アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の分析によると、優れた役員報酬制度を持つ企業は、市場を上回るパフォーマンスをもたらす可能性がある。

役員報酬制度は、経営陣の利益と株主の利益を一致させるための有用なツールだ。特に、製薬企業とバイオテクノロジー企業においては、優れたインセンティブが不可欠であることが分かった。ABのリサーチは、より優れた報酬制度を持つヘルスケア企業が、長期的な投資成果をより向上させることを示している。

議決権行使における精査

株主総会の時期になると、上場企業は大半の市場において、株主に役員報酬パッケージの承認を求める。ABはこれらの議決権行使を、報酬に関するABの方針を正式に表明する手段として活用している。企業の報酬体系が役員に適切なインセンティブを与えていないと判断した場合、反対票を投じる。これは、ヘルスケア・セクターにおいても、これまで頻繁に行われてきたことだ。

ABが承認した報酬パッケージは、世界中のヘルスケア企業においてより優れたリターンを示す先行指標となっていることが分かっている(以前の記事『ガバナンスの重要性:議決権行使を超えて』ご参照)。2016年以降、ABが承認した報酬制度を採用した企業は、反対した企業と比較して、翌年の平均リターンが高くなっている(図表)

優れたインセンティブを形作るもの

数百に上るヘルスケア企業と報酬制度についてエンゲージメント*を行った経験から、効果的な報酬制度を特徴づけるのに役立つ可能性がある主要ポイントは、次の3つである。

  1. 株式との連動性: 企業の業績が好調な時は経営陣も報われるべきで、その逆もしかりである。ABはこうした理由から、経営幹部の報酬体系の株式・キャッシュ構成だけでなく、(株式持ち分の権利を行使できるようになるまでの)べスティング期間の長さ、株式持ち分ガイドラインの堅固さ、(報酬の一部または全部の返還を求める)クロ―バック条項の有無を注視している。特にヘルスケア企業において重要視される、長期的な開発パイプラインの管理においては、長期的なリスク管理に勝るものはない。
  2. 利益につながるイノベーション: 業績連動型報酬は、効率性とイノベーションを重視する財務目標や戦略的目標と連動することで、最も効果を発揮する。これには、営業利益や投下資本利益率(ROIC)といった指標が含まれる場合がある。企業によっては、特許取得や規制当局の承認といった研究開発のマイルストーンも有用な指標となる場合がある。ABは、短期的な株価上昇ではなく、長期的な価値の追求をもって経営陣に報酬を与えるような目標設定を推奨する。
  3. 付加価値: 最終的には、顧客、株主、そして医療システム全体に付加価値をもたらし、それに応じた報酬体系を持つヘルスケア企業を評価する。これは、患者のアウトカム改善、医療費の削減、医薬品へのアクセスといった目標と報酬を連動させることを意味する場合もある。

残念な事実:悪いインセンティブは依然として多い

残念ながら、製薬・バイオテクノロジー業界において、新規株式公開(IPO)間もない企業から定評ある企業に至るまで、望ましくない設計の報酬インセンティブも依然として存在している。

例えば、多くの大手製薬会社は、経営幹部の報酬計算から訴訟費用やコンプライアンス費用を差し引いている。このため、ステークホルダーが訴訟和解金や罰金による業績インパクトにさらされた年であっても、経営幹部には多額のボーナスが支給される可能性がある。また、申し立てられたダメージが過去に発生したものであることから、企業が訴訟費用をレガシーな懸案事項と見なしたり、複数回発生したにもかかわらず、一時的な費用と見なす場合がある。

製品の品質や安全性の問題が繰り返し発生している企業が慣行としてそうした方策をとる場合、投資家は特に注意すべきだとABは考えている。これに関するABの見解は単純明快である。経営幹部がレガシー製品を販売して報酬を受けることができるのであれば、彼らはレガシー・リスクの管理についても責任を負うべきだというものだ。

IPOも、インセンティブの不一致を引き起こす場合がある。イエール大学ロー・スクールの新たなリサーチでは、アーリー・ステージのバイオテクノロジー企業には、高い割合で、IPO前のストック・オプション割引と呼ばれる慣行があることが明らかになった。この慣行には、IPOの少し前のタイミングで、想定されるIPO価格よりはるかに低い行使価格で、内部関係者にストック・オプションを付与する行為が含まれる。内部関係者はこの際どい慣行により、重要な業績条件やパブリック市場の投資家の承認なしで、直ちに棚ぼたの収入を得ることができるのだ。

このリサーチでは、新規公開した100社以上のバイオテクノロジー企業をサンプル調査し、その3分の2以上の企業が、こうした割引ストック・オプションを内部関係者に付与していたことが判明している。これらの付与を受けた経営幹部は、平均するとIPO価格から48%の割引を享受していた。

もちろん、新たな治療法を開発するためのインセンティブは必要であり、ABでは、構造がしっかりしたストック・オプションの付与は支持している。しかし、IPO前の割引ストック・オプションについては、投資家の精査が必要だとABは考えている。こうした割引は、内部の経営幹部にとってはIPO初日に大当たりをもたらす一方で、医療システム全体に対するこの企業の貢献度合いにかかわらず、パブリック市場の投資家にとって長期的な株式希薄化効果につながるためである。

投資の観点から報酬を考慮する

経営幹部の報酬体系の評価は、ファンダメンタル分析の構成要素の1つにすぎないが、ヘルスケア企業に投資する際には、特に重要な意味合いを持つ。医療のアウトカム改善で成果を挙げたヘルスケア企業の経営幹部が、そのリーダーシップに対して報酬を受けるのは当然だが、それを検証するのは投資家である。

アクティブ運用のマネジャーは、投資家より内部関係者を厚遇するような企業を排除するとともに、株主利益に合致した報酬慣行を有する企業を投資対象として優先することができる。そして、優れた報酬慣行を有する企業は、長期にわたり、患者にも投資家にも優れた成果をもたらす可能性が高いとABは考えている。


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ABは、投資先企業とのエンゲージメントが顧客の投資価値最大化につながると判断する場合に、エンゲージメントを行います。

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