ブレンデッド・ファイナンスは、これまでになかった投資機会を開拓する可能性がある。
国際連合(国連)の警告によれば、「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現には年間約4兆米ドルの資金が不足している(国連のサイト(英語、外部サイト)ご参照)。公的資金だけで埋めるには、不足が大きすぎると言える。公的資金に慈善資金や民間資金を組み合わせるブレンデッド・ファイナンスは、こうした資金不足の解消、ひいては貧困の削減や気候対策、さらにはクリーンエネルギーへのアクセスなど、世界的な優先課題への取り組みの進展に寄与する可能性がある。
国連が「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択してから10年が経つものの(国連のサイト(英語、外部サイト)ご参照)、その目標の多くはいまだに実現しないままである。農村の電化など、計画に進展が見られる分野もある一方、それ以外の分野では資金不足が計画の進展を妨げている。35億人近くの人々が暮らす国々では、政府の利払い費用が医療や教育への支出を上回っており、持続可能な開発への投資余力はほとんど残されていない。
それに加えて、国際通貨基金(IMF)によれば、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つを重視するESGファンドの多くも、新興国市場への投資を避けてきた。この10年、世界経済の成長の大部分は新興国市場が支えてきたにもかかわらず、ESGポートフォリオにおける新興国市場の組み入れ比率は約6%にとどまっている(図表1)。

こうしたミスマッチは、これまでは見過ごされてきた大きな投資機会の存在を浮き彫りにしていると言える。ブレンデッド・ファイナンスは、伝統的な投資家とインパクトを追求する投資家の両方を市場に呼び込み、大きな資金を調達するための手段になる。そしてそれはまた、取り残された市場や成長分野に資金へのアクセスを広げると同時に、魅力的なリスク調整後リターン(通常は投資適格)の可能性を投資家に提供するという、将来への道筋を描くものでもある。
まずは資金の分類について簡単に説明したい。
ブレンデッド・ファイナンスの構成要素
ブレンデッド・ファイナンスを構成するのは、公的資金、慈善資金、民間資金という3種類の資金である。
- 公的資金:開発金融機関、多国間銀行、多国間政府機関などからの資金であり、通常は最初に投入される。保証、補助金付き融資、アンカー投資、政府支援などのコミットメントが含まれ、他の投資家の想定リスクを下げる役割を果たす。
- 慈善資金:財団、寄付金、富裕層個人からの資金であり、資金不足の解消やイノベーションの促進に向けた、初期の助成金や技術支援、あるいはリスクの緩和に活用されることが多い。また、そうした枠組みのなかには、譲許的な公的資金と一体化し、「触媒的資金」や「譲許的資金」と呼ばれるものもある。譲許的な資金とは、簡単に言えば、市場よりも有利な条件で提供される資金という意味である(本稿では、市場よりも条件が有利な公的資金や慈善資金、あるいは大きな民間資金を呼び込むためにファーストロス(一定額までの最初の損失)補償を提供し、プロジェクトのリスクを下げる役割を果たす公的資金や慈善資金を「触媒的資金」と呼ぶ)。
- 民間資金:機関投資家、銀行、企業などからの資金であり、通常は公的資金や慈善資金よりも後に投入され、市場並みの期待リターンに加えて、規模や効率性を追求する役割を果たす。また、こうした資金を「商業資金」や「市場金利ベースの資金」と呼ぶ枠組みもある。
これらの構成要素にはそれぞれ明確な役割がある。まずは公的資金が土台を作り、慈善資金はプロジェクトのリスクをさらに下げて民間資金を呼び込み、民間資金は市場の成長と深化を推進する(図表2)。これらの構成要素を補完的に組み合わせることで、単独の構成要素をはるかに上回る資金を調達することができるのである(以前の記事『クロサイ・ボンドに見る自然保護と金銭的リターンの両立』ご参照)。

エコシステムの育成:資金提供者間の調整
4兆米ドルもの不足の解消に必要な資金を調達することは容易ではない。開発途上国は無理のない条件で資金を確保しなければならないが、そうした条件は投資家を惹きつけるものである必要もある。そしてそのためには、資産運用会社、開発銀行、各国政府、格付機関、慈善財団、保険会社、非政府組織(NGO)など、さまざまな関係者間の調整が求められるのである。
規模が大きく、持続性のある民間資金の獲得は特に難しい。それでも、初期段階からさまざまなステークホルダーが協働することで、透明性が高く、再現性のある投資ストラクチャーを構築することは可能だ。また、開発の最もリスクの高い段階で触媒的資金を取り入れることで、当初の構想を実現可能な投資機会へと発展させ、後に続く民間資金の流れを強化することもできると言える。
2025年前半に初めて開催された「Impact and Blended Finance Conference(インパクト投資とブレンデッド・ファイナンスに関するカンファレンス)」は、そうした調整に向けた大きな一歩となった。アライアンス・バーンスタイン、ソシエテ・ジェネラル、Emerging Markets Investors Alliance(EMIA)の3者が共同で主催し、幅広い資金提供者が一堂に会したこのイベントは、バイサイド(投資家側)とセルサイド(調達側)の連携においてモデルとしての役割を果たしたと言える。
