間やモノに対する物理的リスクの変化を理解する上で非常に役立っており、ファースト・リスポンダーの仕事を大いに助けている。

しかし、自然災害指数はリスク指数ではなく、被害や損失の予測、潜在的な人口への影響などを直接的に測るものではない。それでも、この指数は次のステップを支える強力な基盤となる。

災害を大災害に変えうる3つの要因

それぞれの災害について、投資家は被害を軽減したり、逆に被害を拡大させてそれを大災害に変えたりする可能性のある、3つの重要な要因を考慮しなければならない。

1つ目は危険にどれだけさらされているかを示すエクスポージャーだ。災害にどれほど近い場所なのだろうか?氾濫原にあるのだろうか?長く乾燥した夏に燃えやすい森林に囲まれているか?ハリケーンに襲われやすい地域なのか?2つ目はぜい弱性だ。危険は近くにあるかもしれないが、予防策を講じることでその影響を軽減することができる。例えば、建物を建てる際に耐風性の高い資材を使えば、暴風雨による被害を抑えることができる。3つ目は災害に対処する能力だ。大災害が発生したとき、住民は避難できるか?彼らは車を使うことができるか、行く場所はあるのか、といった問題だ。

結局のところ、自然災害のリスクは、自然災害とこれらのリスク要因(エクスポージャー、ぜい弱性、能力)の相互作用によって決定される。

災害が経済に与える影響を理解する

これら3つのリスク要因を測る指標を開発するため、ABは米国海洋大気庁、米国地質調査所、オレゴン大学、災害対策コストに関するデータをまとめた機関などから入手した、30年分の財務コストデータを分析した。

この膨大なデータを出発点として、我々は定量的なリスクツールである物理的ハザード投資リスク(PHIR)指標を作成した。この指標は、米国の国勢調査区と郡の総合的なハザード投資リスクについてゼロ(最低)から10(最高)までのスコアを付け、経済的に最も大きなリスクにさらされている地域を浮かび上がらせるマップ(図表2)で視覚的に把握できるようにした。

PHIR指標を活用する

ハリケーン、暴風雨、干ばつ、洪水など、いくつかの自然災害は他の災害よりも大きな被害をもたらす。これらの災害の1つ以上にさらされた地域のぜい弱性が高く、対処能力が低い場合、その影響は甚大なものとなりかねない。例えば、米国のメキシコ湾岸は、ハリケーン、洪水、沿岸洪水(海面の上昇によって拡大する)という最も壊滅的な一連の自然災害リスクにさらされており、それらを軽減する能力は限られている。

それとは対照的に、米国の中西部はPHIRスコアが低い一方、ばらつきも多い。PHIRツールは国勢調査区レベルまで掘り下げているため、他の分析では見逃されがちなリスクの存在場所を特定することができる。

PHIRスコアは、住宅ローン担保証券や米国地方債の投資家にとってとりわけ重要性が高い。住宅、学校、病院、発電所、空港が位置する地域は、それぞれ異なる自然災害リスクにさらされている。分析の困難さなどを背景に、市場は自然災害リスクをミスプライシングする可能性があるが、投資家は当ツールを活用することで証券の適切な評価と投資機会の特定に役立てることができる。

気候変動が急速に進行し、自然災害に備える重要性がますます高まっている中では、自然災害指数と、それに基づくPHIRスコアはどちらも、投資家が災害による財務的な影響をより深く理解するための重要なツールとなろう。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら



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当資料は、2023年12月1日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。

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