新たな研究により、自然災害リスクの高まりによる各資産クラスへの将来的な影響が明らかになりつつある。

極端な自然現象が投資対象資産に及ぼすマイナスの影響を評価する際、投資家は過去のデータを参考にしたうえで、自然災害のリスクは高まっていくとの単純な前提に頼りがちである。実は、世界が今世紀直面するであろう4つの主な自然災害分野では、画期的な新しい研究が進むに従い、そうした推量的な要素が大幅に排除されつつある。

世界の専門家集団が予測する自然災害の脅威レベル

コロンビア・クライメート・スクールは今般、最新の「自然災害指数」(Natural Hazard Index、NHI)に基づく新たな予測を発表した。NHIは2016年に初めて開発された指数であり、米国内の洪水や干ばつのほか、多くの自然災害リスクへのエクスポージャー(危険にどれだけさらされているか)を評価するものである。また、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は同スクールと協力し、2023年にNHIのバージョン2.0を共同で発表した(以前の記事『自然災害指数:コロンビア大学との共同研究』ご参照)。これには、全米の数千の地域が自然災害に見舞われる可能性を詳細に示したインタラクティブマップも含まれている。

2025年に新たに行われたNHIのアップグレードには、コロンビア大学とABのほか、米航空宇宙局(NASA)を含む主要な学術機関や公的機関が幅広く参加した。そうして開発されたNHIのバージョン3.0は現在、最新の気候科学、気候研究、さらには高度なモデリング技術を応用することで、同指数の対象に含まれる4つの自然災害について、今世紀半ば及び今世紀末時点の発生傾向(発生地点、地理的広がり、発生規模)を予測できるようになっている(コロンビア大学クライメート・スクールのページ(外部サイト))。

NHI 3.0では、自然災害の過去の変化だけでなく、今後想定される変化についても知ることができる。例えば、米国では近年、山火事の頻度と規模が拡大しているが、新たなデータによれば、今後は既に頻発している地域(カリフォルニア州南部(以前の記事『Assessing the Potential Impact of California’s Wildfires on Municipal Bonds』(英語)ご参照)やワシントン州など)だけでなく、今はまだ発生が少ない地域(ミネソタ州やサウスダコタ州など)でも状況の悪化が予想される(図表1)。

新たに予測された竜巻の発生傾向にも警戒が必要だ。分析によれば、竜巻の頻発地域は米国中西部の「竜巻街道」から大きく東に広がっていく可能性が高い。

NHI 3.0はまた、自然災害が重なる可能性のある地域も示している。自然災害のリスクは、ときに同規模の別の自然災害によって弱められることもある。例えば、NHI 3.0によれば、ルイジアナ州では山火事のリスクが低下しているが、それはハリケーンの増加と、その結果としての洪水の増加が予想されるためである。

自然災害へのぜい弱性を考慮して、投資対象資産を見極める

コロンビア・クライメート・スクールが発表した新たなデータは、災害対応計画を策定し、自然災害が人や環境、さらには経済に与える長期的な影響を見積もる上で、必要不可欠な情報を提供している。このデータは投資家が将来のリスクをより正確に評価する上でも役立ち、気候変動がさらに予測しづらく目に見えづらいものとなる中、特に価値が高いとABは考える(以前の記事『気候変動リスクの「見える化」』ご参照)。

以上を踏まえ、ABでは現在、NHI 3.0の主要データを「物理的ハザード投資リスク」(PHIR)と呼ばれる指標に取り込む作業を行っている。PHIRはAB独自のツールであり、全米の3,100以上の郡について、NHIが示唆する自然災害リスクに財務要素を重ね合わせたものである。米国では、山火事、ハリケーン、竜巻、海面上昇が2050年までの4大自然リスクと考えられているが、今回の新たな研究によって、それらのリスクに対する各地域の将来的なエクスポージャーをPHIRに取り込むことができるようになった。

また、PHIRは投資ツールとして、地方債や住宅ローン担保証券(MBS)の災害リスクへのエクスポージャーを計測することもできる。住宅、学校、病院、発電所、空港などへの投資において、最終的に重要なのはその所在地であり、発行体も貸し手も地域固有の気候変動リスクにさらされているといえる。

さらに、PHIRに追加された新たなデータはアクティブ株式運用にも役立つ。地域固有の災害リスクにさらされているのはどの企業も同じであり、今はリスクがなくても、今後数十年を考えればリスクはある。また、多くの企業が複数の拠点で事業を展開していることから、各拠点のリスクが高まることで、企業全体のリスクが指数関数的に拡大する可能性もある。

山火事に関する将来予測は、ひとつの企業が数か所の拠点でリスクを抱えていることを示す典型的な例である。例えば、ある大手公益企業が施設を構えるミネソタ州とサウスダコタ州は、今はまだ山火事のリスクは低いかもしれないが、今世紀半ば時点の見通しは今とは大きく異なる。両州の山火事リスクへのエクスポージャーは今世紀半ばまでに88%も上昇すると予想されており(図表2)、この公益企業や似た状況にある他の企業にとって対処すべき重要なファクターであるとABは考える。そのため、この事例においてABは、公益企業の経営陣とエンゲージメントを行い、山火事の多いコロラド州の施設で得られた教訓を中西部の施設にも生かしていくよう助言した。

地域的脅威は明らかだが、見過ごされているケースもある

リスクシナリオの中には扱いが難しいものもある。海面上昇、竜巻、ハリケーンの脅威が高まる中、企業や産業全体への将来的な悪影響を把握することは困難だが、対応は可能である。一方、投資家が常にリスクを把握できているとは限らず、市場のバリュエーションが災害リスクへのエクスポージャーを完全には織り込んでいないケースもある。PHIRの新たなデータは、そうした潜在的な価格の歪みを捉え、投資機会を発掘するのに役立つ。

将来の自然災害は過去とは異なるパターンを示すだろうが、その予測を現在の投資判断に生かすことはできる。21世紀においては、将来の自然災害の規模を地域ごとに可視化し、その影響に対処することが、災害対策の重要なステップとなる。今回の新たな予測と分析はおそらく、人々の命と生活を守るものになるとABは考える。また、このようなフォワードルッキングな視点は、企業や債券の発行体に収益リスクのヘッジを促す一方、投資家にとっても、自然災害リスクへのエクスポージャーが実物資産に与える影響を理解するのに役立つ可能性がある。

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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