取締役選任は、投資家が非効率な取締役会に意見を表明する強力な手段となり得る。

議決権行使に関する議論は、株主提案や役員報酬を巡るものであることが多い。一方、取締役選任は注目されにくい傾向にある。しかし、取締役会は企業の戦略的方向性を監督し、経営陣を監視し、長期的な価値創造に対する説明責任を追求することによって株主の利益を代表する重要な役割を担っているため、取締役選任議決は投資家にとって最も重要な投票行動であると言えるのだ。

取締役選任議決は、経営上のマテリアルなガバナンス問題に意見を表明する強力な手段となり得る。近年、まさにそうした形で投資家が声を上げるケースが増えている。米国の2024年の株主総会シーズンは、取締役会に設置された指名委員会やガバナンス委員会の委員長を務める取締役に対して投じられた反対票が他の取締役と比べ平均で5%多かった(ハーバード・ロー・スクールのサイト(外部サイト)ご参照)。これは、取締役会の構成やガバナンス問題一般について、特定の取締役に責任を求める投資家の意思を反映している。

取締役の独立性や株主権利といった従来からのガバナンス問題に加え、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)では、取締役選任という機会を活用することで、製品の安全・品質から役員報酬、戦略的企業買収に至るまで、企業の幅広い経営課題に対する見解を表明してきた。

質の高い取締役会は投資パフォーマンス向上に寄与する可能性

ABの議決権行使は常に、優れたガバナンスの促進を通じた投資成果の向上を目指している。企業が同業他社をアンダーパフォームする要因は無数に存在し得るが、ABによる取締役選任議案に対する投票結果(すなわち投資家としての取締役会に対する評価)とその後の株価パフォーマンスとの間には明確な関連性が見られる(以前の記事『ガバナンスの重要性:議決権行使を超えて』ご参照)。

2017年の株主総会シーズン以降、ABが取締役候補全員の選任を支持した米国企業は、一部不支持だった企業と比べると、中央値で見ても平均で見ても、翌年の株価リターンがより高くなっている(図表)。しかも、ほぼ全てのセクターと企業規模にわたり、強く一貫した相関性が見られる。端的に言えば、取締役会がABの運用チームの期待に応えられない場合、それは業績不振の先行指標となることが多いと言える。 こうした結果は、取締役会が機能しているかどうかが投資判断における重要な要素であり、取締役選任は投資家にとって最も重要な意思表明法の一つであるというABの信念を裏付けるものだ(以前の記事『マテリアリティに基づくESG分析は、引き続き重要』ご参照)。

取締役会を効果的にする要素とは?

取締役会は、経営陣のパフォーマンス、構成、報酬を監督する上で極めて重要である。また、企業の事業や業績に対するリスクを管理するためにも、効果的な取締役会が不可欠だ。究極的には、上場企業の取締役は経営陣が全株主の経済的利益最大化のために行動することを求める責任を負う。また、効果的なガバナンスは、経営陣と株主の連携が不可欠な経営再建の局面で最も顕著に現れることが多い。

企業や業種を問わず、効果的な取締役会は、そのメンバー構成、組織構造、そして行動によって定義される。取締役会の構成が優れたものであるためには、過半数が独立した監督者であり、多様なスキルと経歴を持っていることや(以前の記事『取締役会も年齢を気にしよう』ご参照)、出席問題や過度な外部活動がないことなどが求められる。取締役会における正式な委員会、議決基準、年次取締役選任といった構造的なメカニズムは、説明責任を果たす上で欠かせない。そして、取締役会はその行動によってその価値を示す。つまり、報酬と業績の連動、規律ある資本配分、株主との対話といった経営上の課題の推進である。

当然ながら、全ての取締役会がこれらの基準を満たすわけではない。取締役会の構造や行動が投資家の利益最大化と非整合的であると判断した場合、ABでは顧客投資家に対する自らの受託者責任を果たすために、当該企業の担当取締役に説明責任の遂行を求めることもある。

実際にはどのように機能するのか?例えば、ある米国の大手銀行に関し、不正行為、リスク管理の失敗、職場での不適切な行為、株主との広範な利益不一致といった過去のガバナンス上の欠陥を認識したケースを見てみよう。ABでは、取締役会及び経営幹部と複数年にわたってエンゲージメント*を行うとともに、関連する取締役の選任に対して一貫して反対票を投じ続けた。最終的に、この銀行は経営陣のインセンティブ設定の改善に加え、より大規模な企業カルチャー改革の一環として監督メカニズムの改善を実施した。

取締役選任を投資に役立てる

突き詰めれば、投資家はただひとつのシンプルな問いかけに立ち返ることができる。すなわち、「この企業の取締役会は株主が求める成果を上げているか?」ということだ。ABのリサーチでは明確な関連性が示されている。期待外れの取締役会は期待外れの結果をもたらす傾向があるし、全面的に支持できる取締役会は優れたパフォーマンスを達成している。

投資家による監視を自覚している時、取締役会は最もうまく機能する。取締役選任議決は、あまりメディアの話題には上らないかもしれないが、投資家の声が最も効果を発揮する重要な意見表明の場なのだ。

*ABは、エンゲージメントを行うことが顧客の金銭的利益に資すると判断する場合にエンゲージメントを行います。

本記事に用いられたリサーチには、著者以外にも投資スチュワードシップ担当アソシエイトのランドン・シェイと、投資スチュワードシップ・アナリストのコール・ムーアが貢献しています。

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