エコシステムの育成:データベースの構築
カンファレンスではまた、ボストン・コンサルティング・グループとソシエテ・ジェネラルの2社が、ブレンデッド・ファイナンスの取引を支援する集中データベースの構築を提案した(ホワイト・ペーパー『Building a catalytic capital repository』(英語、外部サイト)ご参照)。地域、セクター、金融商品のタイプごとに資金の供給状況に関するデータを集約することで、取引の効率化やコストの削減、さらには透明性の向上が期待できるためである。
集中データベースの構築は、投資家がより効率的かつ大規模に資金を投資する上で役立つものであり、ブレンデッド・ファイナンスが拡大する重要なきっかけになり得る。また、集中データベースを構築することで、プロジェクトの遅れにつながりがちな資格要件や申請手続き、さらには報告要件のばらつきが減り、触媒的資金へのアクセスがしやすくなる可能性もある。
エコシステムの育成:成果の測定
ブレンデッド・ファイナンスの市場規模を拡大するためには、明確かつ一貫した成果の測定も必要となる。経済的なリターンと環境や社会へのインパクトの両方について、取引ごとに成果を把握していくことが投資家には求められる。共通基準の作成は評価の信頼性や比較可能性を高め、そうした厳密なアプローチはまた、グリーンウォッシングのリスクを和らげ、目に見えるインパクトと投資家の経済的利益を両立できるプロジェクトに資金を振り向ける上でも役立つ。長期的には、こうした透明性が投資家の信頼を築き、市場参加者の拡大につながっていくと言える。
ブレンデッド・ファイナンスの市場規模を将来的に拡大していく上では、調整の強化や集中データベースの構築、さらにはより明確なインパクト指標の導入が必要不可欠となる。一方、投資家が今すぐ資金を投資できる具体的な仕組みも既にある。
サステナブル投資の新たな手法
ブレンデッド・ファイナンスの最も分かりやすい応用例としては、持続可能な開発プロジェクトに資金を直接振り向ける、革新的な債券の仕組みが挙げられる。自然保護債務スワップと成果連動型債券という2つの例は、柔軟な発想が目に見えるインパクトと魅力的なリターンの両方にどのようにつながるかを示している。
自然保護債務スワップとは、開発途上国が自然保護への投資を実行するのと引き換えに、それに応じてその国の政府債務を減免するというものだ。その仕組みは複雑であり、資産運用会社や多国間開発銀行、さらには各国政府や自然保護団体の間での調整が必要となる。それでも、この仕組みには以下の3つのメリットがある。第一に、自然保護債務スワップはデフォルトのリスクを抱えた途上国にとって、コストを抑えつつ債務負担を軽減し得る手段となる。第二に、政府による投資は熱帯雨林の保全や絶滅危惧種の保護など、環境にとって極めて重要なプロジェクトに振り向けられる。そして第三に、投資家にとっても、そうした途上国の債券を魅力的なバリュエーションで買い取ることができるかもしれないというメリットがある。
最近実行されたある自然保護債務スワップは、6万平方キロメートルにも及ぶエクアドル領の海域の保全に役立っただけでなく、同等の格付けを有する多くの米国社債よりも高い利回りを投資家に提供した。
成果連動型債券も自然保護債務スワップと同様、持続可能な開発に向けた資金を調達するためのものであるが、その資金使途はより明確に定められている場合が多い。こうした債券は通常、例えばクロサイの個体数の回復やアマゾンの森林再生など、特定のテーマに関心のある投資家に訴えかけるものだ。
また、プロジェクトの成果に応じてクーポンの額が調整されるケースもある。世界銀行などの評価の高い開発機関が発行または保証するこうした債券への投資を通じて、投資家は目に見えるインパクト(以前の記事『Outcome Bonds: Seeing the Wood for the Trees on Greenwashing Risk』(英語)ご参照)と投資元本の保全を同時に追求することができると言える。
成果連動型債券は、同等の信用力を有する他の資産よりも過去の利回りが高く、インパクトを定量化することも可能だ。つまり、例えば何本の木が植えられ、どれだけの量の炭素が大気中から除去され、何頭のサイが保護されたか、投資家は正確に把握することが可能なのだ。
可能性を結果に変える
ブレンデッド・ファイナンスがその目標を達成するには、目に見えるインパクトに加えて、伝統的な投資家を惹きつけるだけの魅力的なリターンも必要となる。
触媒的資金は、より多くの民間投資を呼び込む上で重要な役割を果たす。触媒的資金が取引のリスクを下げることで、サステナブル投資商品は世界の開発目標の実現に貢献しつつ、魅力的なリターンを投資家にもたらすことができるのだと言える。
課題は大きいがチャンスもまた大きい。ブレンデッド・ファイナンスは大きな成長が期待される市場であり、投資家にはそうした市場の立ち上げ期に関わる機会が与えられているのだ。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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