企業による人工知能(AI)の急速な導入は、環境や社会への恩恵だけでなく、リスクももたらす。
企業によるAIの導入が加速している。インフレが高止まりし、経済が伸び悩む今日の環境下、生産性の向上とコストの抑制が喫緊の優先課題であるためだ。一方、投資家にとっては、AIの導入速度に注意を払うことが重要となる。アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)の見方では、世界の大半の企業にとって、AIの普及がもたらす環境や社会への影響、すなわちエネルギー強度や労働力、さらにはデータ管理体制への影響は、財務的にも重要な意味を持つと考えられる。
AIはまさにインターネット以来最も大きな技術革新であり、今後数年にわたってあらゆる産業に広がり、経済や社会を変容させつつある。企業によるAIの導入は2022年後半から拡大しており、そのきっかけとなったのは、ChatGPTのような生成AI*の登場である。IT、財務、サプライチェーン及び製造などの分野では早くからAIが導入されており、2025年にはマーケティング、販売、商品開発、人事の分野にも導入が拡大しつつある(図表1)。

AIの導入がより幅広い分野へと広がる状況下では、複数の角度から、バランスの取れた批判的な見方をすることが役に立つとABは考える。その方法のひとつにAIインパクト・マトリックス(図表2)の作成があり、AIの普及がもたらす大規模な影響に加えて、企業や投資、さらには人々の日々の生活への影響を整理し、環境や社会にとってのリスクとチャンスをマッピングすることが考えられる。

マトリックスの環境分野ではエネルギーが主なテーマとなっており、まずはエネルギーの話から始めるのが自然であろう。
AIはエネルギー需要だけでなく効率性も高める
AIの普及がもたらす最大の環境リスクはおそらく、ハイパースケーラー(クラウドサービスを大規模に構築・運用する企業)によるデータセンターの大規模な拡張に伴う、エネルギー需要にあると言えるだろう。さらに、こうしたエネルギー需要の高まりは、今後しばらく続く可能性が高い(図表3)。

データセンターが世界のエネルギー消費量に占める割合は大きく上昇しつつある。世界の電力需要に占めるデータセンターの割合は、2022年の約2%から、2030年には最大7%まで上昇すると予測されている。また、その数字は米国の6つの州で既に10%を超えており、最も高いバージニア州では25%となっている。
こうしたエネルギー需要の高まりは、2つの意味でチャンスにもなると言える。ひとつ目はクリーンエネルギーの導入拡大であり(以前の記事『Power Play: How to Invest Smarter in the Race for Electrification』(英語)ご参照)、ハイパースケーラーのデータセンターでは、エネルギー効率の向上が進められている。これにより、サプライチェーン全体の変化も進み、そうした変化が投資家にチャンスをもたらす可能性がある。一方、新たなAIデータセンターの多くはクリーンエネルギーではない、天然ガスを電力源としており、それがハイパースケーラーの長期的な脱炭素コミットメントをリスクにさらす懸念もある。
また、債券投資家にとって、エネルギーと資本に対するAIの依存度の高さは、諸刃の剣であると言える。AIへの適応が遅れれば、発行体は信用力の悪化や資本へのアクセスの低下、さらには資金調達コストの上昇に直面する可能性がある。しかしその一方で、AIデータセンターの建設や資金調達に関わる多くの企業に加えて、電力網の近代化や再生可能エネルギーの導入を進める公益企業による、エネルギー消費の拡大への対応を目的としたグリーンボンドの発行も増えている。
アクティブ運用の観点からは、信頼できる移行戦略とAI競争力があり、規律ある資本配分と多様な資金調達源を有する発行体の見極めが鍵となる。そうした企業は長期的に信用力が向上し、魅力的な投資機会をもたらす傾向があるためだ。
電力需要の増加はインフラ業界全体にも影響を与えており、インフラの更新需要が恩恵になり得る企業には、高・中電圧ケーブルや省エネ型空調システムのサプライヤーのほか、ガスタービン(なかでもAI制御システムを搭載したもの)やデータセンター現地での発電を可能にする燃料電池のメーカーなどが含まれる。
水の安全保障もまた大きな環境リスクである。対応を誤れば事業や投資の結果に重大なダメージが及ぶリスクがある一方、戦略的な対応を重視する企業にとっては、そうした対応が競争力につながる可能性もある(以前の記事『Water Risks: An Investor’s Guide to Navigating Sustainable Water Management』(英語)ご参照)。
上述した以外の環境分野では、二酸化炭素排出量のモニタリングや測定にもAIが役立つ可能性がある。例えば、人工衛星からのデータを収集し、解析することで、発電所や車両からの排出量を見積もることが可能だ。また、森林火災における排出量予測の精緻化や炭素隔離に向けた取り組みのモニタリング強化のほか、炭素取引市場の信頼向上にもAIを活用することができる。
雇用リスクは移行が成功するかどうか次第
AIインパクト・マトリックスの社会分野で目立つのは、雇用へのリスク、誤情報の拡散、そしてAIが持つバイアス(偏り)という3つのテーマだ。
なかでも最も重要な社会的リスクのひとつに大規模な失業がある。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025(未来の仕事レポート2025)」(外部サイト、英語)によれば、2030年までを考えた場合、企業の業務に最も革新的な影響を与える技術トレンドは、「AI及び情報処理」技術であると見られている。一方、「AI及び情報処理」技術の雇用への影響は、全体としては小さい可能性があると予想されている(図表4)。

