ESGに関する取り組み

気候変動はすでに金融や経済に大きな影響を及ぼしており、その影響は今後数年間に著しく拡大すると見込まれている。そのため、アライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)はコロンビア大学クライメート・スクールと共同で、「気候変動と投資に関するアカデミー」を開発した。私たちは気候変動に関する複雑な科学と、それが金融市場や投資の意思決定に与える影響について顧客やパートナーにより良く理解してもらうため、2023年に第2回目のカリキュラムを開催した。

【問題点】
アセット・オーナーは、気候変動から生じる複雑な問題に一段と積極的に取り組む必要があるという、商業的、経済的、規制上の圧力に直面している。

【イニシアティブ】
気候変動と投資に関するアカデミーは、気候科学に関する十分なトレーニングや教育が不足している金融市場のギャップを埋めるために開発された。

【プログラムの目的】
顧客やパートナーが投資や資産配分を決定する上で、パフォーマンスに重要な影響を与える気候変動に関する問題をより良く認識、分析、統合するための取り組みを支援する。

私たちは常に、ABとコロンビア大学のユニークなコラボレーションが、幅広く資産運用業界に貢献することを願っている。アセット・オーナーと運用会社は同様に、気候変動の複雑な問題や、それが投資や投資の意思決定に及ぼす潜在的な影響について探りたいと考えている。

そうした理由から、ABは気候変動が経済、発行体、ポートフォリオに与える影響を投資家が学ぶためのカリキュラム「気候変動と投資に関するアカデミー」を開発した。この6週間のコースでは、気候学者や投資プロフェッショナルの専門知識を活用し、気候変動をテーマとした最新の科学的成果を統合するとともに、これらの問題が投資リスクや投資機会にどのように重大な影響を与えるかについて理解することを目指している。

2023年に開催された第2回目のカリキュラムには、ABの顧客及びパートナー1,000人以上が世界中から参加し、事前録画されたウェビナーを受講した後、オンラインのグループ・セッションで質疑応答が行われた。これらの奥深い議論の中で、参加者とパネルの専門家は、中国のエネルギー構成から炭素市場の進化、生物多様性ファイナンスに至るまで、幅広いトピックについて議論した。

以下では、これらの非常に重要なテーマについてABとコロンビア大学の仲間が共有した、学術的かつ実践的な知見の一部を紹介したい。

エネルギー転換期における新興国にスポットライト

なぜ気候や地政学の観点から新興国市場について研究する必要があるのでしょうか?

Dr. Luisa Palacios氏、コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センター シニア・リサーチ・スカラー: 新興国市場の投資家にとって、気候変動の緩和及び適応、エネルギー転換戦略に関する政策決定を明確に理解することは、次の3つの理由から不可欠です。

第1に、新興国市場は将来のエネルギー需要に大きな影響を与えます。将来の電力需要は、特にアジア太平洋地域の動向に左右されます。中でも、中国とインドが最も重要ですが、電力需要はすべての新興国市場で増加するでしょう。経済成長と人口増加が電力需要を押し上げる見込みですが、アフリカで予想されるように、電力へのアクセス改善も需要増の一因となるとみています。そしてもう1つは、気候変動によって冷房需要が増加するとみられることです。

それは2つ目の理由につながります。つまり、新興国市場が気候変動による物理的リスクにさらされ、適応とリスク軽減のための資金ニーズが高まることです。第3の理由は、将来の化石燃料供給の大半を新興国市場が占めることと関連があります。化石燃料の大部分は、すでに新興国から供給されており、今後も増加する見通しです。どんなエネルギー転換シナリオにおいても、新興国は引き続き世界の石油・ガス需要の大半を供給していくことになるでしょう。

新興国市場におけるクリーン・エネルギー・システムの資金ギャップを埋めるにはどうすればいいでしょうか?

Dr. Guatam Jain氏、コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センター シニア・リサーチ・スカラー: 中国を除く新興国市場では、少なくとも年間1兆米ドルのクリーンエネルギー投資を必要としています。しかし、2022年の投資額はわずか1,500億米ドルで、約85%不足しています。この資金ギャップを埋めるには、政府や国家機関だけでなく、開発銀行、商業銀行、プライベートエクイティ投資家、公開市場も重要な役割を果たす必要があります。

いずれは、ESGテーマに基づく債券がおそらく最も重要な資金源となるでしょう(以前の記事『進化するESG債市場』ご参照)。1つ目の理由は、商業銀行からの融資に比べ、ESG債は市場性商品であるため、流動性があり、取引可能で、一般的にコストが低いからです。それに加え、債券の償還期間をプロジェクトの期間に合わせることができるため、発行体と投資家の双方にとって多くのメリットがあります。

この資産クラスの規模は急拡大しており、2015年には1,000億米ドル未満だったのが、現在では4兆5,000億米ドル近くに達しています。しかも、債券市場全体では約130兆米ドルの規模があることを踏まえれば、ESG債はまだ市場のごく一部であり、特にサステナブル債や環境・社会・ガバナンス(ESG)ファンドの需要が急速に高まっている中で、著しく大きな成長余地があります。

ソブリンの信用リスク評価に環境リスクをどのように組み入れているのでしょうか?

Katrina Butt氏、アライアンス・バーンスタイン中南米担当シニア・エコノミスト: ABのフレームワークは3つのことを実現しています。第1に、ソブリンのESGリスクについて、ABの分析手法における概念を反映させ、各国に関する見方を標準化した定量スコアとして提供しています。第2に、国や時間を超えてトレンドを比較することができます。そして第3に、何がスコアの原動力となっているかを正確に理解できるよう十分に詳細な情報を提供し、現場で目にしていることとデータが示唆していることが一致しない場合には、定性的な評価を重ね合わせることができます。

ABがモデルに組み入れている環境要因は、その国の地理的位置や、ハリケーン、竜巻、干ばつ、洪水などの頻度が高まったり深刻化したりする可能性、生物多様性、環境汚染、温室効果ガス排出量、エネルギー転換への貢献やエクスポージャー、その国にとって経済的に重要と思われる他の多くの要因などです。

旧来型エネルギー:中国の脱炭素化に関する課題と機会

中国のエネルギー経済の見通しは?

Kevin Tu氏、コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センターの非常勤特別研究員: 中国のエネルギー経済は矛盾に満ちています。中国は世界最大の二酸化炭素排出国で、世界の総排出量の3分の1近くを占めている一方で、世界最大のクリーンエネルギー市場でもあり、世界の風力・太陽光発電能力の3分の1以上を占め、電気自動車の台数も多いのです。

クリーンエネルギーに関する世界的な解決策を講じる上で、中国は欠かせない存在です。中・長期的な視点で見れば、中国が2060年までにカーボンニュートラルの目標を達成した場合、中国のエネルギー構成に占める非化石燃料の割合は、20%未満から、2060年までに少なくとも80%に急上昇することになります。つまり、中国のエネルギー構成は40年足らずで完全に覆ることになり、中国における石炭の将来はまったく明るくありません。

中国の国営石油企業(NOC)は、エネルギー安全保障と脱炭素化のバランスをどのように取っているのですか?

Dr. Erica Downs氏、コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センター シニア・リサーチ・スカラー: 中国のNOCにとって、石油と天然ガスの安定供給を確保することは最優先課題です。なぜなら、中国は原油の70%以上、天然ガスの40%以上を輸入に依存しているからです。ここ数年のさまざまな動きが、中国の指導者にとってエネルギー安全保障の重要性を高めています。その1つが米国との貿易戦争で、もう1つは、2022年の夏に起きた猛暑と異常干ばつによる電力不足です。そして最後に、ロシアとウクライナの戦争も安定供給を巡る懸念を高めています。