過去の技術革命がそうであったように、破壊的な変化は雇用者数の増減だけでなく、労働力の構成や仕事の内容にも現れる。事務職や管理業務がAIに置き換わる一方、AI関連分野では新たな仕事も生まれるとABは見ている。そうした新たな仕事が雇用全体の拡大につながるか否かは、企業や個人がどれだけうまくAIに適応し、スキルを習得できるかにかかっていると言えるだろう。
AIへの移行は多くの企業にリスクをもたらすものの、例えばAIの活用に向けた教育やトレーニングを担う企業など、移行がチャンスとなる企業もあり、投資家はそうした分野の動向を注視すべきであるとABは考える。
誤情報や偽情報の拡散については、ソーシャルメディアで既に問題となっており、AIはそれに拍車をかけるリスクがある。こうした問題は、企業や政府などに対する世間の信頼にとって大きなリスクであり、大規模な信頼の喪失は、社会的及び経済的に大きなコストにつながる可能性がある。
AIモデルが持つバイアスもリスクになる。例えば、肌の色が濃いと精度が落ちてしまう顔認証システムなど、人間のバイアスが意図せず学習データに入り込んだAIモデルは、消費者に不利益をもたらす可能性がある。また、そうしたバイアスは、企業のレピュテーション(評判)リスクや訴訟につながる恐れもあり、ひいては投資家にも影響を及ぼす可能性がある。
AIの進歩に注意を払う
環境や社会へのAIの影響を評価する上で、ABが次に行うのは、企業のガバナンスについての分析である。そのためABでは、責任あるAIの利用に関する10の基本原則を定めるとともに、運用チームが企業経営陣とのエンゲージメント**に活用できる質問リストを作成した。
AI勝者とAI敗者の見極めはかつてないほど重要であり、資産運用会社による企業の監視に加えて、投資家にも引き続き慎重な姿勢が求められる。AIは企業の急速な変容につながる技術であり、その進歩がもたらすリスクとチャンスに投資家は注意を払う必要があるとABは考える。
*生成AIとは、AIの一種であり、幅広い分野の知的作業が可能なAIの中でも、画像や動画などの新たなコンテンツやアイデアの生成、さらには既存の知識を活かした新たな問題の解決が可能な技術を意味します。
**ABは、エンゲージメントを行うことが顧客の金銭的利益に資すると判断する場合にエンゲージメントを行います。
当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。
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当資料は、2025年10月3日現在の情報を基にアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーが作成したものをアライアンス・バーンスタイン株式会社が翻訳した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。アライアンス・バーンスタイン及びABはアライアンス・バーンスタイン・エル・ピーとその傘下の関連会社を含みます。アライアンス・バーンスタイン株式会社は、ABの日本拠点です。
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