習近平国家主席は2020年に、2030年までに炭素排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を発表しました。NOCはそれを受け、炭素排出量のピークアウトやカーボンニュートラルに関する独自の目標を設定しました。彼らはいずれも風力発電や太陽光発電、炭素の回収・利用・貯蔵に投資しているほか、中国の低炭素化の未来に向け、エネルギー構成における天然ガスの比率を引き上げようとしています。一方、NOC各社が重視している分野には若干の違いがあり、例えば中国海洋石油集団(CNOOC)は洋上風力発電、中国石油化工集団(Sinopec)はグリーン水素に力を入れています。

NOCにとって、中国に石油と天然ガスを供給する一方で、将来の低炭素化を目指す対策のバランスを取る必要性がますます高まっています。バランスを重視するこうした行動は、中国全体に広がっている動きと似ています。中国の指導層は、現在の経済成長を支える上で十分なエネルギー供給を確保すると同時に、炭素排出量のピークアウト及びカーボンニュートラルに関する目標を達成するために必要な措置を講じようと努めています。

投資家は、中国市場や経済全体のどこに成長を見出すことができるのでしょうか?

John Lin氏、アライアンス・バーンスタイン 中国株式運用 最高投資責任者:中国がグリーン転換に乗り出す中で、長期的な視野を持つ投資家は、特に電気自動車やそのサプライチェーンをはじめとする持続可能な輸送などの分野で、多くの機会を見つけ出すことができます(以前の記事『中国のグリーン投資: 株式投資家にとっての魅力』ご参照)。また、中国が太陽光や風力などの再生可能資源を利用してエネルギー需要の多くを生み出し、石炭から脱却しようとしていることから、代替エネルギー分野にも期待できます。

そしてもちろん、すべてを結びつけるためには、送電網の整備、充電ステーションの拡充、水素ステーションの建設、トラックへの燃料補給など、より多くのインフラが必要になります。そして、インフラ投資そのものが、特定の産業に多くの需要を生み出し、バリューチェーンの適切な分野に投資する投資家に膨大な潜在的リターンをもたらすことになるでしょう。

気候変動のレンズを通じて世界の食料安全保障を検証する

食糧不安は喫緊の問題ですが、それに積極的に取り組む上で何に留意すべきでしょうか?

Dr. Michael Puma氏、コロンビア大学地球研究所気候システム研究センター シニア・リサーチ・サイエンティスト兼ディレクター: 食料システムにとっては、意図せぬ結果が常に存在し、大きな懸念を引き起こすことがあります。何らかの対策を決める際には、常にこのリスクを認識する必要があります。また、情報を持たないまま食料システムに介入すれば、利益よりも害をもたらすことになりかねません。これは、食料システムに関する壮大な計画を考える際に重要な視点だと考えています。私たちはいかなる変化や変革にも注意を払わなければならず、それを急激に行うことにも慎重でなくてはなりません。

システマティックな視点で食料システムを見つめ、ネットワーク科学やダイナミックなシステム分析の中にある現在のツールを最大限に活用すれば、これから登場する多くの新たなイノベーションを検証するのに役立ちます。投資家として、ある特定技術の利用拡大を検討する場合、その変化が食料システムにどんな影響を与える可能性があるのかについて理解する方法があります。

こうした取り組みを慎重かつ測定可能な方法で行えば、本当に重要な変化をもたらし、世界中の人々の生活を向上させ、飢餓を減らすことができるでしょう。つまり、思慮深く効果的な政策とガバナンスを必要とする厳密な分析と考え抜かれた行動は、私たちがより弾力的で持続可能かつ公平な世界の食料システムを築き上げる上で役立つでしょう。

テクノロジーはどうすれば持続可能な方法で農作物の収穫量を増やすことができるのでしょうか?

Joseph Sun氏、アライアンス・バーンスタイン サステナブル・テーマ株式運用 シニア・リサーチ・アナリスト: 遺伝子は最初のピースで、遺伝子編集と、それを可能にするテクノロジー、ツール、診断が重要な意味を持ちます。これらのコストは過去20年間に急激に低下しました。2001年には、1つのゲノムの塩基配列を決定するのに100万米ドルを超すコストがかかっていましたが、今日では数百米ドルで済みます。その結果、植物のDNAを効果的に編集し、干ばつや害虫に対する耐性など、より好ましい形質を発現させることが可能になりました。これは明らかに水消費の削減につながるほか、有害な農薬を使用せずに済むようになる可能性もあります。

それは環境問題にも役立ちます。土壌が乾燥し、栄養分が不足すれば、作物は生育するのが困難になります。そうした問題に対処する方法を考える上では、再生農業が大きな焦点となります(以前の記事『From the Ground Up: Sowing the Seeds of Biodiversity Investment』(英語)ご参照)。それは、被覆作物を植えたり、不耕起農法を活用したり、さらにはバイオベースの農薬や肥料を利用したりする方法で、それは土壌がやせているという問題に対処する上で役立ちます。

そして最後に、管理が重要です。それは、主にデータ分析とクラウドベースのツールを活用した精密農業を目指すトレンドが高まっていることを物語っています。これは精密施肥のようなテクノロジーを提供するのに役立ち、肥料の過剰使用によって生じる廃棄物の量を減らし、淡水域での栄養素汚染を防ぐことにつながります。また、土壌健全性センサーや、既存の農業機械に後付けできる他のセンサーの利用も拡大しており、農家は農作業をより精密に管理できるようになっています。

自然災害インデックス:気候変動がもたらす物理的リスクの測定

自然災害に関するリスクをどのように定義しますか?

Jeffrey Schlegelmilch
氏、コロンビア大学地球研究所全米災害準備センター ディレクター: リスクを本当に理解したければ、まず災害の可能性について理解する必要があります。あなたは氾濫原にいますか?乾燥が長く続いている夏に森林に囲まれたところにいますか?ハリケーンに襲われやすい地域にいますか?災害の可能性とはそうしたことです。そしてエクスポージャーとは、こうした災害とどれだけ近い場所にいるかということです。

次の問題はぜい弱性です。災害がすぐ近くにあるからといって、それに対して極めてぜい弱であるとは限らず、必ずしもリスクが高いということにはなりません。風に強い資材で建物を建てたり、洪水を引き起こすような水がたまらずに流れていく方法で建物を建てたりすれば、リスクを減らすことができます。私たちはぜい弱性をコントロールし、軽減することができます。

そして能力とは、リスクに対処する能力のことを意味します。避難する能力はあるでしょうか?車は持っていますか?避難できる場所はありますか?耐風等級を高めるために家の窓をすべて取り替える資金はありますか?つまり、対処能力は社会学的な要因との関わりが大きいことになります。そしてもちろん、リスクは最終的にこれらすべてを統合したものとなります。

どんな種類のデータが自然災害インデックスのツールに反映されるのですか?

Jonathan Sury氏、コロンビア大学地球研究所全米災害準備センター シニア・スタッフ・アソシエイト: 私たちは想定されるすべての災害を検討した結果、相応に優れたデータや、一般的なデータが入手できる14種類の災害を特定しました。それらは、沿岸地域の洪水、暴風、干ばつ、地震、猛暑、洪水、ひょう、ハリケーン、地すべり、竜巻、津波、噴火、山火事、冬の嵐です。そのため、最終的な結果はランク付けされていない累積的な指数となりますが、個々の災害にスコアが付けられています。

データは主に4つに分類されます。それらは、過去のイベントに基づくヒストリカルデータ、起きる確率が含まれる確率的または予測的なデータ、一定の条件の下で何が起きうるかを示す決定論的なデータ、関心のある大まかな結果を導き出すためにさまざまな説明変数を利用するモデルデータセットです。

自然災害インデックス(コロンビア大学サイト、英語)のバージョン2.0は、2023年に(米国の)国勢調査トラック版としてリリースされ、ABも郡レベル及び国勢調査トラックレベルのデータを保管しています。自然災害インデックスは、災害の存在と、その災害がどれほど深刻なものとなり得るかについて、5段階評価で示しています。ABでは、このツールをさらに進化させ、被害や損失の予測、人口に対する潜在的な影響といったリスクを測るために役立てようとしています。

投資家は自然災害インデックスをツールとしてどのように活用できるのでしょうか?

Patrick O’Connell氏、アライアンス・バーンスタイン 債券運用 責任投資 リサーチ-ディレクター: エクスポージャー、ぜい弱性、能力の測定について考えるとき、ABは過去を振り返り、「これらのさまざまな脅威は長期的にどんな被害をもたらしてきたか」と問いかけます。これは、すべての主要な脅威や、長期にわたりそれらを修復、軽減、改善するために要した費用に関するデータを保有する米国の海洋大気庁や大学から、ABがかき集めたデータです。

いくつかの脅威は、他よりもリスクの高さが目立ちます。それらは、熱帯低気圧、暴風雨、干ばつ、洪水などです。ABは、最も大きな被害をもたらすこうした脅威に焦点を当てた枠組みを作りたいと考えました。なぜなら、それらは市、州、政府などの自治体や、ホテルや倉庫などの不動産に大きな被害を与える可能性があるからです。深刻度にはさまざまなレベルがあるため、それを過去に照らして定量的な形で算出し、それを理論に当てはめてリスクスコアを作成したいと考えました。

ABが構築したのは調整済み投資リスクと呼ぶもので、米国の郡が抱えるリスクを測定するアプローチです。これは、コロンビア大学の自然災害インデックスを用いて危険を組み合わせたものに、エクスポージャー、ぜい弱性、対処能力をかけ合わせたものです。

炭素市場の進化: 企業や投資家の視点

企業はネットゼロを達成するために炭素市場を利用できるのでしょうか信頼できるネットゼロ・プログラムとはどのようなものですか?

Paul DeNoon氏、コロンビア大学気候スクール シニア・アドバイザー: 企業はネットゼロへの道のりをオフセットすることはできません。第1に、企業は産業革命以降の気温上昇幅を1.5度に抑える道筋に沿って、バリューチェーン全体における排出量削減に取り組まなければなりません。第2に、信頼できるネットゼロ・プログラムは、短期的な目標と長期的な目標の双方を定めなくてはなりません。第3に、計画には移行を実現するために必要な設備投資の概要を示した定量化された脱炭素化戦略が盛り込まれていなくてはなりません。2050年以前にネットゼロを達成できる先進国や先端的な企業は、2050年以降にネットゼロを達成するための柔軟性を途上国に与えることになります。

剰余排出量の削減が極めて困難な産業もありますが、その場合は、信頼できるネットゼロ戦略の一環として、削減が最も困難な排出に対してクオリティの高い除去クレジットを使用することができます。

炭素市場は投資家のポートフォリオにおいてどんな役割を果たすことができるのでしょうか?

Vinod Chathlani氏、アライアンス・バーンスタイン マルチアセット・ソリューション部門 ポートフォリオ・マネジャー: ABは、炭素市場には主に3つの役割があると考えています。ひとつは炭素価格に関する見解を示すことで、妥当な移行プロセスの大半は、現在よりも高い炭素価格を必要とします。投資家が炭素市場に対する見解を表明したいのであれば、大規模で流動性の高い炭素排出権市場に参加することで、それができる可能性があります。

もうひとつは分散です。炭素市場の原動力は金融資産とは大きく異なっており、さまざまな排出権取引制度によっても異なっているため、それらを通じて投資を分散できる余地が大きいと言えます。そして最後に、ある時点において、金融市場に織り込まれているよりも、移行プロセスが急速または破壊的なものになるリスクをヘッジする手段にもなります。

生物多様性: システミックリスクや投資可能な機会を探る

生物多様性の喪失という問題を軽減し、生物多様性を守るための主要な解決策とは?投資家にとってなぜそれが重要なのでしょうか?

Dr. Caroline Flammer氏、コロンビア大学国際・公共問題及び気候担当教授: 第1の解決策は各国政府間の措置で、例えば、国際連合生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で掲げられた「30×30」(外部サイト、英語)目標(世界全体で陸地と海のそれぞれ30%以上を保全地域とする目標)や、生物多様性条約などがあります。第2に、例えば保護区の設定や技術基準、キャップ・アンド・トレード・プログラムなどを通じて自然資本を保護することを目指す政府の対策や、インセンティブや補助金などを通じて自然資本の価格を規制する措置が挙げられます。

こうした政府間や政府による措置は非常に重要ですが、効果的に実施には困難も伴うため、3つ目の潜在的なチャネルに注目が集まっています。それは生物多様性ファイナンスです。自然資本の典型的な収益化メカニズムには、自然資本の転換、例えば、伐採や採掘が含まれます。しかし、自然資本を転換する代わりに保護する場合、どのようにして経済的リターンを得ることができるでしょうか?それは一見難しいように見えますが、実際には実現可能です。そのカギを握るのは公共財と私有財を束ねることで、公共財が私有財の価値を高めることになります。

農業について考えてみましょう。再生農業に取り組むことで、土壌の質が向上し、農産物の収穫量と品質が最適化されます。その結果、生産された農作物が認証を受けた場合、農家は価格を引き上げることが可能になります。森林に目を向けると、森を保護することでエコツーリズムの人気が高まり、ホテルは宿泊料金を引き上げることができるほか、ツアーガイドなどの需要が拡大します。また、都市公園を整備することで、公園周辺の不動産価値が高まる例もあります。

こうした投資は経済的リターンや生物多様性に関するリターンをもたらすのに加え、生物多様性の保護は、システミックリスクに対する投資家のエクスポージャーを減らす上でも役立ちます。つまり、世界の国内総生産(GDP)の50%以上が自然及びそれが提供するサービスに依存していることを、投資家は認識する必要があります。さらに、生物多様性の危機は気候危機と深く関わっています。気候危機に対処するには、生物多様性の危機に取り組まなくてはなりません。

生物多様性の喪失がますます気候変動と並んで解決すべき世界的な課題とみなされるようになっている中で、投資家は何を念頭に置いて行動する必要があるのでしょうか?

Max Lulavy氏、アライアンス・バーンスタイン 環境リサーチ部門アソシエイト: 人間の経済活動をより自然に配慮した形に変えるために、どれほど多くの課題があるかを強調することは重要です。資金ギャップは年間1兆米ドル近くに上ると推定されています。これは非常に多いように見えるかもしれませんが、生態系サービスが崩壊すれば、世界の国民総生産(GDP)が年間2.7兆米ドル損なわれる可能性があります。

そうした資本の流れを可能にするためには、混合型のファイナンスや自然に関する他の収益化メカニズムなど、新たな資金調達メカニズムを支援する必要があります。民間資本も、この資本フローを生み出すために不可欠な要素です。経済的目標と生物多様性に関する目標を達成するために、投資家はリスク、経済的リターン、生物多様性リターンの3つの側面について考慮しなければなりません。この資本フローを促進及び補完するためには、効果的な公共政策も不可欠です。

最後に、資産運用会社にとっても投資家にとっても、リスクと機会の両方の観点から実務的にこのシステミックな問題を考慮することが不可欠です。リスクの観点からは、ポートフォリオにおいて、生態系サービスに依存していたり、規制や消費者行動の変化によって影響を受けたりする可能性のある企業の存続性を確認するため、移行リスクと物理的リスクを評価する必要があります。機会もまた膨大にあります。世界経済フォーラムの調査によると、2030年までに10兆米ドル相当の機会がもたらされると見込まれています。

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